第7話「クエスト」
緑豊かな草原に一人の可愛い少女の美しい声が流れた。
「縁(えにし)を語る風よ……永久(とわ)を約束する光よ……そして、罰(つみ)を飲み込む夜(やみ)よ! 今ここに我が力を示さん!」
「ゲコ?」
「ゲコッ?」
「ゲコォ?」
近場のカエル型モンスター、ジャイアント・トードがその声に反応してあたりを見渡すが、声の主はそれを気にも止めず呪文の詠唱を終え手にした杖をモンスターの一体に振りかざした。
「プロージョン!」
「ゲコォオオオオオオオオオオオ!」
その瞬間、ジャイアント・トード一体の腹に強烈な爆発が起こり、爆発をくらったジャイアント・トードは仰向けにひっくり返ってピクピクと足を痙攣させた。
それを見て炸裂魔法を放った少女、るりりんは俺に目線で合図を送りバッ! っと、自慢のローブを翻した。
「フラッシュ!」
すかさず、俺も合図に従いフラッシュでるりりんを背後から一瞬だけ照らす。
そして、るりりんがフラッシュと同時に名乗りを上げた。
「我が名は、るりりん! 紅魔族のアークウィザードにして、炸裂魔法を操り者!」
そこで、るりりんからまた合図が来たので俺は再びフラッシュを発動させた。
「フラッシュ!」
そのフラッシュで照らされながら、るりりんはポーズを変え右手を突き出してジャイアント・トードに向かって宣言した。
「凶悪で邪悪なモンスター、ジャイアント・トードよ! この最強の魔法使いるりりんが最強の炸裂魔法で殲滅してくれるわ!」
言い終わると、るりりんが一際強く目線で俺に合図を送って来たので、俺も一際強くフラッシュを発動させた。
「フラッシュ、フラッシュ、フラッシュ、フラ――ッシュ!」
すると、るりりんは三角帽子を深く被り決めポーズを取り、その瞬間に俺のフラッシュがまるでスクープを捕らえるパパラッチ集団のフラッシュ並にパシャ、パシャ、パシャ、パシャ! っと、るりりんを眩しく照らした。
「くっはぁーーっ! 決まりましたね、マサヤ! やはり私の目に狂いはありませんでした! マサヤのスキルは場を盛り上げる演出に絶対合うと思ったんですよ!」
「うるせぇバカやろう! たっく、せっかく手に入れたスキルをこんなことに使わせやがって」
「いいじゃないですか? だって、そのついでにジャイアント・トードを一体討伐したのですから!」
「当然だ! タダでさえ消費魔力が多くて一日10発しか使えない炸裂魔法を登場シーンの演出に使いたいとか言うんだから、使う以上は最低でも一体は討伐してもらわなきゃ意味が無い!」
俺達はあの後、ギルドに行きジャイアント・トードと言うカエル型モンスターの討伐クエストを受ける事にした。なんでも、この時期はジャイアント・トードの繁殖時期らしくこのモンスターは初心者の冒険者にも討伐しやすいのでオススメらしいのだ。
「いいじゃないですか! ジャイアント・トード討伐! 数は5匹と多めですが期限は三日もありますし私の炸裂魔法もまだ9発あります! 一匹に2発撃っても魔力に余裕はありますよ! マサヤ、知っていますか? しかも、このジャイアント・トードは討伐後のモンスターの転送もギルドがしてくれますし、練習の町トライアルではそのジャイアント・トードの肉を使ったカエル焼きが名物として有名なのですよ! ここは是非、今日中にクエストを達成させてそのカエル焼きを食べるしかありません!」
か、カエル焼きって……大丈夫なのか?
「しかし、登場シーンの練習ってなんだよ」
そう、よりにもよってこの、るりりんはクエストを始めるやいなや「マサヤ、実は先ほどマサヤが覚えたフラッシュのスキルですが……あれを使ってカッコいい登場シーンの練習がしたいのですがいいでしょうか?」っと、言ってきたのである。
いやお前……俺のスキルを照明代わりにするなよ。
まぁ、お願いする時のしぐさとか可愛かったからなんとなく協力しちゃったけどさ。
べ、別に俺がロリコンってわけじゃないんだからね!
「ん? おい、るりりん! お前、ジャイアント・トード仕留めきれてねぇえぞ!」
倒れたジャイアント・トードを見るとなんと先ほどの炸裂魔法だけでは威力が足りなかったらしく、ジャイアント・トードが起き上がってきていた。
「え? あ! なんと……この私の魔法を耐えるとは! そういえばジャイアント・トードは無駄に肉が多くて体が厚いですから炸裂魔法の威力を吸収するんですかね」
「るりりん! 冷静に分析してないで早く魔法を撃ってくれ!」
そう言っている間にジャイアント・トードは起き上がり攻撃してきた俺達を敵と認識したのか飛び掛ってきた。
「ひぃいいい!」
「小癪な! これで仕留めてあげます。プロージョン!」
すると、再び飛び掛ってきたジャイアント・トードの腹にるりりんの炸裂魔法が直撃し、今度こそジャイアント・トードは黒こげになって倒れた。
「ふぅ……どうやら炸裂魔法ではジャイアント・トードを一匹討伐するのに2発は撃ち込まないと駄目みたいですね……」
「なるほど、だとしたら5匹討伐しなきゃいけないんだから炸裂魔法は10発しか一日に撃てないんだし、このクエストは二日に分けて進めた方がよさそうだな」
俺がそう言うと、るりりんが俺の制服の袖を引っ張ってきた。
「どうした。るりりん? 何か不満か」
「いいえ、方針に不満は無いのですが……まず、無事に町へ帰れるかが問題ですよ」
「え?」
るりりんに言われて周りを見ると……炸裂魔法の音で起き出したジャイアント・トードの群れに俺達は囲まれていた。
「ゲコ!」
「ゲコッ!」
「ゲコォ!」
「ゲコ!」
「ゲコッ!」
「ゲコォ?」
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