研究部の真実 3
講義室についた森永先生は周りの生徒たちから事情を聴くと、俺たちの方に寄ってきた。
「朝は何もなかったみたいだけれどD組の子たちが来た時にはこの有り様のようね。とにかく、盗られたものは?」
資料の整理をした俺たち3人で事の状況を説明する。フラッシュカードも森永先生に返した。
「つまり、その冊子がなくなっていたっていうのが今のところの被害ね。じゃあ、部活のものを再確認して。掃除用具入れとかは見ておくから」
森永先生に言われるままに再度資料は確認したが、特別なくなっているものはない。森永先生は教室の点検が終わると、教卓の前に俺たちを集めた。
「……これで全員?」
「ええ。部員は自分1人で、見学に来ていた新入生もこの3人だけです」
高瀬先輩が答える。
「うーん、他の場所は特に変わっているところはないわね。私、昨日この教室にチョークを取りに来たけれど、特におかしなところはなかったし」
森永先生は握りしめたチョークを俺たちに見せた。緑とオレンジと青の3本のチョーク。女子の中にはカラフルな色ペンを大量に持っていたりする者がいるが、そんなに色分けをしてノートをまとめられるのだろうか、と余計なことを考えてしまった。
「いつ取りに来たんですか?」
「昨日の6時くらいよ」
「私がワークの確認が終わったすぐ後に取りに行ったのではないんですか?」
見ると、牧羽さんもこちらに来ていた。
「ええ。取りに行こうとしたら下校指導の時間になっちゃって。それから雑用してたら遅くなっちゃったの」
俺たちは高瀬先輩の方を見る。
「先輩は森永先生に会わなかったのですか?」
「いや。2,3年生も下校時刻は6時。その前には活動を終えなければならないよ」
2,3年生も結構大変なのだな、と思った。
「んー、というかこの机にそんなものが入っているなんて知らなかったわ。ちゃんと鍵はかけてあったの?」
「ええ、もちろん」
高瀬先輩が答える。
「その鍵は今どこにあるんですか?」
篤志が聞くと、「職員室だよ」と答えた。
「一応学校の机だから職員室に戻すよう言われている。鍵の金庫にしまってもらっているんだ」
「部員が持っているわけにはいかないんですね」
「以前紛失があったそうだからね。わざわざ鍵を取りに行かなければいけないから面倒ではあるけれど」
1階の職員室に行ってから2階の講義室まで戻るのは大変だろう。鍵の管理も厳重なようだ。
「それにしても何でフラッシュカードが落ちていたのかしら」
「森永先生が落としたのではないのですか?」
「まあ、講義室の授業を受け持っているのは私だし、川崎先生がカードを使っていたかは分からない。でも、このカードを使うセクションは冬休みが明けてからの授業よ。そんなもの持ち歩かない」
「確かに、そうですよね……」
俺が英語の先生でも必要のない大量の荷物を持ち歩くのは御免だ。
「使わない教材って普段どこに置いてあるのですか?」
澄香が聞くと、「多目的室よ」と森永先生は答えた。
「そういえば多目的室はしばらく生徒の出入り禁止になったのよねー、鍵なくなって。でも、ここに部活のものを保管できないってなると、個人で保管してもらうしかなくなるのだけれど」
「それは仕方ないので、俺が一旦すべて預かります」
高瀬先輩は資料をまとめだす。
「先生、もう授業時間ですが、どうするんですか?」
ようやくクラスメートから解放されたらしい牧羽さんが森永先生に聞く。時計を見ると、授業開始時間になっていた。
「あら、そう? あなたたちはそれどうにか持ち帰って。
1年D組は席に着いてー! 他の人はさっさと自分の教室に戻ってー!」
森永先生はそう言って体よく野次馬の2年生や俺たちを講義室から追い出す。
結局授業には3分遅刻することになった。
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