鬼畜外道と性転野郎の魔法のような魔法

二ツ木桂

プロローグ

よくある日常と現実崩壊の始まりのような終わり

 4月25日――入学式は終わり、新入生も新しい生活、“高校生活”に慣れ始めてきた頃――

 がやがやと五月蠅い教室の中でかつかつとチョークの石灰を削る音が静かに響いている。

 今や一時間目の授業が開始して何分も経っていないというのに既にその教室では授業というものが成り立っていなかった。

 ある奴等は八人くらいのメンバーで窓側の後ろのスペースでチンパンジーのように手をパンパンと叩きながら笑いまくり駄馬りまくっている。

 ある奴等は教師が目の前で教鞭をとっているのも構わずにスマフォでマルチ対戦ゲームをやっていた。

 ある目の前の人物は机の上にどかりとノートPCを鎮座させときながらエロゲをプレイしていた。


 そんな人間観察をしばし行っていた俺、一之瀬拓夢いちのせたくむはと言うと、他の奴等と何ら変わらないようなことをしていた。耳に音量最大で、鼓膜が破れるのではないのかというほどBGMの鳴り響くイヤフォンをぶっ刺し、聞きなれて空きすぎた曲を子守唄に眠れるわけでもないのに机に突っ伏して寝ている。

 意識ははっきりとしている。身体が怠いという訳でもない。ただ、面倒なだけなのだ。

 身体の姿勢を変えて、顔を置く場所も変える。机に顔面を押し付け此処だという冷たくて居心地のいい場所を見つけては数秒後にはやっぱ違うなと思い、また別な場所を探す。

 眠気がないのに無理やり寝ようとしているのだ。周りの雑多な声が聞きたくないがためにイヤフォンをしているのに耳の傍で鳴るその音が騒々しいとすら思えてきて、何とも言えないフラストレーションが溜まる。

 

 やがて拓夢は目を閉じても眠れるわけでもないと悟り、半ば割り切った感じで机の下裏でスマフォをツムっていた時にそいつはいきなり俺のイヤフォンを奪い取り話しかけてきた。


「やあ拓夢君。丁度三星ちゃんルートが終わり、このゲームを完全攻略し終えたところだから僕とお話をしようジャマイカ!」

「勝手にやっとけ。俺は忙しい。お前にかまってやれるほど俺の時間は無限に残されてねェんだ」

「うむ……ではそのキミの右手に持つその端末機――」

「普通にスマフォって言えや阿保」

「そのスマフォでツムっていることを人は忙しいと言うのかな?」

「価値観の問題だろ。音ゲーをやってる時にいきなり話しかけられるとイラッと来るように、俺がツムってるときに話しかけるのは俺に対しての業務執行妨害なんだよ。直ちにお前は俺に刑を執行される必要があるみたいだなァ? わかったら、邪魔だから机に乗り上げて話しかけんじゃねェ」


 俺はお前の暇を解消してやるほど温厚な性格ではないと、一人愚痴りながらもスマフォをポケットへしまい、目の前の人物を睨みつけた。

 何が面白いのか、その人物はケロッとした態度でニヤニヤしながら俺へと話しかける野郎は浅黄和樹あさぎかずきという、10年来の幼馴染だった。毎日飽きもせず、大々的に俺に話しかけては一方的に話す様はマシンガントークに匹敵する。

 一人勝手にエロゲでも格ゲーでもやってろよと思うのだが、口に出したところでこいつはやめる訳がない。なんせ浅黄和樹という人物はそういう人物なのだから。俺が何をしたところでこいつは変わる余地がない。小学校高学年から俺が浅黄和樹と付き合っていくうえで身につけた対処法なのだ。

 今日もくだらないことを話されながら時間を浪費するのかと思うと溜息の一つも出るというものだろう。


 なんて思いながらも、実のところはこいつの話を聞くのが嫌という訳ではないのだ。

 本当に嫌なら速攻でボコッて口が開けないようにしている。

 なんせ、この学校に入った時点で人生においてのターニングポイントも過ぎたと言っていいだろう。だから今更浅黄和樹の長話を聞いたところで対して俺に悪影響はないのだから。


 ここは日本屈指の不良高校と言われる県内でも底辺中の底辺高校、“朝日ヶ浜高校”と呼ばれている。

 この朝日ヶ浜高校に入ったら人生を溝に捨てるのと同じことだと思え、と言われるほどの最低高校なのだ。

 というのも、この高校に入学する条件というのがなかなか特殊で、その条件というのが高校入学以前に一度でも“犯罪”を犯し、どこの高校にも入学することが出来ないなら誰であっても入れる高校なのだ。

 算数の引き算さえ出来ればそれこそ一般でも入学できるんじゃないか? もっとも好き好んで一般庶民がこんないかれた場所へ来るわけがない。

 日本の末端で人生のなれの果てでもある。希望などある訳がない。

 俺がこの高校へ入学することになったのも言うほどではないが犯罪だ。

 中学の時、地元にある高校のいかれた連中等に絡まれた時、手加減せずに“皆殺し”にしたことがきっかけだった。

 十人十色とよく言うが、群れれば連中等は馬鹿みたいに「猿」になりやがる。それもとびっきり頭の悪い猿にな? 馬鹿な猿共は喧嘩を売ったことによって格上であるこの俺の存在を認知することが出来なかったのがそいつらの死因だ。

 全員“撲殺”にしてやった。

 あえなく俺は中学一年で少年院に送られ、その後あろうことかこの俺の理屈を矯正させようとしたが、結局俺の理屈を変えることなどできやしなかったのだ。当たり前だろ? 俺の考えこそが正しいのだから。


 話が逸れたが浅黄和樹の話をしよう。

 こいつは俺が中学一年で捕まった時、すぐに俺を追いかけてかなんなのか知らないが“親殺し”をしたのだった。

 たった一人の親である父親をなんのためらいもなく殺し、自分で警察に連絡し、自分が親を殺したことを告白し、挙句の果てには俺と同じところへ自分も連れて行けとこいつは言った。

 最初の頃は何を考えてんのかよくわかんなかった。しかし、和樹は相変わらずの態度で俺に接するコイツを見て、探ることを俺はやめた。

 以来ずっと俺たちは幼なじみというカテゴリーに属されている中で犯罪を犯した者同士という奇妙な“対等”関係が続いているのだった。

 だから俺は世界でたった一人信頼できる人物である浅黄和樹を友人として扱うようにしている。


 カズキは俺の皮肉な言葉に意にも返さず無視して、自分の意見を俺に押し付ける。

 話の内容は様々だった。このゲームのエロゲはキャラゲーだから自分の嫁を発見するのにもってこいだとか、昨日スポーツ中継のせいで深夜アニメが延期されたから寝落ちしてリアル視得が出来なかったなど言われた。

 正直言ってることは理解できても興味のない内容ばかりだった。俺はただ沈黙したまま黙ってカズキの言葉を聞いてるだけだし、カズキだってそんな俺の様子を見ても話をやめようとしないのだった。

 黙っているといっても、「はァん?」とか「それで?」などで相槌しているから会話として成り立っている。


 傍から見たらカズキが一方的に話しているような会話をしながら止まることのない男同士の会話が続き、気が付けば四時間目の始まりのチャイムが鳴った。

 視線を周りに向ければ何かが変わっているわけでもなく、担当教師が数学から国語へと変わっていただけだった。

 普段の俺ならその光景を見ただけで何とも思わずにすぐに目を伏せているのだが、最近の俺は少しおかしくなってきているらしい。


 ――世界なんて、もう滅びればいいのに……。


 もはやこんなことを悪びれもせずに思ってしまう時点で俺はどうかしている。

 いつもと変わらない何とも言えない普通すぎて飽きた日常を繰り返され、何をそこまでして排他的な巡回を行う必要があるのか理解できないなどと思うようになる。

 見慣れ過ぎて飽きたその光景はまるで日常というパズルを毎日同じように解いているかのようにつまらないものなのだ。そんなものを行わなければいけない必要がどこにあるのだ?


 これが俺の平常志向であり理屈なのだ。

 だから俺は、人としての「何か」が欠落しているんじゃないか? なんて、ンなことを毎日のように一人愚痴ってる。


 俺は人として完璧ではないということは自負できている。じゃあ、俺は完璧でないから人間ではないのか?

 俺は確信してこう思う、それはもう人間じゃないと。

 それはつまり――完璧なる人間に自分が慣れていないのだったら、もう人間じゃなくていいんじゃなくてよくね? と、ある種の開き直りで自分の思考を決定づけているからだ。

 ある意味それは『人外』の域に達しようする。いや、既に俺は人外であるのかもしれない。

 独りでに勝手に思う、この現実崩壊願望は『人外』である俺ならではの思考なのだと。


 ……刹那の間にこれだけの事を内心で考えていた。

 周りに向いていた視線を再びカズキに戻す。視線の先にはヒョロくて軟弱そうで童顔な男がこちらの顔を窺いながらニヨニヨしている。

 だが俺の本当の視線はカズキの顔を捉えていなかった。

 俺はカズキの“頭上”を凝視していた。

 

 そこにはボールのようなものが浮いて・・・いた。

 それは球体の形をした透明な物体で、球体の透き通る部分はまるで陽炎の如く靄のかかる存在自体があやふやなものだった。

 

「あ゛? ンダ、それ……」


 タクムは視線だけを食い入るようにその球体へと向けた。

 カズキの頭上に約1メートルほどにそれは飛んでいる。

 まるで火の玉のような揺らめきで普通だったら気にもしないような透明な物体だったのに、何故かその空間が歪む様な微細な違和感がどうも俺に無視できないようなものがあったらしい。


 再び視線を周りへと向ける。クラス中の奴等はまるでその球体の正体にすら気づいていないようで必然的に俺だけがその無色透明の球体の存在を知る。……まるで俺だけにしか“それ”が見えていないようだ。

 しかし、それを見ているだけで嫌な感じがする。不安が沸き起こる。これは一体なんだ? なんで俺がこんな物に恐れを抱くのだ?


 そもそもなんであれは俺にだけ見えんだ?

 ……いや、むしろあれは本当に俺にしか・・見えないのか?

 じゃあなんであれは俺の頭上じゃなくてカズキの頭上・・・・・・なんかに浮いてんだ?


 ――何か嫌な予感がする……。


「おい、カズキ……」


 タクムは異様の物体発見から立ち直り、ようやくカズキに向け声を出すことが出来た。

 カズキに向けて声を出したのはある意味希望的憶測に過ぎなかった。

 だが、間違っている気など全くと言っていいほどしていなかった。憶測であろうと、その答えに確信を持っていた。

 だから俺は続けてカズキにこう告げることが出来た……。


「――そこから離れろォ!」

「……へ?」

 

 カズキはそのタクムの異様な視線に疑念を持っていたのか、タクムがカズキのことを叫んだ直後にすぐにタクムの視線を辿った。

 向けられていたのが自分の真上だったこともあり、「何か変だなぁ」とカズキもうすうすと思っていた為、いつもの表情の読めないニヨニヨとした顔に笑顔はなかった。それくらい今の状態のタクムは珍しかったこともある。


 カズキは自分のすぐ上をみた。

 そこにあったのは相も変わらず無色透明で本当に存在しているのすらあやふやにぼやけているボールだった。

 そう、ボールがそこには確かにあった・・・・・・・・・・・・・・

 カズキはその球体を認識できていた・・・・・・・のだ。


「う、わお……なに、これ?」


 そして球体はカズキがそれに気付くと同時に何かに反応して、リンゴの皮を剥ぐ様にらせん状に球体の側面を紐の様にしてカズキの周りを取り囲み、回転し始めた。

 やがて皮を剥いだ球体からはどす黒い光を放つ、1センチ程度の結晶が中から現れる。

 それが表れてようやくカズキも自分の身に何かヤバイことが起きると悟るが、鏡よりも更に澄んだ限りなく透明に近いらせん状の紐はまるでカズキを逃がさないようにカズキを中心点として回り続けている。


 ――あの黒い結晶はマズイな……。


 身体の警告音があれは危険だと忙しなく鳴り響く。

 何が危険なのかは全く分からんが、俺たちが人間じゃなくとも動物というカテゴリーに属されている限り、動物的本能がそう告げる。


 黒い結晶はまるで風船のようにゆったりとカズキの方に落ちていく。

 カズキとの差は言葉の通り目と鼻のすぐ先の所まで迫る。

 50センチほど落ちた先でピタリと静止したその結晶は――次の瞬間、ガラスとガラスを擦り合わせた様な奇怪な音が鳴ると、結晶がカズキを飲み込もうとした・・・・・・・・


 結晶であるその物体はまるで粘土気質化の様に容易く形状変えるだけでなく、質量も比例して多くなっているように思えた。

 たった1センチサイズであった結晶は見る見るうちにカーテン状にカズキの周囲を包み込み、取り込もうとする。


「っ!? タクム君、これ――!」

「チッ――」


 椅子を蹴り倒しながら立ち上がる。

 身体は少しでも勢いをつけたいが為、立ち上がった勢いのまま、このまま前傾に姿勢を落としながら振りかぶった拳を左足を前に突き出しながら放つ。

 そうしてフルスイングに結晶へと拳をぶち当てた。

 ゴガーンッ!

 黒結晶はカーテンを伸ばしたまま教卓にぶち当たり、床に落ちる。


「なんだなんだ!? いったい何が起きたんだ!?」

「また一之瀬がなんかやらかしたのか!?」


 周囲の奴等はその音がきっかけでその結晶を殴った張本人である俺へと視線を集めた。

 俺はそんな視線を意にも返さず、殴った結晶のある場所を見つめ、視線を鋭くさせる。

 結晶は床に落ちたの同時に光の光量も収まっていき、カズキを取り巻いていた透明らせん状の皮紐もそれと一緒に落ちた。


 ――可笑しいだろ、あんだけ強く殴ったのに、壊れるどころか欠けてすらいねェ……。

 ――結晶の素材はなんだ? 炭素なのか? いや、それだと発光した理由も浮かんでいた理由もさっぱりだ。

 ――そもそもこれは現実か? 俺は夢を見てんじゃねェよな?


「タクム君まだ終わってない!」

「あ゛ァ? ――ッ!?」


 俺が一瞬だけ気を逸らしていたその瞬間に再び結晶が輝きを元に戻し、皮紐も再びらせん状に回転して宙を浮きながらカズキを取り込む。


「チッ――させんかよォ!」


 俺は透明の皮紐に掴みかかる。

 しかし、俺がその透明の皮紐へ手をかけるとその瞬間、皮紐を握った手指が音もなく切断された・・・・・


「ギ、ガ……ザケ、んな……ンダ、これ……? こんなもん見たこともねえぞ……」


 みたこともない物質が俺の手を容易く切り裂いたことに動揺隠せない。


「水? 推進力? 圧縮? ダメだ、全て説明がつかない」

「こんな時にンなもん考えてる暇があんならテメエもテメエ自身が脱出する術を考えろやボケェ!」

「おっと、自分がピンチだってこと忘れていたよ。こんな現実味のないものを見れて興味深いね」

「やめとけやこんな時に!? おかげでこっちは指がなくなったぞ!?」

「大丈夫大丈夫! きっとそのうち何とかなるから」

「どうにもなんねェわボケェ!」


 刹那、光を取り戻した結晶が再び動き出し、カズキもろとも今度は俺まで取り込まれる。


「さあて、舞台も大所帯となってきたのではないでしょうか? 実況の一之瀬さん」

「お前、本当楽しそうだな」

「だって僕、現実が嫌いなんだもん。現実が嫌いだから僕は二次元に理想を追い求めていたんだよ? 中でもファンタジーは大の好物さ! 平気で僕たちの現実の世界をぶっ壊してくれるような感じ、僕はそれを追い求めていたんだよ」

「よしわかった。よーくわかったからとりあえず状況を正しく認識して深呼吸してから落ち着いてこの状況の改善をしようか?」

「僕はいたって冷静さ。冷静に物事を考えての結論だとも! だって、こんな事って他には決してないんだよタクム君! タクム君だって内心いつも思ってたじゃないか! 『世界なんて、もう滅びればいいのに……』って」

「おま、なんでそんなこと知って――いや、わかってんだよ!?」

「僕は君の事なら何でもわかるさ! 何て言ったって、タクム君ファンの第一号だよ」

「男にモテるのは辛いぜ」

「タクム君だって今この瞬間を楽しんでいるのさ。僕はそれを隠さずに表立って表現しているにすぎないのだよ」


 カズキに言われたことで自分の気持ちを再確認する。

 俺はどうした? こんな世界壊れてしまえと思う俺が本気でこんな現実的じゃないことを本気で恐れているとでも言うのか?


 ――違うだろ。


 なんで俺が毎日のように現実崩壊願望をしているのかよく思い出せ。

 俺だって、こんな世界が嫌いだからだろ!

 じゃあ今の光景はただの絶望の表れなのか? 絶対に違うね、俺は今「すごく面白い」と全ての身体器官を通して感じているのだ。


「……ああ、そうだな。そうだよ。俺は思ってんよ、コイツはおもしれェって?」

「でしょ!? でしょでしょ!?」

「ダガな! ……もしこんなところで死んだら身もふたもなくね?」

「……タクム君、急に現実に戻すような発言をするのはやめようか?」

「いやだっておま、これめっちゃ指切れるくらい先行きデットエンド臭漂ってんだぞ?」

「いや、それはそれ、これはこれってことで」

「なんねェよ、おい? 死ぬときは死ぬさ。これ世の常な?」

「せめてその現実だけは最後まで無視しておきたかったよ……」

「ンで、なんか策あんのか?」

「あると思っているのかい? こんなの僕の専門外だよ。僕はキメ顔でそう言った」

「おま、それ……積みゲーじゃね? 何のオタ知識だよ! なんか絞り出せや!」

「無茶を言うの助。死ぬときは一緒だね♪」

「死んだらコンティニューしてやるよ。お前だけ死ねや♪」

「僕たちはコンティニュー出来ないのさ」

「そこはちゃんと現実理解してるとかお前どうなの?」


 周囲に一度目を向ければ何を言ってんのかさっぱりわからないくらいにガヤガヤと外野は騒いでやがる。

 考えてみればそれもそうか、俺指切れてんぞ? 痛々しいにも程があんだろ。

 しかし重要なのはそこじゃない。

 いつの間にかカズキを取り巻いていたらせん状に回転する透明の皮紐は俺にまでその対象に選ばれていた。

 二人一辺にその螺旋回転の中に閉じ込められた俺たちは本格的に出ることが出来なくなり、頭上には先ほどと同じように結晶が黒い光を放ちながら形状を広く伸ばし、カーテンの中に俺たちを閉じ込めるようにその暗闇の世界へ閉じ込めようとしていた。


「チッ――俺たちの人生って案外短ェもんだな」

「いやいや、まず僕たちは人じゃないよ。人ならなんで犯罪者になったり、現実崩壊願望を持ってたりするのさ。それは、人としてもう僕たちは終わってるからさ! 言うなれば、僕たちは――“人外”だ」

「奇遇だな。俺もさっきまで同じことを考えてたさ」


 埋め尽くされる暗闇に視界を閉ざされながら、ただ俺は目を閉じずに誰に向けるわけでもなく埋め尽くす闇に向け睨みつける。

 カズキは続けて視界が閉ざされる寸前に言う――


「もし、僕たちが死んじゃったとしても僕はもう一度君に会いに行くよ。だって僕たちはこの世界で人間になれなかった人外だから、人間じゃないなら僕たちの行く先に『天国』も『地獄』もある訳ないよ。だから、そんな世の常識なんてに縛られない。理を切除する。理由なんて、それだけで十分さ。約束しよう。僕たちは死んでもきっとまた会えるさ」


 視界は完全に閉ざされ、世界は闇の中へと消えゆく。

 意識はあるのにまるでそこは意識だけしか存在しないような空間だった。

 いつまでも続く永遠の暗黒の世界で、俺は意識だけの存在になりながらも、無常にも抗い続ける。

 それはカズキとの約束を守る為なんかじゃない。約束なんてのは人のみがものである。

 だから俺は約束なんて守らない。俺がカズキとしたものは約束なんて容易く証約なんかじゃない。

 俺たちがしたものは果たされるべき・・である、確固たる“決意”なのだ。


 ――……それでも時は刻む。

 そして着く。いつか来る、終わりの果て。

 しかし、その終わりの果てに待ち受けていたのは魔法のような魔法な、夢物語の始まりだった……――

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