2.依頼人は突然に(2)
「さて、詳しい話……の前に、あのエキセントリックな登場の仕方は何だ?」
俺の質問に、少々憮然とした様子で女子高生は語りだした。
なんでも、最初は控えめにノックをしていたらしい(寝ぼけてて空耳だと思ったと言ったら、ゴミを見るような目をされた)。
しかしなかなか出てこない俺に痺れを切らし、ノック→平手→蹴り→体当たりとエスカレートしていったらしい。女子高生が体当たりはねえだろ。立て篭もり事件の突入班かよ。
それで何度目かの突撃を試みたところ、急に扉が開いてバランスを崩し、俺の胸に顔を打ち付けたってわけだ。
「……はあ。なんかうん、もういいや」
「あなたが聞いたんでしょう」
「うん。で、依頼は?」
苛立つ相手の言葉を営業スマイルで黙殺し、俺は先を促した。少女は小さく肩を落とし溜息を吐くと、居住まいを正し俺の目を見つめた。
「調べてほしい人がいるの」
真剣な表情で告げてくる。鼻の赤みはだいぶ引いたようだ。
「ほほう。彼氏か?」
「ううん、パパよ」
パパねえ。
「……そりゃアレか? パトロン的な意味のか?」
俺の言葉に、少女はしばらく考えるような素振りを見せた。そしてようやく言わんとしていることに思い至ったのか、急速に顔を紅潮させわめいた。
「ち、違うわよっ! 馬鹿じゃないの!?」
「じゃあファザー的なほう?」
「そう言ってるじゃない! 父上! お父さん! アンダースタン!?」
ふうふうと肩で息をしている女子高生。
「わかった、わかったよ。んで、そりゃまたなんで?」
質問した途端、急に黙りこむ依頼人。
「おい……?」
「……いの」
何やらもごもごと呟くだけで、全く要領を得ない。
「おいおい。言いたくねえっつうんなら構わねえが、それじゃ依頼の件もナシだぜ?」
「ま、待って! 話す、話すわ!」
急に大声を出すな。耳がキーンとなっちまった。
俺は軽く顎をしゃくって先を促した。
「パパの様子が、最近おかしいの」
「様子?」
「ええ。妙に帰りが遅かったり、休みの日も一人でどこかへ出掛けたり。それで、その……浮気をしているんじゃないかって」
あー、なるほどな。俺はぼりぼりと頭を掻いた。こいつが十六、七だとすると、親父は四十前後か? 金のある家柄みてえだし、あり得ない話じゃねえな。
探偵にとって、浮気調査の依頼は最も多い仕事のひとつだ。俺には今まで決定的証拠を何度も入手してきたノウハウがある。仕事それ自体は難しいものじゃないだろう。
しかし、依頼を受ける前にまず確認しておかなければならないことがあった。
俺はつとめて険しい表情を作り、口を開いた。
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