おれのくろかみがーる

anringo

君と雨と嘘

また当てられた。

授業中、クラスに変な沈黙が続くと決まって先生は、俺を指名する。


「宮下、お前いけるだろ。」


まあ、多分あの公式使えばいけるはずなんだけど、これって前の授業でやったとこだろ。

別に進学クラスじゃないんだし、間違っててもいいから誰か手挙げろよな。


俺の名前は宮下優。この高校は家が近かったから受験した。勉強そこまで好きじゃないけど、数学は好きで、有名な先生の親戚がいるって聞いたから、なんとなく受けた。

学校自体は進学校ではないし、どっちかというと荒れてる高校だ。

茶髪、パーマ、金髪、ピアス、みんなやりたい放題。でも、校則は厳しいわけじゃない。授業は意外とみんな真面目に受けてるから、先生達も何も言わなくなったみたい。

ちなみに俺も金髪で、ピアスは痛いの苦手だから開けてない。

意外って言われるけど、しょうがないだろ、怖いんだから。


そんな俺のクラスには、一際目立たない存在。いや、逆に目立つ存在な女子がいる。

真面目を絵に描いたような彼女は、明らかにこの学校に馴染んでいない。

というより、この学校に染まっていないと言うべきだろう。だから余計に目立つ。

だからみんな影で彼女のことをこう呼んでいる。


「くろかみがーる」


彼女の名前は山下夕。簡単な漢字の羅列。たまにたーちゃんと呼ばれているのを見かけたことがある。

黒髪で、分厚い眼鏡をかけ、いつも猫背のその子に、俺はたまに見られている気がした。

そっと見る時もあれば、ちらちら見てる時もある。

でも、凝視はしない、絶対に。目が合うのが怖いのかな。

金髪だしな、物珍しいんだろうな。

彼女は図書委員で、たまに俺も本読むから受付にいる時は彼女が対応してくれた。

目は、もちろん合わないし、言葉を交わすこともあまりない。

黒い髪が綺麗だなと、俺はいつからか思うようになっていた。


昼休み、いつもの連れと屋上に向かう途中にちょっとした事が起きた。


「彼女ともう別れたのかよ。あんなに好き好き言ってたじゃん。」

「しょうがないだろ。全然やらせてくれないんだもん。」

「お前、最悪かよ。女は体じゃないんだぜ。」

「それ以外何があるんだよ。」

「お前、まじで最低だな。わからないわけじゃないけど。」

「宮下、お前どう思う?」


こういう話、別に興味ないけど、やっぱ男って単純だよな。俺も含めてたけど。


「別に。興味ないかな。」

「お前みたいなのがモテるんだよな。世の中ってなんて不公平なんだ。」

「別にモテてないし。」

「いやいやモテ、うわ!」


あれ、くろかみがーるじゃん。ぶつかっちゃたのか。大丈夫かな。


「すみません!」


おうおう、どんだけ早く走れるんだ。秘かに運動神経良いのかよ。


「あらら、びびっちゃったか。」

「あれって確かお前のクラスのほら…あ、くろかみがーるじゃん。お前、完全に嫌われたな。」

「逆恨みとかされちゃうかもよー。」


彼女はそんなことしねーよ。


「やっべ。後で謝ろうかな。」

「別にいいんじゃね。ほっとけば。」


彼女に話しかけるな。彼女に関わるな。

俺はふと、そう思った。


放課後、俺は隣のクラスの茶髪の女子に呼び出された。


「好きなの!宮下君のこと、大好きなの!」


わかってるよ。別に俺そんな鈍感じゃないし。

告白って、何でいつも放課後なんだよ。

何でいつも人気のない所なんだよ。


「ごめん、あんまそういうの興味ないって言うか。」

「好きな人いないんだったら、せめてできるまでだけでも付き合って欲しいの。」


めんどくせ。早く終わんねえかな、この時間。


「そんなの変じゃね?」

「それくらい好きなの!」

「ここ、図書室だから。常識ない人無理だわ。」


図書室は神聖な場所なんだよ。お前の声で汚すな。


「…ひどい!」


ああ、またやっちゃったか。なんか女子ってほんとめんどくさい。

無理だわ、まじで。

あ、あれ?あそこにいるの、くろかみがーるじゃん。見られてたか。

あ、逃げた。相変わらず速いな。


ああ、喋りたいな、彼女と。


その後、俺は偶然彼女と昇降口にいた。

別に待ち伏せをしていたとか、そういうわけじゃない。

たまたま雨が、降っていただけのこと。


「まだ止まないよ。」


思わず話しかけちゃったけど、超びびってるな。


雨は嫌いじゃない。こういうハプニングが起こるから。

嬉しいハプニングが舞い込んでくるから。


「傘、忘れちゃって。」


忘れちゃったのか、俺持ってるんだけどな。


「俺も。今日降るって言ってたっけ?だるいな。」


ちょっとだけ、嘘を付いてみよう。

ちょっとだけ、彼女をじっくり見てみよう。


「俺さ、今姉さん待ってんの。迎えに来てくれるんだよ。駅まで乗せていこうか?」


後で、隠れて姉さんにメールしとこ。

雨、もっと降ってくれないかな。


駅に着いた。あっという間の時間に、このまま彼女を帰したくない衝動に駆られた。

できれば、デートに。どうにかして、デートに誘いたかった。


「じゃあ、また学校で。」

「あ、はい。」


まだ距離あるよな、俺達。こんなに話すの初めてだもんな。

いつも見てるからかな、勝手に親近感湧いてしまう。ほんと厄介だわ。


「明日、暇?」

「暇で…だよ。」


まだびびってるな。しかし可愛いな、“だよ”って使うんだな。


「昇降口で、待ってられる?」

「はい。」

「返事、あんまり敬語多いと…」


もし、俺の見た目とか口調が怖いんだったら、


「デート、してもらうから。」


俺も黒髪にするよ、いろいろ直すよ、君が望むならね。


「したいです!」


ああ、やっぱり可愛い。

今日、雨降って良かったわ。

傘、隠しといて良かった。

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