sNowinG
箱津瑞幸
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寒の戻りだそうだ。
ずいぶん早くなった夜明け頃から、もくもくと雪が積もり始めた。
「明日はひな祭りなのにね。こんなに降っちゃって、どうすんのかなあ」
何がどうするのかは、言ったわたしだってよく分かっていない。案の定、彼は応えてくれなかった。
「ウチの子が風邪引いちゃってさあ」
わたしの言葉は無視して、そう言った。
じゃあ、明日は会えないね。
心の中でつぶやく。けれど胸の痛みとは裏腹に、笑顔を作ってみせた。
「ひな祭り、やってあげないの?」
「だから風邪だって言ってるじゃん」
「じゃあなおさら、やってあげなよ。病気でもきっと喜ぶよ。素敵なお嫁さんになるためのお祭りだもん、ひな祭りって」
「……そうなんだ。まだ3歳だけど、それでも嬉しいもんかな?」
微笑みを保ったまま、わたしはうなずいた。
「もちろん。女の子だったら誰でも嬉しいよ」
彼は分かったような分からないような顔をしていたけれど、やがて娘にケーキを買っていくと言って帰った。残されたわたしは、真っ白な道に刻まれた揺るぎない足跡を眺めながら、ひとり苦笑いする。
わたしも、『女の子』なんだけど、と。
sNowinG 箱津瑞幸 @misaki_baco2
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