笑わなかった王女

仁志隆生

笑わなかった王女

 むかしある国に一人の幼い姫がいたそうな。

 ところがこの姫、生まれてこの方どんなに面白い事があっても全然笑わなかった。

 王様はなんとかして姫を笑わせようと国中に「姫を笑わせたものには望みの褒美をさずける」とおふれを出した。

 それを聞いた笑わせる事に自信のあるものはこぞってお城に行き、姫の前で面白い話や芸をしたが姫はやっぱり笑わなかった。


 やがて皆諦め、誰も笑わせに来なくなった。


 そんなある日、お城に恐ろしげな魔物があらわれた。

「俺が笑わせてやろう」

 魔物はそう言った。

 家臣達は当然反対したが、王様は藁にもすがる思いで魔物に頼んだ。


 魔物は姫の前に来ると思いっきり怖い顔をして怖がらせた。

 そうしたら姫は、恐怖のあまり顔をひきつらせて笑った。

 人間本当に恐ろしい時は笑うしかなくなるそうだ。


「ほら、笑わせたぞ」

「いや、あの」

 これは違うのでは? と王様は思ったが

「やり方はどうあれ笑ったんだ、では望みを聞いてもらおう」

「ぐぬ。で、何が欲しいんだ?」

「物はいらん。代わりに姫に遊んで欲しいんだ」

「は?」

「二人共ちょっと来てもらおう」

 魔物は王様と姫の手を掴みものすごい速さで飛んでいった。


 ぎゃあああああと叫びながら着いた先は、森の中の少し大きい家。


 そこには姫と同じくらいの年頃の子供達が何人もいた。

 皆なんだなんだと見ている。


「王様、しばらく黙って見ててくれ。姫、この子たちと遊んでやってくれないか?」

 姫はどうしていいかわからずじっとしていた。

 すると

「ねえねえ、一緒に遊ぼうよ」

 と子供達が近寄ってきた。

「……うん」


 そうして最初は戸惑いながらも徐々に慣れていった姫。

 子供達と玩具で遊んだり鬼ごっこしたりかくれんぼしたりして走り回っていた。

 王様は心配で何度も飛び出しそうになったがその度に魔物に止められた。



 どのくらい時間が過ぎただろう……

 そう思った時ふと気がついた。


 いつの間にか姫が笑っていたことに。


 子供達と一緒に笑顔で遊んでいることに。


「お、おお、姫が」

「どうだ王様、姫は笑ってるだろ、どうしてかわかったか?」

「ああ……ワシは姫に何もしてやってなかった。政務ばかりで姫と遊ぶことも同じくらいの歳の子と遊ばせる事も」

「姫は少し前に母親を亡くしているはずだ。だから余計に」

「寂しい思いをさせていた……すまない、姫よ」


「これからはもっと姫と一緒にいてあげればいい。王が姫を愛しているのはよくわかるが言わないと、示さないと伝わらない事もあるぞ」

 魔物はそう言った。


「ありがとう、あなたのおかげで……しかしなぜそこまでしてくれるのだ?」

 王様が尋ねると魔物はこう言った。

「あの子達は皆両親を亡くしているのだ。だから俺はあの子達の面倒を見てほしいとだけ頼もうと思った。しかし姫を見たら本当に笑って欲しくなった。……としては放って置けないと思ってな」


「え、もしかしてあなたは?」

「おそらく察しているとおりだ」


「……わかった。あの子達は姫の学友として、遊び相手として城に住んでもらおう」

 王様がそう言うと

「ありがとう。……これでも安心して天へ昇れます」

 そう言った魔物の体が突然輝き始めたかと思うと、幾つもの光の球となって天に昇っていった。



 ……本当にありがとう。

 あなた達の子供達は立派に育ててみせます。

 天から見守っていてください。




 こうして姫はよく笑うようになった。

 姫のそばにはこの子供達がいつも一緒にいた。

 王様も政務の合間によく姫と語らい、遊ぶようになった。


 やがて成長した姫は子供達、学友の一人の青年と恋に落ち、結ばれた。

 その青年は立派な王として王妃となった姫と共に国をよく治めた。


 やがてこの国はそれまで以上に発展し、国民は皆豊かに暮らせるようになった。


 そしてこの国の人から笑顔が絶えることはなかったという。




 おしまい

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笑わなかった王女 仁志隆生 @ryuseienbu

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