このすばらしいアークウィザードに祝福を!

出井 愛

第1話「プロローグ」




「安藤マサヤさん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終ってしまったのです」


 死んだ俺が聞いた第一声はそれだった。

 目を開けるとそこには人間離れした美貌の女神としか言いようのない女性がいた。

 透き通った水色の髪。

 見た目は若く俺と同じで16歳前後だろうか?

 紫色の羽衣に包まれた体は完璧なプロモーションを保っておりまさに、理想の美少女だ。


 しばらく見とれていた俺は我を戻しその女性に質問をした。


「し、死後の世界? 俺は死んだのですか? あなたは女神様ですか?」

「はい、私は女神アクア。残念ですが……あなたは死にました」


 そうか、やっぱり俺は死んだのか。でも、一体何があって死んだんだっけ?

 確か、高校に遅刻しそうになって青信号になった交差点を飛び出したところまでは覚えているんだけど……はっ! まさか、あの時にトラックにはねられて!


 プッ……クスクス……


 え? 今、なんか……笑い声が聞えなかった? 嘘だよね? だってここ俺と女神様しかいないんだけど、そんな人の死を笑うような……

 っと、思って顔を上げると今にも噴出しそうな顔をした女神アクア様の姿があった。


「プークスクス! も、もうダメだわ! 我慢できない……ぷわっあーはっはっは!」


「女神様! 何で突然笑い出すんですか! 俺死んだんですよね? なのに笑うって失礼ですよ!」

「プーアハハハ! えぇ~だって、これを笑うなって方が無理よ……だって、だって、あなたは交差点を飛び出した時に、バナナの皮で足を滑って頭を打ち付けて死んだのよ……

 そんな面白い死に方を笑うなって方が無理よ! プークスクス!」


「な、なんだってぇええええええええええええ!」


 バナナの皮で滑って死んだぁああ? マジで俺はそんな恥ずかしい死に方をしたのか!


「あーすっごい久しぶりに大笑いさせてもらったわ。多分、これを超える面白い死に方をする人なんていないんじゃないかしら? それこそトラクターに引かれて死ぬ人間が出ないと無理なレベルね」


 トラクターにひかれて死ぬ? そんな人間出るわけねえだろう。バカにしやがって。


「さて、安藤マサヤさん。改めて私の名前はアクア。

 日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ。バナナの皮で死ぬという人生の最後に消しても消しきれない黒歴史を残したあなたに良いお話があります」


 ……こいつ、見た目とは違って中身は最悪だな!


「で、その良い話って何だよ?」


 女神アクア様の話を要約するとこうだ。

 本来なら俺は天国で暮らすか現世に赤ちゃんとして生まれ変わるしか選択肢がない。


 だけど、若くして未練タラタラで死んだ俺には特別に体と記憶はこのまま異世界に転生させてくれると言うのだ。


 何でもその異世界には魔王がいるせいで異世界の人間は死んでも魔王のいる世界に転生するのを拒む所為で、その世界の人口が減りつつあるのだと言う。


「だーから! この女神である私がこっちの人間をむこうに転生させてあげてるのよ! しかも、転生する人間には何か一つだけ、特殊能力とか才能とか武器をもって行かせてあげるのよ!

 あなたは異世界とはいえ人生をやり直せる。異世界の人にとっては、即戦力の人間がやってくる! どう、悪くない考えでしょう?」


 なるほど、ドヤ顔の女神はなかなかにイラッと来たが話しは悪くない。なので、俺はこの話を受けることにした。


「はい、持っていけるものはこのカタログの中から選んで頂戴」


 すると、女神アクアが俺にタ●ンページ並に分厚いカタログを渡してきた。なんか、カタログから持っていけるものを選ぶってなんかの懸賞品に応募している感じだな……

 どれどれ、一体どんなのがあるのかな?


 《怪力》《超魔力》《聖剣アロンダイト》《バナナ》《魔剣ムラサメ》

 

 バナナはもうコリゴリだ……


 そして、俺は数あるものから《伝説剣エクス・カリバー》を選んだ。


「安藤マサヤさん。あなたをこれから、異世界に送ります。魔王討伐の勇者候補の一人として。魔王を倒した暁には――ああもう! メンドクさ! このセリフ毎回長すぎるのよね。

 じゃあ、さっさと行ってきなさい。もし、あんたが魔王倒せたら何かご褒美でもあげるから」


「おい! 待て、何か急に雑になったぞ! これ俺を異世界に送るイベントなんだろ! 手を抜くなよ!」


「はいはいはーい。真面目にやってるわよ。

 願わくばぁー、いっぱいいる勇者候補の中からあんたが魔王を打ち滅ぼさん事を――まぁ、無理でしょうけどね。だってバナナの皮で死ぬような人間だし……

 プークスクス!」

「てっめぇえええええええええええええええええええええええええ!」


 バカにしたようにアクアが言う中、



 俺は泣き叫びながら明るい光に包まれた……!



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