1章 もう恋なんてしないもん!!

第1話 浮気されました!

「ゆう君の嘘つき、ゆう君のバカー!!」

 目にたくさんたまった涙をこぼさないようにしながら私は叫ぶ。

 場所は大学のラウンジ。

 そして、私の目の前にはなんでか呆れ顔の親友のリエちゃんがいる。

「あのさ、ユウジ君のこと嘘つき呼ばわりしてるけどちゃんと話聞いたの?」

「話もなにもないよリエちゃん! ほかの女の子と一緒に街にいたんだよ? こ・れ・は、れっきとした浮気だよ」

 私がリエちゃんに詰め寄りながらそう言うと、リエちゃんは大きなため息をついた。

 そして、ふっとラウンジ内のある場所に視線を移す。

「浮気して別れた男があんなに沈んだ顔するかね?」

 私はつられてそちらをむく。そこには、どんよりとした空気をまとった、私の元カレ、ゆう君がいた。

 昼食だったのであろう、カップ麺はもうでろでろにのびきっていて、ゆう君は、それを心ここにあらずといった様子でぐるぐると箸でかき混ぜ続けている。

 なんともったいないことか、あんなもったいないことする人と別れてよかった。

「アカリ?」

「ん?」

「今、ユウジ君にとっても失礼なこと考えたでしょ」

 リエちゃんが私の目をまっすぐに見つめてくる。

 私はなんだか焦っちゃって、わたわたと体の前で手を振って否定した。

「そ、そんなこと考えてないよ。でも、あんな食べ物もったいないことする人なんて、ろくな人じゃなかったんじゃないかなって」

 リエちゃんは、その言葉にまた大きなため息をついた。

「アカリ」

「うん?」

「アカリがさ、病気の人におかゆをつくったとするじゃん?」

「うん」

「でも、その人が高熱のあまり、それを食べれなかったらどう思う?」

 うーん、私は少し悩んでリエちゃんの質問に答える。

「それは、しょうがないかなって思う。だって、そんなに熱あったら食べれないもんね」

 リエちゃんは、そんな私の言葉ににっこりして、私の頭をなでてくる。

 リエちゃんのなでなでは、気持ちいい。

「でしょ? 今ユウジ君はあなたにフラれて高熱にうなされてるような状況なわけよ」

 私はその言葉を聞いて、リエちゃんのなでなでから逃げる。

「そんなことないもん! 病気の人はしょうがないけど、ユウ君のは自分の浮気が原因だもん。自業自得だもん」

「アカリも原因の一端なんだけどなぁ……」

 私はなんだか気分が悪くなって、思わず椅子から立ち上った。

「アカリ、どこいくの?」

 私の行動を止めてくるリエちゃん。

 私はちょっとむっとして、こう言った。

「今日は具合悪いから、もう帰る!」

 お昼ご飯のプレートを返却口に戻し、私はラウンジを後にした。



 家に戻ると、なんの変哲もない、自分の一人暮らしの部屋が迎えてくれた。

 遊びに来る友達には、とっても女の子っぽい部屋だねって言われる。

 それは、そうだ。

 今の大学に受かってこっちに来るとき、一から大好きな家具をそろえた。

 大好きなカーテン、大好きな小物、大好きなクローゼット。


 そして昨日までは、ここによく、大好きなユウ君も遊びに来た。


 二人で過ごすと、なにをしてても楽しかった。


 たくさんおしゃべりしたり、ゲームしたり、あんまり人には言えないようないろんなことしたり……。


「引っ越そうかなぁ」


 私は、部屋にあるもの一つ一つに、ユウ君との思い出があることに気付いて、そうつぶやく。


 まさか、裏切られるなんて思ってもなかった。


 ユウ君が、あのユウ君が。


 街で私じゃない女の人と一緒に歩いていた。


 許せない、苦しい。


 わたしだけを見て欲しいのに。


 ラウンジでは止められていた涙が、部屋で一人になった今、あふれてくる。


 苦しい、辛い、どうして……。


 一人は、イヤダ。


 でも、もうこんな思いはたくさん。


 もう恋はしたくない。


 私の頭の中でそんな言葉がぐるぐると目まぐるしく回る。


 私は、お気に入りの大きなテディベアをぎゅっと抱きしめる。


「ねえ、クマさん。あなたはどこにもいかないよね?」


 そんなことを話しかけても帰ってくる言葉はない。


 やっぱり一人は嫌だ。


 静かに涙を流しているうちに、いつの間にかその日は眠りについていた。

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