新入生への挑戦状 4
1年D組のプレートを確認すると、小声で「失礼しまーす」といって教室を恐る恐る覗く。足を踏み入れる前にもう1回プレートを確認してしまった。
「早く入ろうよ」
「だって」
「まあ、分かるけれど……」
自分のクラス以外の教室に入るときはいつだって緊張する。同じ教室なのに不思議だ。
ちらっと見えた壁にはクラスの生徒1人ひとりの壁新聞を貼るポケットがついている。今は中学校3年間の目標を書いた『新入生の目標』というプリントが掲示されていた。俺もA組で同じものを書いたので、どのクラスでも同じことをやっているのだろう。
結局誰も踏み込もうとしないので3人で教室を覗いてみることにした。中には1人の女子生徒がいる。どうやらこれから帰ろうとしているようで荷物をまとめているようだ。
「あの――」
俺はその女子生徒に声をかけた。その声を聴いて、彼女は俺たちの方に歩み寄ってきた。
「……何?」
言葉が刺々しい。同じ1年生で小柄な方なのに威圧感がある。どうやら相当イラついているようだ。俺たちは半歩後ろに引き下がった。
「えー、講義室に忘れ物があったので……ちょっと見てもらえないかな」
俺が持っていた手紙を差し出す。それに合わせて篤志がメガネケースを、澄香が2冊のワークを差し出した。
彼女は俺たち3人の顔と手紙、メガネケース、ワークをじっくり品定めするように見比べると、澄香の方に歩み寄った。
「それ見せて」
澄香は言われるがままにワークを2冊とも彼女に渡した。彼女は記名欄を確かめると、1冊ずつパラパラとページをめくって中身を確かめ始めた。そして、紙の挟まった方から紙を抜いて、パタンとワークを閉じた。
「このワークは私のものだわ。どうもありがとう」
彼女はそう言ってもう1冊のワークを澄香に差し出した。
「こっちと、これは?」
澄香が聞くと、「違う人のもののようね。紙はメモ代わりよ」と彼女は挟まっていた紙を掲げた。紙には、『Whose(誰の)?』と書いてあった。
「他のものは?」と篤志が聞くと、「私のじゃない」とだけ言った。そのまま彼女は踵を返して行ってしまいそうになったので、俺は「ちょっと!」と呼び止めた。
「まだ何か?」
彼女はすぐに元の不機嫌な顔に戻って聞いてきた。教室を見回してもほかに人はいない。俺は思い切ってこう言った。
「協力してほしいんだ。持ち主を捜すために!」
「はあ?」
彼女は俺たちの方に詰め寄ってきた。
「何でそんなことしなきゃならないのよ。こっちにだって用事はあるし」
「D組の人のかもしれないんだ」
「職員室に届ければいいじゃない」
こっちが説明しても協力する気はなさそうだ。
「ところがそういう部活だからね、研究部は」
後ろから声が聞こえたので振り返ってみると、高瀬先輩がいた。資料をしまい終わってこちらに来たのだろう。
彼女は部活、という言葉に反応したようだ。
「部活、とは?」
「今研究部として、彼ら3人の頼まれごとを引き受けている。研究部の活動は生徒の依頼に応えることだからね」
彼女はとっさに俺たち4人の足元を見た。彼女は何かに気付いたようだ。
「あなただけが2年生なのね」
「そう。研究部は俺1人。この3人は依頼主でもあるけれど、研究部の見学に来ている1年生でもある」
「へえ、部活見学、ね」
彼女は研究部に興味を持ったようだ。彼女はこう言った。
「丁度いいわ。話を聞かせてもらえますか?」
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