路地裏のクロスマリカ -探偵と少女と運命の人-

泉 鳴巳

 俺の名は黒須くろす。黒須まこと。今年で三十になるナイスガイだ。

 俺はこの中途半端な都会の片隅で探偵事務所をやっている。

 場所は、表通りから路地裏に入り、ゴミとドブの臭いをくぐりながら二つ三つ角を曲がった先。昼間でもじめじめとしたステキな立地だぜ。名前は「クロス探偵社」。俺の苗字「黒須」から取ったんだ。イカしてるだろ?

 在籍している職員は、所長・俺、営業・俺、事務・俺。以上だ。


 まあ……なんて耳触りの良い言葉で括っちゃいるが、実のところは“何でも屋”だ。犬猫探しから引っ越しの手伝いまで、何でもやる。仕事を選り好みできるような状況じゃねえから、基本的にノーは出さねえ(その代わり報酬はきっちり頂くけどな)。だからなのか、他じゃ断られるような案件が俺のトコに少なくない数回ってくる。おかげさまでこんな弱小でも何とか営業できているってわけだ。

 ……ただ、そういう案件の中には、ものも混ざっているんだ。


 これからするのは、そんなヤバい案件のうちの一つ、俺の人生の向きまで変えちまった事件の話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る