丸ノ内先生の逸話 0.8/21秒
来夢みんと
丸の内先生の逸話 0.8/21秒
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「21分の0.8秒が運命を変えてしまうことだってあるんだよ」
丸ノ内先生は唐突に呟いた。
「はぁ……。21分の0.8秒ですか……?」
「あ、いやこれは例えが悪かったね。スロットルマシンの話なのさ。21個の絵柄が一周約0.8秒の間隔で廻ってるんだよ」
手に持ったままだったカップをそっとテエブルに戻しながら続ける。
「だから、目的の絵柄を目的の位置に止められる瞬間は0.8秒毎に0.038秒程しか無いことになる」
コトッとカップが小さな音をたてた。
ここは喫茶店『パアプルデイズ』。格子状に区切られた窓枠から外を覗くと、往来には雪が深く積もっていた。まだ陽がある時間だったが、道行く人はコオトにグロオブといった防寒具で身を包み、真っ白な吐息を漏らしている。その往来とは対照的に、この店内にはストオブの紅い炎が揺らめき、ホット珈琲を頼んだことを後悔してしまうような暖かさだった。窓際の座席に使われている茶色いソフアは、古いながらもレザア張りで、その肌触りと柔らかさは決して心地悪いものではなかった。
「0.038秒……。それはまた……短い時間ですね」
私は何が何だか分からぬまま、率直な意見を述べる。
「いや、つまりね、僕が言いたいのは……瞬き一つの間しかないような時間が、人の運命を変えてしまうことがあるってことなんだよ」
先生は置いたばかりのカップを持ち上げ、もう一口静かに啜った。
「はぁ……。そんな短い時間が……ですか?」
先生の言うことに間違いが無いとは知りながらも、私はつい聞き返してしまっていた。これはいつもの講釈が始まる前座の様なものだ。そうしておいて、先生は決まって有意義な話を聞かせてくれる。
「そうだね。例えば……いや、これは僕の実体験で、昔話になるんだが……」
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