第11話 夢も現実もオタクビジネスという檻の中

 それにしても、おれが希望を伝えて作ってもらう理想の抱き枕か……。



 現在、おれの所持する抱き枕カバーの数は百枚を超えようとしている。購入資金は実入りのいい軽作業バイトが中心で、あさりの仕事もたまに手伝って稼いでいる。二次元オタクとしての道を歩むと決めてから、おれはこの世界を取り巻く不可視の濁流に叛逆するため、これまで抱き枕を抱いてきた。


 あまりにも速く消費されていく美少女の群れの中から、忘却されるには惜しい「これぞ!」という少女を見出して、押し流そうとする奔流の中から救い上げる。そして、時には予約開始の1時間前から全裸待機、時には早朝から行列に並び、対価を支払い我が腕に抱く。その瞬間の快楽が自分にとっての最優先事項だ。消費物として流通し、共有される少女をよりに私有するからこそ、甘やかなねやになるのだ。


 当然、それは見世物小屋めいた娼館で娼婦を見繕うこととなんら違いはないのかもしれない。同人枕界隈などはさしずめ私娼窟であろう。物言わぬ女を金で買い、穢れたエロスに溺れるのだ。


 ましておれは、「心に決めた特別な少女ヒロインを選ぶ」と嘯きつつ、百数十枚もの抱き枕カバーおんなを買っている。自宅には偏執に彩られた少女コレクションが並び、子供のように純粋で魅惑的な存在ファム・アンファンの楽園が広がっている。


 純情だなんだといくら言い繕っても無意味だろう。おれは人一倍強い恋愛欲求とともに、人一倍強い独占欲と、人一倍強い肉欲をもって抱き枕おんなを飽くことなく求め、消費し続けている。抱き枕によって満たされる一方的で独善的な愛欲は、薄汚く際限ない性の臭いと不可分だ。


 円盤やイベント商法といった「コンテンツビジネス」の産業構造の中での安易な消費から逃れたいと願っていたはずなのに、たどりついた先には「抱き枕ビジネス」という産業構造がしっかり口を開けて待っていた。結局おれには、真のファム・ファタール運命の女など見つけることはできないのである。


 おれが思い描いた理想の女性を、実力のある絵師が描いて具体化してくれるとは、なんという僥倖だろう。できあがった新品の抱き枕おんなを、枕本体にセットして、理想の美少女ヒロインを好きなだけ抱くことができる。


 だけど、きっとそれだけだ。床の間の快楽は得られても、そこには何の意味も生まれやしないのだ。

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