第31話「理由」




「はっ!」

「あ、目が覚めましたか。マサヤ、おはようございます」


 目を開けるとそこには俺を覗き込むるりりんの顔があった。

 え、何これ? 顔が超近いんだけど、それに頭の裏から伝わるこの感じはもしかして!


「何だ。るりりんの膝枕か……」

「おい、何で膝枕の相手が私だと認識した途端に落胆するのか教えてもらおうか?」


 いやいや、別にるりりんの膝枕が嬉しくないわけではないんだよ? ただ、こう……膝枕をするならもっとアプリみたいにスタイルバツグンな女の子が良いなって思っただけで……だって、ほら俺はロリコンじゃ無いしね?


「やぁ、目が覚めたみたいだね」


 すると、そこには俺を倒したミツルギの姿もあった。


「カツラギ……いたのか」

「僕はハゲでもズラでも無い! 僕の名前はミツルギだ! どうして、君達も僕の名前を覚えてくれないんだ!」


 君達もって……え、何? コイツ他の奴にも名前覚えられてないの? 何それかわいそう。かわいそうだから、俺だけは今後もコイツの名前は間違え続けてやろう。


「それで、お前が何の用だ? まさか、俺が心配で起きるまで待っていたとか無いよな?」

「それも少しはあるけど……本題はあれだよ。勝負する前に僕達がした約束を覚えているよね?」


 ミツルギはそう言うと俺に向かって勝ち誇った笑みを浮かべた。うわ、その顔マジでムカつくな。てか、コイツは仮にも上級の冒険者のくせにこんな駆け出し以前の冒険者に勝ってなんでそんなに嬉しそうなんだよ。弱いものいじめって知ってる?

 だから、俺はミツルギの言葉に仕方なく。


「いいや、知らん。るりりん俺って勝負する前にコイツと何か約束したっけ?」

「いいえ、何もしていませんでしたよ?」

「凄い掌返しだな!」


 掌返し? はて、なんのことやら?


「え、マジで何か約束したっけ?」

「しただろう! 僕が勝ったら彼女達は僕のパーティーに入る約束だったじゃないか!」

「おい、お前らコイツがなんかそんな事を言っているんだが、お前ら的にはコイツのパーティーに入りたいか?」


 俺がるりりん、マリア、アプリの三人に尋ねた。


「あ、すみません。生理的にナルシストは無理です。思わず炸裂魔法を撃つくらいに……ええはい、撃って良いですか?」

「私もパス。お金は持ってそうだけど、何だかコイツ成金見たいな臭いがして気に食わないわ。それにさっきからアクシズ教徒でもないくせに私達のアクア様を知っているかのような口振りが何よりもムカつくわね」

「私もコイツのコレクションの一部に成り下がるつもりは無い。それにこんな強そうなパーティーに入ったら私の獲物が直ぐに倒されてしまうでは無いか」

「っと、言うわけだ。残念だったな」


 しかし、ミツルギは三人から拒否られたにもかかわらず、何故かその顔には少しの余裕が残っていた。


「ああ、確かに残念だよ。だって、そんなにも優秀な仲間がいるのにそれを世の中の役に立てることが出来ないんだからね」

「何?」

「だって、そうだろう? 彼女達はそれぞれがアークウィザードにアークプリーストとクルセイダーだ。どれも、この見習い冒険者の町にいるのがおかしいくらいの上級レベルの冒険者じゃないか。そんな彼女達がこの町にいるのは君の所為だよ」

「俺の所為だと?」

「ああ、もし彼女達が僕とパーティーを組めば僕達のパーティー戦力は大幅に上がる。そうなれば本当に魔王討伐も夢ではないだろう。彼女達にはそれだけの能力があるんだ。なのに、君がこの町に彼女達を縛り付けている所為で彼女達の可能性を君が潰しているんだよ!」


 確かに、ミツルギの言うとおりこいつらは能力だけは一流だ。だから、ミツルギとこいつらが組めば魔王討伐できるパーティーになりうる可能性もあるだろう。


「今一度聞こう……人類のために! 魔王を討伐するために! 僕達のパーティーに彼女達を預けるつもりは無いか? 君と僕とではどちらが強いかは先ほどハッキリしただろう? 僕の方が君よりも彼女達の力を上手く導ける。だから、僕に彼女達の力を貸してくれ!」


 ミツルギの言うとおりここで、るりりん達を引き止めるのは俺のエゴであって人類のためにも魔王を討伐するためにもならない。むしろ、この町にこいつらがいるのは人類にとっては大きな損失かもしれない。だって、俺には正直言って魔王を討伐する気は無いからな。だから、俺がるりりん達といても魔王との戦争には役に立つ事は無いのだ。なら、ミツルギの言うとおりにした方がいいのは誰が考えても明らかだ。


「ま、マサヤ? まさか……」

「ねぇ! マサヤ! 何かあのイケメンに言い返しなさいよ!」

「そうだぞ! マサヤ、私達はあんな奴の仲間にはならないと言っているんだからな!」


 そして、俺は自分の決断を口にした。


「そんなのノーに決まっているだろうバカやろう! さっきからお前は何だ? 能力がどうだ。こいつらの力が人類の役に立つとか、てめえはこいつらを戦力しか見てねえじゃねえか! そんな奴に俺の大事な仲間を預ける事なんかできるか!」


「「「ま、マサヤ……ッ!」」」


「大体、お前こいつらのこと過大評価過ぎるだろ! こいつらって職業だけは上級職だが、能力で言えばかなりポンコツなんだぞ! 俺が毎日毎日、どれだけこいつらの所為で苦労をしているのかてめえは知ってるのか!」


「「「ま、マサヤ……?」」」


「え、あ……うん。なんか余計な事を言ったみたいですまない。しかし、すると君は結構このパーティーで苦労しているみたいだけど……じゃあ、何で君は彼女達とパーティーを組んでいるんだい? やっぱりそれは彼女達の力を君も求めているからじゃないのか?」


「「「うんうん!」」」


「いや、それは無い」


「「「え!」」」


「俺がこいつらとパーティー組み続けているのはこいつらが美少女だからだ!」


「「「それだけ!」」」


「ああ! 理由なんてそれだけで十分なんだよ! おい、アブラゼミ!」

「僕の名前はミツルギだ!」

「お前は自分方が強いから自分のパーティーにこいつらが入るべきだって言ったな? じゃあ、つまりは俺がお前より強ければいいんだよな?

 いいぜ、俺の本気見せてやる! もう一回勝負しろ!」

「うん、いいだろう受けて立つ! しかし、君が再び勝負を仕掛けるとは意外だったよ」

「実は俺には嫌いな物語の展開が二つだけあるんだ……」

「嫌いな展開?」


「ああ、一つは誰得なオリキャラの登場……そして、もう一つは寝取られだ!」



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