No.69【メモ】

少女「それで、途方にくれてですね。ベンチに座っていたら一人の男性が声をかけてくれたんです」


少女「……その男性は"海の帰りに皆で寄って解散したとこなんだけどちょっと一人で回りたくてさ"と言って私の横に座りました」


男「よく覚えてるなぁ」


少女「うるさいです、大体ですよ。大体。流石に一言一句正しくは覚えていません」


少女「それで、私がきょとんとしていると"俺のだから合わないだろうけどないよりマシだろうから使ってくれ"とビーチサンダルを差し出してくれたんです」


少女「ビーチサンダルより、私と同じような理由でその場にいるのがなんとなく面白くって。ちょっとお話してました」


少女「途中、その人の手帳を借りてお絵描きもしました。うまいと褒めてくれたのがちょっと気恥ずかしかったです。自分の作品って身内以外に褒められるのが一番嬉しいんですよね。今思えば私が絵を描くのがここまで好きになったのはその七夕がきっかけかもしれません。……元々気が向くと何かしら描いていたので元々好きではありましたが」


少女「……っと。話しすぎてしまいましたね。実はその手帳、その人に返し忘れてしまって未だに私が持ってるんですよね。手帳の最後のページに電話番号が書かれたメモが挟まれていたのでかけようかけようとは思っていたのですが電話が苦手で、かけられず今まで引きずってしまっています」


男「なるほどな……もう電話はかけねぇの?」


少女「流石に電話番号ももう変わってるんじゃないですかねぇ。というかそのメモの番号がその人のものかもわかりませんし」


男「ふむ。もったいないなぁ。かけてみればいいのに。手帳はここにあんの?」


少女「もったいないって面白がってるだけでしょう……。手帳は家ですよ。残念でしたね」


男「それは残念だ。ちぇーっ」


少女「小学生ですか………」

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