@yumetarou

第1話 崩れた

 山の麓の墓は部落の人々が先祖代々共同で守って来たが、若者が少なくなって守り手がいない。年寄りではどうにもならない。足腰がいたくて歩けない。墓守を誰に頼むか。部落の集会で相談した。

 集まったのは60歳を過ぎたと思われる老人男女数人である。長老と思われる男は80歳を過ぎていると言っていた。この人が昔のしきたりを話して聞かせる。その話はどれもこれも、この村が賑やかだったころのことで、今ではやれないことが沢山ある。

 誰かが死ねば、通夜から墓におさめるまでの数々の仕事がある。それを村の衆が分担する仕来りがある。そのやり方は、家の格によってきめられているので、日頃は平等に付き合っている仲なのに、この時に、家の格式によって差別される。年寄りはそれが当たり前だと受け入れているが、若者は違和感を覚えて嫌な気持ちになる。

 部落葬は部落の人々をその分限に従って待遇する定めがある。この村が生まれて以来受け継がれてきた秩序である。落ちぶれた旧家とにわか成金の家との間では何かと行き違いが起きる。墓地の割り当てに際して両家の間で争いが起きる。部落の寺の住職は、その調停に苦労する。お寺の本堂からどれくらいの距離があるかで、

墓の値打ちが変わる。昔は家格ですんなりと決まったのであるが、この頃は寺への寄進次第で決まるような風潮が生まれている。

 それでは仕来りが崩れるというので古い檀家の間からは寺の住職に苦情がいくつも届いている。だが、檀家総代には成金がなっている。住職は板挟みである。寺の修理・修繕・修復のカネをあ詰めてくれるのは成金である。旧家は墓だけが残っていて他都市に移住しているものが多い。

 先般の地震で寺の裏山が崩れ、寺はかなりの被害を受けているので、その修復のために多額のカネが要る。住職はあちこちと檀家回りしているがカネがなかなか集まらない。住職は先代の跡を継いだばかりでまだ若い。気疲れと体力の消耗で気も心も崩れそうになっている。

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