童話転生奇談(中断中)

fuura

第1話 幻十郎と蛙

真っ暗な夜道。


突然の黒い集団。


バラバラと提灯を投げ捨て、店主と番頭が一目散

に逃げ去った。


襲ってきた相手は6人。

いずれも黒い覆面で顔を覆っている。


命を狙われていると、幻十郎に用心棒を頼んだ店

主と番頭が逃げたというのに、この刺客達、逃げ

た店主達には目もくれず、なんの躊躇とまどいをみせず

幻十郎を取り囲んだ。


笠岡の下卑た顔が頭をかすめた。


あの男に嵌められたか

・・・


胡散臭い話だとは思ったが・・こう言うカラクリ

か。


どうやら狙いは私らしいそう、悟った幻十郎は、

ススっと身を大木の背に張り付かせた。


六人とも、中々な手練だ。

手加減などしていては、我が身が危ない。


スラリと引き抜いた刀の切っ先を足元に垂らすと

、油断なく六人を見渡した。


中ほどの一人が、頭目らしい。


この男の殺気は相当なものだ。


目線の合図と同時に二人の刺客が小さな気合とと

もに、幻十郎に切りかかってきた。


難なく交わした。


交わし際二人の、胴と背を切り裂き、切った相手

には目もくれず残りの四人に切っ先を向ける。


ザザッと四人の輪が広がった。


幻十郎の腕を見くびっていたようだ。


互いに目線を交わしあっている。

切っ先が少し震えていた。


今だ!


幻十郎は自ら切りかかって行った。


攻撃は最大の防御だ。


左、右、そして腹部に突きと、あっという間に、

三人が呻き声と共に崩れ落ちた。


残った頭目らしい男が、林の中から一般道に逃げ

た。


いや・・

逃げる気はないらしい。


足場を確認すると、その刀を中段に構えた。


ギラつく眼差しを幻十郎に向けると、やにわに、

黒覆面を片手で剥ぎ取るや、地面に放り投げた。

殺せばいいし、失敗すれば死ぬだけだ。

覆面など用無しと考えたのだろ。


眼光鋭い、精悍な男だ。

相当な腕前だ。


「何ゆえ私を狙う」


男がニタリと笑った。


と・・突然

そのまま切っ先を幻十郎の喉元に二度三度と、突

き刺してきた。

軽くいなしながら


「喪心流か」


呟けば、男の顔に狼狽が走った。


「邪剣と忌嫌われ、その流派は無くなったと聞

 いていたが」


なおも呟く幻十郎に、男はさらに突きを放つ。


軽やかな足さばきで、すんでのところで、その突

きをかわす幻十郎に、男は、それでも執拗に突き

を放つ。


と、突然


月明かりの中、幻十郎の足もとに、一匹の蛙が現

れた。


刺客の突きをかわしながら、このままいけば、蛙

を踏みつぶす・・


咄嗟に思い、ほんのわずか足元をずらした時、隙

が生まれた。


中々の手練だ。

この隙を見逃すはずがなかった。


男の放った突きが、幻十郎の腹部に深く突き刺さ

った。


離れ際、幻十郎も負けじと男の脇腹に刃を突き刺

した。


相討ちだ。


そのまま離れた二人は、しばらくにらみ合ったま

ま相手を見据えていたが、やがて、男は剣を鞘に

納めると


「とどめはいらぬな」


そう言い捨てると闇の中に溶けて行った。


確かに、このまま捨て置いても幻十郎は死ぬ。

致命傷ではないが手当をしなければいずれ死ぬ。

男はそう見切って闇に姿を消したのだろう。


突かれた腹からはおびただしい血が流れ出してい

た。


このままでは、間違いなく死ぬだろう。


そう思いながらも、幻十郎は、月夜に光る蛙を見

ていた。


「お前のせいじゃないぞ。我が未熟のせい・・

 いや天命やもしれぬな」


そう微笑みながら、幻十郎は刀を鞘に納めると、

鞘ごと刀を抜き、杖代わりに、歩きはじめた。


天命とはいえ、死骸を道端に据え置くのは幻十郎

の流儀ではない。


確か、この先に常磐津の師匠の家があった。

師匠には迷惑だが、私を葬ってもらうにはうって

つけだ。


最後ぐらいは美しい人に看取ってもらいたいし・・


ぼんやりとした視界の中に、見おぼえある常磐津

の師匠の家が見えた時、幻十郎はそのまま深い地

の底に引きずり込まれて行った。

    

     続く

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