第18話「直感」




 俺達はダンジョンを舐めていた。

 そう、結果だけを言うとそう言う事なのかもしれない。

 元々、このダンジョンに人気が無いと言うのはマリアの話しからも分かっていたんだ。だけど、それはダンジョンが探索されつくしていてお宝とかが無いからだとも思っていた。しかし、本当の理由は――……


 ピキューッン!


 その時、俺の『直感』が何かしらの危険を察知した。


「おい、るりりん。ちょっと止まれ」

「どうしたんですかマサヤ? 私にさんざんビビっているとか言っていたくせに――」


 そして、俺が呼び止めたにもかかわらずダンジョンの中を歩き続けた、るりりんは次の瞬間いきなり目の前に出現したチョコだらけの落とし穴の中へ吸い込まれていった。


「あーあ、だから止まれと言ったのに……」

「ちょ! マサヤ、そんな悠長な事を言っている場合か!」

「る、るりり――ん! ちょっと! この穴すっごく深いんですけど! あの子は大丈夫なんでしょうね!」


 いや、俺の『直感』からしてそこまで危険な感じしなかったから大丈夫だとは思うが……

 案の定、るりりんは穴の底から繋がっていた出口から無事に俺達と合流する事ができた。


 しかし、問題なのは見て分かるとおりこのダンジョンのトラップだったのだ。



 ピキューッン!


「マリア、上から何か降ってくるから気をつけろよ」

「え、ってウギャアアアアアアアアアアアアアア!」


 いきなり洞窟の天井から大量のあんかけが降ってきたり……


 

 ピキューッン!


「アプリ、後ろ……いや、前! あれ? 上、下、右……なんか全部注意しろ!」

「は、はぁああ? ちょっと待て! 一体何を――て、ひゃぁあああああああああああ

あああああああああ! ご、ゴキぃいいいいいいいいいいいいい!」


 突然、先頭を歩いていたアプリにメスのカブトムシの大群が襲い掛かってきたり……



 ピキューッン!


「――っ! るりりん、危ない!」

「え、マサヤ……そんな突然に私の体を抱き寄せたりなんかして――え、何で私と体の位置を入れ替えたりするんです――かぁああああああああああああああああああああ!」


 音も無く、俺の背後から冷たい冷水が水鉄砲のように狙いを定めて飛んで来たりするのだ。




「もう! 何なんですかこのダンジョンわ!」

「本当よ! 三歩あるけばそこらじゅうからヘンテコな仕掛けが飛び出して……おちょくっているとしか思えないわ!」

「全くだ! ダンジョンだと言うのに道中モンスターが全くでないからストレスが溜まるばかりだ! ええい、何処かモンスターはいないのか! この溜まったストレスをそいつに向かってネチネチと発散してやる!」


 ごらんの通り、俺のパーティーの女性人は全員怒りまくっていた。


「おー皆荒れてるな……」

「てか、何でマサヤはさっきから一度もトラップに引っかからないんですか!」

「そうよ! そうよ! マサヤ、私やるりりんや、アプリがこんなにも酷い目にあっているのにアンタだけが無傷なんて酷いわ! ちょっと、ボコボコにしてあげるからこっち来なさい!」


 ひでぇえ……とても、プリーストのセリフとは思えねぇよ。


「ふん、そうだ。マサヤ、お前までトラップにかかれとまで言わないからせめてお前をいたぶる事でこのストレスを発散させてくれないか?」


 おい、クルセイダー。仲間を守るべき盾のお前まで何言っちゃてんの?


「でも、マサヤだけなにも被害を受けないのはおかしいですよ!」


 るりりんまで……


「うーん、おかしいと言われても俺がトラップをくらわないのは『直感』のスキルがあるおかげだしなぁ……」


「「「え?」」」


 俺がそう言うと、皆が驚いた顔で俺を凝視した。

 ん、俺何かおかしな事言った?


「ま、マサヤ……『直感』のスキルとは一体なんの事ですか?」


 たどたどしく聞く、るりりんに俺は答えた。


「え、あれ? 言って無かったけ……? 確かこの前ダンジョンとかを敵の多い場所でも大丈夫なように『敵感知』『罠解除』『潜伏』とかのスキルを取っておこうかと思ったんだけど、この町は見習い冒険者がほとんどだからそれらのスキルを持っている奴もいなくて代用として『直感』のスキルを覚えたんだよ」

「ねぇねぇ、マサヤさん……その『直感』のスキルって一体どんな効果があるのかしら?」


 妙に大人しくニコニコした笑顔で聞いてくるマリアに俺は答えた。


「うーん、簡単に言えば勘がめちゃくちゃ良くなる。自分の身に危険が近づくと直感で分かるようになるんだよ」


 直感の制度はそのスキルの持ち主の幸運のステータスに依存するらしい。幸いなことにおれは幸運のステータスは高いので結構な確率でスキルが発動して罠を避けられるのだ。


「なぁ、マサヤ……詳しく聞きたいのだがその『直感』のスキルはどの程度の範囲や状況まで危険を感知できるんだ?」


 何故か、無駄にドス黒いオーラを放ち始めたアプリが剣をペチペチと叩きながら俺に近寄り尋ねてきたので俺は素直に答えた。


「そうだな…………具体的に例えるのは難しいけどさっきから、るりりんが穴に落ちたり、マリアの頭上からあんかけが降ってきたり、アプリに向かってメズのカブトムシが突撃したり、俺の背後から何かが来そうだったから、るりりんと体を入れ替えて防いだあたりのトラップは全部感知してたぞ」



「「「全部!」」」



「うぉ! 何だよ……いきなり叫ぶと驚くじゃないか?」


 すると、突然マリアが「キーキー」言いながら俺の首を絞めに来た。


「何だよ……じゃないわよ! こっちはトラップで酷い目にあったんだから、そんなスキルで分かってたなら早く言いなさいよね!」

「ちょっと待ってくださいマサヤ……なんか、最後の方のトラップだけ意図的に私がマサヤの身代わりになってませんか? 炸裂いきますか? 炸裂、炸裂……んん?」

「ふふふ……そうか。マサヤ、お前はこの私が角の無いカブトムシをゴキと勘違いして悲鳴をあげるのを分かっていて見逃したと言う事だな? ふふふ……いいだろう。

 ぶち殺してやる!」

「え……ちょっと待てください皆さん? 一応、俺も皆に警告は……ひゃああああああああああああああああああああああああ!」



 それからは俺の『直感』スキルにより、一度もトラップにひっかかることなくダンジョンの最深部までたどり着く事ができた。



「たたた……たく、何でモンスターがいないダンジョンで仲間に襲われなきゃいけないんだよ」

「それはマサヤが全面的に悪いと思います」

「そうねー」

「うむ、そうだ」


 畜生、女性陣は敵か……


「さて、ここがダンジョンの最後の部屋みたいだな」

「ここのダンジョンで扉がある場所はここが初めてですね」

「ねぇ! ここってこのダンジョンの最深部なんでしょう! ってことはここは宝物庫じゃないかしら!」

「よし、では開けてみるか!」


 そして、最後の部屋に着いた俺達がその扉を開けると――


「ん? この我輩の趣味で作ったなんちゃってダンジョンに来てしまった難儀な冒険者はお前達か?」


 そこには白と黒の仮面を付けた男がいた。


「いや、お前は誰だよ……」




「我輩か? 我輩の名はバニルだ」



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