第14話「宿(馬小屋)」




「まぁ、なんだ……マリア、今日は助かったよ。出来ればこれからもよろしくな」

「ふん! 助かったと思うのなら、もっと私の分け前増やしてよね!」

「それは断る」

「ムキーッ!」


 結局、あの後俺達の取り分はきっちり三人分に分けてあまった金額はじゃんけんで買った奴の物にした。

 え、誰がじゃんけんに勝ったかって? 知っているか? この世界でじゃんけんとかギャンブルの結果はステータスの幸運に依存するんだぞ……ええ、モチロン勝ちましたとも。

 てか、負けて悔しがるマリアの声って何処と無くチンパンジーの泣き声に似てるな。


「でも、本当にお前がパーティーに入ってくれて助かったよ。アークプリ―トなだけあってスキルも魔法も凄いし、なんたって支援魔法とヒールの存在はありがたいな。うん、ここに来て初めてまともな魔法を見た気がするよ」

「おい、マサヤ……そのセリフにはまともじゃない魔法を見たという意味が含まれているように聞えるのですが、貴方が今まで見てきた炸裂魔法はどんな魔法なのか教えてもらえますかね? ええ、返答しだいでは今から放たれるであろう魔法がどれほどまともではないのかその身で味わう事になるでしょう……」


 そう言うるりりんの目は笑っていなかった。てか、むしろ赤い瞳が発光し今にも「ぶっ放す準備は万全です!」って感じだ。


「じゃ、じゃあ私はお先に帰らせてもらうわね」

「あ! こら、マリア! 一人だけ逃げるのはずるいぞ!」


 その後、俺はるりりんの機嫌をなだめる為に、じゃんけんで得た分の報酬を使い買った無駄に高い眼帯のプレゼントでなんとか許してもらう事になった。

 とほほ、せっかく得た俺の報酬が……てか、なんで中二臭い眼帯があんなに高いんだよ! 店主のおっさんが紅魔族の里で作られた特注品だとか言ってたが絶対にウソだろ。いや……でも、むしろあんな中二アイテムを常人のセンスで作るのも難しいし案外本当に紅魔族の里で作られた特注品なのかな? うん、むしろ、あんなセンスの人間が紅魔族以外にいるなんて考えたくもねぇよ。


 それから、俺とるりりんは昨日も泊まった馬小屋に泊まる事にした。最初の内は金も無いししばらくはここに泊まろうと言う事になったのだ。もちろん、個別で部屋を借りれるわけでもないので俺とるりりんで相部屋だ。


「はぁ、やっぱり駆け出し冒険者だとしても、もう少しまともな宿に泊まりたいですね」

「仕方ないだろう? だいたい、もう数ヶ月したら冬だし、冬の時期はクエストも減るから今のうちに冬の間寒くない宿に泊まれるだけのお金を貯めて節約しようって言ったのはお前じゃないか?」

「そうですが……やっぱり風呂なしトイレ共同で馬小屋っていうのはやっぱり私が思い描いていた冒険者とはかけ離れています」

「まぁ、確かにな……」


 実際この町に来た当初はアニメとか漫画で見たようなギルドが出てきて「うぉーっ! これで教から俺もアニメみたいな冒険者生活が幕をあける!」って思っていたが、蓋を開けてみれば駆け出し冒険者が受けれる安全なクエストなど皆無であり、そんな俺達が金を稼ぐには日雇いの労働者か多少危険でも命がけのモンスター討伐クエストをうけるしかないのだ。幸い俺達は「何が楽しくて異世界に転生したのに日雇い労働者なんかするんだよ! そんな異世界転生聞いたことねぇぞ!」っと、俺がキレそうになったが、幸い俺にはるりりんっという高火力持ちの仲間がいたおかげでなんとか日雇い労働者をやらずにモンスター討伐のクエストで食っていく事ができた。しかし、これ俺が一人だったら絶対に日雇い労働者ルートしか道残されていなかったぞ……


 俺はため息を付きながらるりりんと同じ藁のベットに転がった。


「はぁ、確かにいつまでも馬小屋で生活も嫌だな」

「そうでしょう? ですから明日からもっとクエストをこなして早く宿で暮らせるお金を貯めましょう!」

「そうだな……今の稼ぎだと生活費だけで殆ど消えて宿用の貯金とか絶対無理だし……なぁ、るりりんはもっと稼げるようになったらどんな宿に住みたい?」

 

 不景気な話だけでは気分が下がるので、俺はあえてるりりんに明るい話を振ってみることにした。


「そうですね。まずお金が出来たら私は最低限風呂付の宿には泊まりたいです。あとは自分の装備も整えたいですね」

「そうか、そういえば装備は俺の分しかまだ揃えていないもんな」

「ええ、ですから装備を整えて宿を借りて……あとは、美味しいご飯があれば十分です……」

「お前、あんまり欲が無いのな。それだけかよ」

「じゃあ、マサヤは他に何かあるんですか?」

「俺か? 俺はそうだな……やっぱり女だな! せっかく冒険者になったんだからでっかい屋敷でも買ってそこに可愛い女の子沢山引き入れて一緒に暮らすんだ!」

「ふふ、マサヤは欲にまみれていますね……隣にこんなに可愛い女の子がいるのにまだ美少女を求めますか……」

「いや、俺はロリコンじゃないんで」

「ちゅお! それはどういう意味ですか!」

「うわ! 止めろバカ!」


 さっきまで眠そうだったるりりんがめっちゃキレて襲い掛かってきた!


『うるせぇえぞ!』


 しかし、隣の部屋(馬小屋)の人から怒られた。


「「す、すみません!」」


「まったく、るりりんの所為で怒られたじゃないか」

「私の所為ですか……? まぁ、いいですよ。もう眠いので最後に一発これからの気合を入れてもう寝ましょう」

「なんだそら」

「掛け声はエイエイオー! ですよ」

「はいはい……」

「では……これからもっと稼いで少しでも早くこの馬小屋生活を脱することを……めざして――」


「エイエイオー……お?」


 何故か掛け声が俺だけなので隣を見ると……


「……zzZZ」


 すでに、るりりんが寝落ちしていた。


「なんだよ……寝ちまったのか」


 すると、寝ぼけているのか隣のるりりんが寝返りをし、俺の腕をやさしく掴んだ。


「うぅん……マシャヤ……少しでも早く大きな宿に――……zzZZ」


 

 …………うん、もう少しはこのまま馬小屋でもいいかな。



「いや! だから、ロリコンじゃ無いよ?」


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