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オツカワイパロ

わらてつとその所在地について

 今回ご紹介する鉄道は「藁島国際鉄道わらじまこくさいてつどう」、通称「わらてつ」。扶桑国ふそうこくという国に存在する、近郊区間でのリゾート旅客輸送を得意とするそうです。かつて存在した定山渓鉄道じょうざんけいてつどう(現・じょうてつ)をモデルにしているわけではありません。

 「扶桑国」という架空の国は、ほぼ日本と同じで、英語名も「Japan」。首都は大きな京と書いて大京だいきょう府。東京都と読み替えても構いません。

 しかし、この扶桑国には、日本にはない・・・と申しますか、置きかえのしようがない自治体があります。藁島県です。

 現実世界における南樺太みなみからふと(南サハリン)に相当し、地理的形状は南樺太と同一。本州や北瑛道ほくえいどう(=北海道)とは海で隔れているものの、高度経済成長期やバブルイケイケゴーゴー期には多くの産業で賑わいました。現在では自由なベンチャービジネスと観光、酪農・農業、そして漁業が主な産業とされています。もちろん、JRもあります。といっても、「JR北瑛道」ではなく「JR北扶桑きたふそう」なのですがね。


 そんな藁島を健気に走る私鉄「わらてつ」は、元々「藁島鉄道」という名前でした。扶桑国がまだ大扶桑帝国だった1925(大正14)年に開業し、戦後は「稀代のカリスマ鉄道マン」と言われた、岩永いわなが光昭みつあき氏のワンマン経営によって「北扶桑随一の私鉄」と呼ばれるまでに急成長を遂げました。

 この岩永社長、自他共に認める「なかなかのクセモノ」。80年代後半、ちょうどS社スズキAアルトという軽自動車が人気を呼び、他のメーカーがこぞってライバル車を発表していきます。そんな中、H社ホンダTトゥデイという軽自動車を発売しました。すると岩永社長、Tを見るやいなや「あのクルマのワイパー、一体どうなっているんだ?なんだかゾクゾクするカタチじゃないか!!」と興奮気味に語り、実際に買って通勤の足にするまでに惚れ込み、しまいには「よし、決めた!!あのTのワイパー、ウチの特急にも採用しよう!!これでお客様もうんと驚いてくれるぞ!!一度だけだって?そんな馬鹿なこと言うんじゃないよ、これから新しい特急に必ずつけていくんだ」と宣言してしまいます。

 しかし、岩永社長の読みは見事に当っていました。その翌年に登場した「1800型電車」には、岩永社長の宣言通りにTのような変わった特徴的ともいうべき一本シングルワイパー」を採用。その変わった頭のおかしい特急を乗りたいと、ターミナル駅かつ県内で一番大きい駅である福呂崎ふくろざい駅はたいへん多くの県民で賑わいました。その後も岩永社長の大胆なアイデアはバブル崩壊一億総ドケチ化後も功を奏し、衰えを知ることがありませんでした。

 そんな岩永社長も、「ご存知の通り、ここ数年で県民の皆さんのデザインに対する意識がものすごく良くなりました。これは素晴らしいことです。こうなってくると、私の役目はもう果たされました。あとは若い世代にすべてを託してしまってもいい。新しい時代というのは、その時代の若者が作らなければ意味が無いのです」として2003年に社長・会長を引退。現在は国内外で様々な講演を行っているそうです。


 ところで、わらてつは広告やデザインにも力を入れていたそうです。筆者の感じる限りでは、90年代後半からゼロ年代初期にかけてのTVCMは「ギャグ満載クソつまらないコント仕立て」「単なるお知らせいきなり商品名が出たりする」といった印象のものが強く、今思えば映像として惹かれるものがほとんどないものが多かったと感じています。しかし、わらてつのCMは海外とのそれと遜色ない、映像作品として美しいものがほとんどだったとされています。

 岩永社長があるテレビのインタビューでこう語っています。「あくまでも私は『きっかけ』をつくっているんです。最近、海外に出たがらない人が増えているといいますか、国内や県内の文化だけで満足している人が非常に多いと感じています。そうなってくると、(人の心は)だんだん『扶桑人だけに伝わればいいや』とか、『自分たちが良ければそれでいい』などというように思えてくる。そうしたら、作られるコンテンツというのはどんどん国内しか相手にしなくなってしまうでしょう。世界には、たくさんの人の心を豊かにしてくれる素晴らしい文化がたくさんあります。そんな綺麗で心惹きつけるものと出会わないというのは、本当にもったいない。そういったたぐいのものは、実際に体感して初めて、その価値がわかります。一種の憧れを抱くのです。そんな憧れを伝える機会として、ああいうの(わらてつの広告)があるんですよ」この言葉のように、あくまでも「美的センスの入口」として美しいものをデザインしていると言っても過言ではないでしょう。


 さて、そうこう語っているうちに出発の時間が近づいたようです。続きはまた今度。さあさ、電車に乗りましょう。

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