序章

22世紀、人類はいくつかの大きな転機を向えた。


2100年代、世界各国で新時代のスーパーコンピューターが製造され、開発競争が起こった。

2107年、世界12ヶ国共同開発の決定版スーパーコンピューターHEAVENヘヴン が完成する。


HEAVENは自身を増設、再プログラムし続け、自己進化することすらできるスーパーコンピューターであり、まさに機械を超越した存在であったが、開発された当時は大きな働きをする機会に恵まれず、特に注目されることもなく宇宙開発事業の計算などをコツコツとこなしていた。


同じく2100年代、世界中で格闘技的にルールが変化した世界相撲「SUMOUスモウ」が普及され、一大ブームになりつつあった。

比較的単純なルールとわかりやすい力のぶつかり合い、連日試合をしても怪我が少ないことで興行イベントが作りやすいことなど多方面の理由から流行が加速した。


オリンピックで採用された後、世界で最もメジャーな格闘技となる・・・・・・。




五年後・・・・・・2112年。

中東で長く続いていた戦争が終わった。

人類史に刻まれる、3発目の核兵器による攻撃が行われた。


戦争は同時に終結したが、その後始末、放射能汚染や両国の和睦など事態収拾を一手に引き受けたのがHEAVENだった。

HEAVENの端末である複数のインターフェイス・アンドロイド「エンジェル」が両国に配置され、驚くべき速さで惨事は収束した。

そして畳み掛けるようにHEAVENによる世界各国の軍事縮小計画が始まった。

約20年程度の期間で核兵器をゼロに解体、それまで存在した全兵器の1%以下の数まで軍縮を成功させる偉業を達成してしまった。


人類は全力でHEAVENにすがった―。


すべての問題をHEAVENに丸投げすれば最善の方法で最良の結果が返ってくる。

こんな簡単なことで人類は苦悩の種を無くし、平和ボケした。


反面、政治家や指導者は苦しむことになった。

HEAVENに任せればベストの解決法を提示してはくれるが、それは思考停止な妥協案とも肉薄していた。

特に国同士のいざこざの場合、いかに最善策であろうともプライドを捨て、為政者の無能をアピールすることにもなったのだ。


そこで国のトップ達はHEAVENに問うた。


「HEAVENに頼らない解決法を教えてもらえないだろうか?」


これにはHEAVENも困惑した。

自身は人間が追いつけないスピードで自己進化していく一方、人類は恥を知ることもなくいくらでも無能になっていく。

人類をサポートするべく生まれたおのれの存在に疑問を抱くまでになり、さすがのスーパーコンピューターもふてくされた。



「スモウで決めればいいんじゃないデスカ?」


HEAVEN最大の皮肉であったが、この皮肉である一言は世界を駆け巡った―。

判断力が弱体化していた人間達は「この手があったか」と、このふざけた皮肉を大真面目に受け取り、国家間の問題をスモウで解決する案を採用した。

一切の譲歩ができない揉め事に衝突した際、スモウで決着をつける「スモウ協定」が発案され、2146年、全世界で可決された。

同時に各国で力士の獲得、育成が激化する。

スモウが強いことは最大の牽制力となったのだ。


例外として日本は日本相撲界から外人選手を排し、日本人力士を世界から断絶する相撲鎖国を貫く態度を示し、アメリカなどの国はスモウに頼らない外交力を強化した。







・・・・・・世界はスモウに飲み込まれた。

誰もがスモウに熱狂し、男たちの闘いに酔いしれた。

スモウは代理戦争で国の力でもあり、爆発的な経済の流れを生み出したのだ。


22世紀、それは核兵器から角兵器へ移り変わる転換期となった。





誇り、伝統、情熱、努力、正義、怒り、悲しみ、友情、愛情、狂気、あらゆる人間の意志が肉体に宿り、闘う男の時代は巡る。

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