【6】カメハメハクラブと店長 1
『心ここにあらず』なみなもを連れて神社を出る。
そのまま道沿いにフラフラと歩いていくと、まだ祭りの真っ最中で道は混み合っていた。みなもの気分が落ち着くまで、しばらく散歩でもしよう。
大きくカーブしている道路を進んで行くと、丁度神社の裏手側までやってきた。
そこには基地のサブゲートがあり、向かいには、見慣れた看板を掲げた大きなゲームショップがあった。
その看板とは――カメハメハクラブ。
親友、吉田修太郎の実家が経営する、皇国最大のゲームショップチェーンだ。
……ああ、そういえば市ヶ谷で難波さんが島にもカメクラがあるって話してたっけか。今の今まですっかり忘れていたよ。
カメクラの中でもこの店舗はかなり大きい方だろう。
ゲームだけでなく本、セル&レンタルDVD、漫画、トレカ、フィギュア、造形材料、お菓子に食玩、そして大型店のみに併設されている漫画喫茶も完備、およそカメクラの要素をパーフェクトに備えた、文字通り大王級のカメクラの中のカメクラだった。
せっかくカメクラを見つけたんだから、入らない手はない。
きっと中で休憩出来るスペースもあるはずだ。そこでみなもを休ませつつ、自分は店内をちょっと見て見ようって算段さ。
広い店内に入ると、見慣れたポップやポスター、什器、携帯ゲーム機用のネット端末などが置いてあって僕は少しほっとした。
「具合、大丈夫か?」
僕はみなもベンチに座らせ、彼女に尋ねた。
「……多分。さっきの子、何だろ」
「さあ。どうしてお前のこと、瑞希姫だなんて言ったのかな」
「私が威の巫女だから?」
「お前のことは知らないみたいだった。でも、お前の顔を確認した上で瑞希姫だと断言したんだ。あの子は瑞希姫の顔を知っている……。
どうしてだろう、人間なのに」
「私が瑞希姫……。わからない……」
また、みなもの顔が虚ろになってきた。
「あーあー、もう考えるな。とにかくそこ座ってろ。少し休め」
みなもはこくりと頷いた。
とりあえずみなものことは一旦置いといて、僕は店内のネット端末からゲームの新しいクエストをダウンロードしつつ店内を物色し始めた。
みんなお祭りに行っているのか、店内はがらんとしている。
さすがカメクラとでも言うべきか本土の店舗とほとんど同じ品揃え、いや逆輸入版や日本語版のないソフトまでコアなラインナップになっている。
ここは中野ブロードウェイかカオス館か?
同じということは、お宝発掘のために僕のすべきことは……エサ箱のサルベージだ!
「えーっと……、こっちじゃまだ売ってたのか……で、おお、これも捨てがたい……」
僕は一本の古いパッケージ無しのゲームカートリッジ、裸ロムに目を止めた。
「あ~、なつかしい。これ大事にしてたんだけど、いつのまにか無くなってたんだよなあ……。ここはやっぱ買い直すべきだろうか……」
僕が何気なくロムをひっくり返すと、そこには――――
「なーんーでーやーね――んッ!」
シャウトするほどの、驚愕の文字が記されていた。
「なーんーでこんな遠い島に僕のロムがあんのさ! むっちゃハッキリと『みなかたたける』って書いてあるじゃんかぁッ!
あああああああんんのぉぉクソ兄貴! 勝手に借りパクした上に無断で売り飛ばすたぁどおおおいう了見だああああ――!」
僕の絶叫が広い店内にこだました。その時、
「お客さん、店内で大声出されますと他のお客様のご迷惑となりますので、ご遠慮願えますか?」
すげーイケボイスなお兄さんに注意されてしまった。
慌てて振り向くと、そこには、見たまんまで言うと、ゆるいウェーブのかかった肩くらいまでの長髪で、イケメンだけどなんか疲れたホストっぽい二十台後半から三十台前半くらいのお兄さんが立っていた。
チャラいわけじゃなくて、どちらかというと水商売系、ちょっと昔なんかあったような訳あり風のお兄さんは、素足にビーサン、スネ毛剥き出しのバミューダパンツにハデなアロハシャツ。
その上に真っ黄色いカメクラのエプロン、そして胸にはでっかくピンク地に黒文字で『店長』と書かれたわざとらしいカンバッジをつけている。
「あ……済みません、兄貴が勝手に売ってしまった、僕の大事にしていたロムを見つけたもので、つい……」
と、僕は手にしたゲームのロムカセットを差し出した。
それを見た店長さんは、えっと驚いた。
「それじゃ君は……琢磨の弟なのか」と、店長さん。
「はあ、そうですけど」
どこに行っても琢磨の弟、弟。まあ、しょうがないけどさ。
「これはこれは、ようこそ我が島、ニライカナイへ。南方威君」
そう言うと、店長さんは中世貴族のように片腕を腹のあたりに添えて、うやうやしく頭を下げた。そして顔だけ上げると、
「俺はカメハメハクラブ・ニライカナイ店の店長、神崎だ。
気軽に
と、キメ顔で言った。かなりヘンな人っぽい。
「あ、どうも初めまして。兄とお知り合い?」
琢磨なんて呼び捨てにする人、初めてだな。
「ああ、友人だ。今回は随分なとばっちりで君も大変だったなあ」
なんていいながら、店長は馴れ馴れしく僕の肩を抱いてきた。
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