星巡る二人

絶望&織田

第1話

とある国に天体観測が好きな父を持つ少年がいました。


いつも父に連れられて星を眺める毎日でした。


少年は最初、星に興味がありませんでしたが、父が熱く語る星の成り立ちや妄想を膨らませた話に心惹かれていきました。


しかし、それも長く続きませんでした。


父が病気となり、帰らぬ人となってしまったのです。


残されたのは形見の観測装置だけでした。


少年は夜になると、昔から日課だった観測をするため一人で出かけます。


観測装置を持って観測場所に向かうのです。


父を亡くしてから足取りは重くなっていました。


観測場所にやって来ると少年と同世代くらいの少女が立っていました。


少女は月に照らされて、青白く輝いていました。


少女は無表情で夜空を仰いでいます。


その表情はどこか悲しそうでした。


「君も天体観測?」


少年は観測装置を用意しながら聞きます。


「≡※???@」


少女は外国人なのか喋った言葉はわかりませんでした。


それでも少年は星や天体を指さして、細かく説明します。


少年は楽しげに、そして父を思い出して涙を浮かべていました。


そうして少年と少女は天体観測を終えて、また明日ここで会おうと、ジェスチャーを交えて伝えると、そこで別れました。


翌日。


少年は少女と再会し、星を眺めて語らいました。


もちろん少年には少女の言葉はわかりませんが、星を通じて心が通じているような気がしました。


そうして少年は少女と時を幾日も過ごしました。


少年は時より無表情な少女の顔が、柔らかくなっていくのを感じました。


そんなある日。


少年はポツリと言いました。


「星の輝きって、どこか遠くの惑星が消滅した時の光だって父さんに聞いたことがある……この地球も消滅したらどこか遠くの星で夜空の輝きになるのかな?それって地球の皆が星の一部になるってことなんじゃないかな?僕も君も……僕の父さんも。あとね...父さんが昔言っていたんだ。夜に現れる月は太陽の光を跳ね返して光って見えるのは...地球の人が、僕達が夜でも寂しくないようにするためって。父さんがいつも冗談で言ってたけど。今、思うとそれも間違っていない気がするんだ。この話には続きがあるんだ...それでも月は満ち欠けて...全然見えなくなるのはいつも照らし続けたら寝不足なる人がいるからとか...ははは、笑っちゃうよね?」


少女は少年の言葉を聞くと夜空へと視線を戻しました。


その表情はどこか悲しそうでした。


「ごめん気分悪くした?」


少年は心配になって少女に声をかけました。


少女は少年を見つめると、自分の胸に手を当てて、月を指差しました。


「月?月がどうしたの?」


「;;「::」@」


少女は一つの単語を口走りました。


やはり、意味は分かりませんでしたが、少年には少女が自分の名前を告げたような気がしました。


──私の名前は「ムーン」と。


その日、少年と少女ムーンは別れました。


「また明日会おうね」と約束して。


少女ムーンは一人、その場に残っていました。


それから間もなく少女ムーンの頭上に円盤型のUFOが現れました。


UFOはまばゆい光を照射して少女ムーンの体を浮かび上がらせて船内へと吸い込んでいきました。


少女ムーンは自分と同じ顔の少女達に囲まれていました。


その中で取り巻きを伴い王冠を付けた少女ムーンが言いました。


「先見隊としてお前を地球に送り込んだが、地球人はどうだった?生きるに値する種族か?」


少女ムーンは無表情のまま答えます。


「王女様、私が知る限り地球人は野蛮で幼稚で自分勝手で自然を大切にしない種族で救いようがないです、が……」


「が?」


「無邪気で優しくて星が好きな可愛い一面があります」


少女ムーンは胸を張るように答えました。


その報告を聞いた王女様は取り巻きと顔を見合せ小一時間話し合いました。


そして厳かに言い放ちました。


「地球人は信用ならないので地球を消滅させる」


それを聞いた少女ムーンは悲しげな表情を浮かべ握り拳を作りました。


王女達は地球滅亡を実行するため母船へと向かいました。





翌日。


夜空に沢山の流星群が駆け巡りました。


それがUFOや母船の残骸だと地球人が知るのは後の話。






少女ムーンはUFO船内、機体へと走ると一機のUFOに乗り込み、船数を合わせて月一個分はある艦隊に立ち向かいました。


「貴様、なんのつもりだ!?裏切るつもりか!?」


少女が操る機体に取り付けられたモニターから怒鳴り声が飛び出します。


王女が顔を真っ赤にして裏切った少女へと怒鳴りつけます。


対して少女は無表情で言いました。


「王女様、地球はどうして消えなくてはならいのでしょうか?」


「貴様も知っているだろう!?地球人は野蛮だ!欲望のために資源を食い散らかし、動物を絶滅に追いやり、大気を汚している!いずれは宇宙全体も食物にするだろう!そうなってからでは遅いのだ!」


「地球のように美しかった私達の星...地球では「月」と呼ばれている星をあんな姿に変えてしまった我々が果たして、そんな事を言える立場にあるのでしょうか?」


「黙れ!我々は学ぶことが出来る!同じ過ちは繰り返さない!だが地球人はダメだ!」


「いえ変わりません。地球人も私達と同じように学ぶことが出来ます。私がそうであるように」


「ふん!私のクローンの一人であるお前が何を知ったような口を!」


「王女様、貴女は傲慢です」


「き、貴様!?言わせておけば!私のどこが傲慢だ!?我々が今まで生きてこれたのも私がいたからだ!」


「そう言って、私達の同胞を殺し尽くした貴女は一人孤独になった。そして自分のクローンを作り月の女王になった。地球のようにもう自分で光り輝くことができない月の星に」


「えぇい!えぇい!黙れ!黙れ!!これ以上の問答は無用だ!お前も!地球も星屑に変えてやる!!」


「貴女は間違っています。星屑になるべきは私達です。もう終わりにしましょう」


少女ムーンの乗るUFОはビームの雨を避けて、母船へ雀の涙ほどのミサイルやビームを浴びせます。


しかし、多勢に無勢です。


すぐに他のUFOに取り囲まれ集中放火をくらいました。


塗装が剥がれ、爆音を響かせながら撃沈寸前のUFOに残された手段は特攻でした。


母艦に空いた穴に向けて特攻したのでした。


母艦はまばゆい光に包まれて、周りのUFOを巻き込んで星になりました。


少女は船内で光に包まれながら思いました。


中途半端な(情報漏洩防止のためこちらの言葉は伝わらない)自動翻訳機の省で少年とちゃんとお喋りできなかったこと。


もう会うことはできないけど、星になって少年と出会うことを思いました。


そして、もう一つ叶うなら月になって少年を照らし続けたいと...。






翌日、少年はいつものように観測場所で少女を待ちましたが少女は現れませんでした。


しかし、流星群を見ていると傍に少女がいるような気がしました。


少年の目から涙が溢れて止まりませんでした。


今夜の月は満月です。


青白くも優しく少年を照らし続けていました。


「ムーン...そこにいるの?」


少年は月を見ていると、傍に少女ムーンがいるような気がしました。


理由はわからなくても、少年は何度も何度も涙を拭って流星群と月を見上げ続けました。


「ムーン、僕の名前まだ言ってなかったよね...?僕の名前は『サン』...『太陽』っていう意味なんだって...ムーンが僕を照らすなら僕もムーンを照らすね?照らせてるか全然自信がないけど照らすよ。ずっと...だから今夜も星の話をしようよ」


少年は星と月に手をそれぞれ伸ばします。


届くわけがないと知っていても。


それでも手を伸ばすと柔らかい手の感触が伝わるような気がしました。




おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星巡る二人 絶望&織田 @hayase

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ