テンプレ世界の小英雄

高垣 琴

第1話 プロローグなのに俺の人生エピローグ



「君さ、なんか、こうアピールできるもんとかないの?

ほら、自分は大工の仕事を手伝ってたんで力仕事は任せて下さい!とか、商家の出なんで多少の書類整理と会計が得意です、とかなんかないの?」


そう言うのは、冒険者ギルドの支部長。仕方ないだろ俺には、なんの特技もない。

強いて言えば、時々村を通る優しい商人か、頭のいい冒険者から教えてもらった少ない知識と口笛くらいなものだ。そもそも、大工や商家の出ならこんな辺境のギルドで面接なんて受けずに、もっと都市の方で正社員の職に就いて真面目に働いているに違いない。


その後、さもそれが当たり前だったかのように俺は面接には落ちたが。



「お前ってほんと、普通だよな。顔も普通で能力も普通。もはや普通なのが特徴とかそういうレベル。都市とかの人が多いとこに入ったらすぐにわからなくなる位に普通だよ。最近でも、俺お前の顔どんな感じだったっけって思い出せないことあるもん。」


それは、18年も同じ村の孤児院で一緒に育ってきた幼馴染の言葉として、どうかと思うぞ。せめて、毎日みた友人の顔くらいは覚えていて欲しいものなのだが。それともお前は既に俺が気づかない内に、物忘れする年になっていたのか。


そんな会話をすると絶対、次の日の朝に顔を合わせた時に、「え?どちら様ですか?」と冗談で聞かれて、俺は、心に傷を入れられるのだ。



「アンタは、最弱の魔物のゴブリンの二十匹すら、狩るのに5日もかかるとか何してんの?ギルドの受付係としては、ほんとは言っちゃダメなのかもしれないけどさ。

こんなに弱かったら、オークとかの他の魔物なんてどうすんの?っていうより、こんなんだったら、金すら稼げないしこれで食ってけないよ?もっときつく言うなら、君には向いていないし、やめて他の仕事探したほうがいいよ?」


ギルドの受付のおばさんよ。言っちゃダメそうなことをわざわざ俺に言うなよ。

今回は、なんていうか、一回に遭遇する数が一匹や二匹ばっかだったんだよ。ゴブリンが二十匹がまとまっていたら普通に一日で狩れたし。

いや、嘘です。ごめんなさい。二十匹もいたら普通にこっちが狩られるわ。




 とまあ、そんな感じで、普通でなんの特技もない俺だったわけがこうして回想をしているのは、その俺の18年間の生涯が今、幕を閉じようとしているからである。俗に言う走馬燈というやつなのであろうか。


でも、自分の人生を軽く見て改めて思う。



 走馬燈も多少というか結構途切れ途切れで、最近のことばかりではあったが、覚えていなかった部分を多少考慮したとしても、あいつの言っていた通り俺の人生は、とてつもなく平凡で普通のつまらない人生だったんだろう。


 他の人でも青春の甘酸っぱい恋愛だとか事件的な出来事だとか、まだ色々とあるだろう。なのに俺の18年の人生にはそういった物事が一切なかったのだ。

なんであの幼馴染は、こんな俺と一緒に行動していたんだろうか。

顔は恨めしいほどに端正で身体能力も高く多少やんちゃな所があり、そしてカリスマが有り余るほどにあった。結論としてはモテたのだ。あいつのようなモテる奴は、後に英雄譚に出てくる英雄か童話の勇者のような立場になっていることだろう。

 何故か一緒だった買い物帰りに、女の子が待ち伏せであいつを告白した時の俺の場違いさを身に染みて感じる思いと、俺がいることで起こる俺の気まずさなんてあいつには到底理解しえないものだろう。


でもまあ、あいつが居て本当に精神的にも肉体的にも、助かったことはいくらでもある。あなたの命の恩人は?と聞かれれば俺は間違いなくあいつの名前を出すだろう。

それこそ、俺が女だったら責任とって結婚させる位に。まあ、これはうそだが。

 

 今回に関しては、あいつが居なかったときに、いつもは二人でも行かないほどの森の深い場所まで行き、依頼者の忘れ物を探してくるお使いを受けてしまった俺が悪い。

後は、そこに偶然、大鬼オーガという魔物が居る森にも滅多に出ない化物が居たというだけ。まあ空気中にある僅かな魔力が長い間、溜まって自然と生まれる可能性もあるらしいから、ギルドのミスってわけでもなく、誰かに嵌められたということでもないだろう。

俺が行方不明になったのを機に大鬼オーガギルドの人らが国に報告したら、じき討伐隊が狩ってくれるだろう。


強力な魔物が発見される場合は、偶然発見されて、無事に帰ってくることもあるらしいが、ほとんどが、行方不明者の捜索中と聞いたことがある。結局、行方不明者はその魔物に殺されたと判断されて、行方不明者捜索クエストから魔物討伐クエストに変更される。

そういった感じで、まず犠牲者を出さない限りほとんど場合、強力な魔物は発見されない。


誰かがなるかもしれなかった犠牲者の役が今回は俺に回って来たというだけ

所詮、あいつは運が悪かったといえば終結する話。

それで、俺という一人の存在は消えるのだ。


まあ、もし転生ということが起きるなら、あいつへ18年分の恩返しをしてやりたい。


そんな来世のことを考えている間に支給品で貰った多少の回復ポーションは底を尽き、体がひどく休息を求めるようになってきた。

先ほどから、三十は振られているその拳は、一つ一つが、俺にとっては必殺の一撃である状況に俺の体は刻一刻と死に迫っていく。

疲労により平常時よりも格段に動きが衰え隙が多くなる。その隙をこの大鬼は見逃さなかった。自然と鍛え抜かれた腕は岩よりも固そうな拳を振るい、直前まで俺が居た大地に大穴をあけ、必要最小限の動きで次の動きに繋げていく。それはまるで熟練されたの技のような動きだった。その拳は今までの速度を大きく超え、気付いたら目の前に拳が瞬間移動でもしたかのようにそこにあった。


そうして、勇者あいつの友人であった俺はオーガの拳に一撃で殺された。









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