二回目

「えー、テス、テス、只今マイクのテスト中」

 三方を黒い防音材に囲まれ、一方のガラス越しに音響制御室が見える室内に、彼の声が響く。

「感度、良好ですか?」

 ガラスの向こう側から同僚のサムズアップ。

 彼は微笑み、マイクに向かって言った。

「えー、今日が人類にとって記念すべき日になることを願っております」

 制御盤の前に座っている髭面の男が紙を持ち上げた。それにはこう書かれている。

 ――なにか気の利いたことを言えよ。

 彼は苦笑しながら手を振った。

「さて、アクティブSETI嬢のご機嫌はどうかな」

 彼は目の前のタブレットを眺める。

 地球外知的生命体に向けて音声メッセージを送るための装置は、問題なく稼働していた。

 各系統の表示はオールグリーンである。

 ガラスの向こう側でスタッフの動きが俄かに激しくなり、そろそろ予定時刻であると伝えていた。

 彼は手元にある原稿を最初から読み直す。


 彼はこの時点で知らなかった。


 まさかこの後、彼が宇宙に向かって語り始めた人類に関する説明の音が、

 銀河系を席巻していた戦闘種族の言語で最大級の侮蔑にたまたま該当し、

 激怒した彼らが太陽系に殺到して、

 地球が瞬時に粒子レベルまで分解されてしまうことを。

「それでは本番いきます」


 恐怖の扉が今、開かれる。

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