MEMEの 車中ウォッチング

るりり

第1話   スカイツリー


日暮里で用を済ませて帰りの車中。

この頃は、迷うことなく腰かける「優先席」にどっかと座った私の前に、定年過ぎかな・・?と思われる夫婦が乗り込んできた。

ご主人が大きなボストンバッグを抱えていたから、きっと少し遠距離から出てきた帰りかな・・?と思われる。

常磐線にはいろんな快速があるが、私が乗ったのは「中距離快速」。

残念ながら「優先席」は満杯だったので、初老のご夫婦はバッグを挟んで目の前に並んで立たれた。


北千住あたりを通過する頃から、ご主人がきょろきょろ落ち着きなく窓の外を見出して、傍らの奥さんに「ほらほら! 電波塔(スカイツリー)が見えるよ!!  ほら! あ~~、ビルの陰になってしまった!   あ、建物の隙間から見えるから見てごらん!! あ・・、隠れた・・、あ!ほらほらここからだと全部が見えるよ」と嬉しそうにはしゃいだ声で奥さんの袖を引っ張る!

奥さんにひと目電波塔(スカイツリー)を見せようとしている姿が楽しい。


・・・あぁそれなのに、それなのに・・・、奥様ときたら、「見なくていいの!」という顔でわざとそっぽを向いている・・・。

折角見せてやりたいと騒いでいるご主人の大声を避けて、ずずずと後ろの方に後ずさり・・・。


いよいよ本格的に大きく全容が見えるスポットに差し掛かると、ご主人の声は一段と興奮度を増し、強引に彼女を窓際に引き寄せた。

よろめきながらも何とか外を見た彼女、そのスポットを過ぎると、今度は電車のドアの方に遠く離れて逃げてしまった。


残念なことに「スカイツリー」は、常磐線で見る限り視界はビルに隠れたり出たりして、何回も何回も興奮の声と共に奥様を引っ張る回数が多くなってしまう。

可哀想な奥様!!


やっと「スカイツリー」様の姿が見えなくなったとある駅で、運よく私の隣の席が空いた!

ご主人、自分が座る前に「おい!空いたぞ!」と奥さんに話しかけるも、「わたしゃ あんたとは関わりがござんせん」風のツンと澄ました顔で反対側の窓の景色を見ている。

仕方なくすごすごと私の隣に座ったご主人・・・・。


でも腰が落ち着かない風で、今度は「おい、その荷物をここへ載せろ」と奥さんに話かけるも、奥さん知らんぷり・・・。


そうこうする内に、ご主人の隣の席が空いた。

「おい、ここここ!」と中腰のままドアの前に走り寄り、奥さんの服を引っ張って強引に席に誘う。

さぁ、これでご夫婦目出度く隣り合って座れたぞ・・・。 良かった! 


・・・ふと気付くと、もう私の最寄駅到着。

降り際にちらりとご両人を見ると、奥さんがガムだか飴だかの紙を剥いてご主人に差し出しているところだった。


ふふ、やっぱり仲良しご夫婦なのね!

電波塔を初めて見て舞上がっているご主人がちょっと恥ずかしかったのね・・・。


何だかふんわりとした気分になってホームに降り立ったことだった。



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