第二章 みなもとパラダイス ~青い珊瑚礁と楽園は天国に一番近い島にあった~

【1】満喫! 南国リゾート! 1

 正直僕は一日も早く横須賀に帰りたいと思ってた。

 でも、軍がみなもを幸せにしてくれるんなら、まあ、

 ……兄貴の代わりをやってもいいかなって、腹をくくり始めてたんだ。


 僕の人生目標は、みなもを幸せにすることだから。



   ☆ ☆ ☆



 つーわけで、翌日。

 軍の輸送機で横須賀からはるか南西に数時間。

 やってきましたニライカナイ。

 琥珀色に輝く海と真っ赤な夕日に出迎えられて、僕らは高級リゾート地、南国のパラダイスに到着した。


 ニライカナイはその昔、皇国海軍の前線基地として使われていて、戦後さらに軍港としての機能を強化して駐屯を継続した。

 そして、近海を漁場としていた遠洋漁業を営む本土の漁師たちの要望で漁業基地としても使われるようになった。

 その後リゾート開発が進み、今ではハワイにも負けず劣らぬ一級の観光地となっている。


 ……てなことが、飛行機の中でみなもが読んでいた、島の観光ガイドブックに書いてあった。



「ふー、もうおしりが痛いよ~」

 みなもがぼやいた。でもなんか嬉しそうだ。半分旅行みたいなもんだしな。


「だよな。にしても、むしあっついなあ……」

 雨期前の横須賀に比べ、湿度が結構高い。


 今いる場所、ニライカナイ基地の滑走路からは、軍施設と島の稜線、そして海しか見えない。あとは大きな空かな。遮蔽物が少ないから空がぐっと広く感じる。横須賀はわりと山っぽいというか斜面が多いんで、開放感の点ではここと比較するとイマイチかもしんない。


 暑いことと規模が大きいこと、そして比較的重油の匂いがキツくないことを除いては、今のところ横須賀とあまり変わりはないようだ。


 いくつも並んでいる倉庫や、燃料タンクにクレーン。たくさんのヘリや輸送機、そしていつか僕が乗艦することになる軍艦たち。

 馴染みのある場所との共通点をいくつも見つけ、ほっとしている自分に気付いて僕は苦笑した。


 ☆


 僕らが基地の休憩所で一服していると、難波さんがいつのまにか衣装ケースを用意していて、またお披露目があるから着替えろと。


「またあの分厚いサウナスーツを着るんですかぁ?」

 全力でうんざりしながら言う僕。

 

「安心しろ。略式の、俺が着てるような普通の制服だ。

 とっととそこのトイレで着替えてこい。お嬢もな」

 とぶっきらぼうに言った。


 で、お披露目って、まさか……。恐怖の記者会見リターンズか?


 と思いきや、基地正面ゲートにたむろしてるマスコミ連中に、僕が兄貴の代わりに着任したって証拠を見せるんだって。

 まあ、遠巻きに通過するだけなら、どんなに人がいたって恐くないもんね。



 難波さんの運転する軍の車でゲートに向かうと、フェンス際にたくさんの脚立や三脚、そして二本足で歩く霊長類のみなさんがいた。

 全部マスコミかと思っていたら、何やら横断幕みたいなものが。


 ……なになに?


『威様 みなも姫様 祝ご着任』とか

『威様ありがとう』とか

『歓迎☆新イクサガミ様』だってぇ?


 なにこのすごい歓迎。


 スピードを落とし、車がさらにフェンスに近づくと、周囲から歓声があがり、フラッシュがバンバン焚かれ、無数のルミカライトがブンブン振られた。


 ここってアイドル歌手のコンサート会場か何かですか?


 僕は、市ヶ谷の記者会見とは別の、異様な雰囲気に気圧されていたけど、みなものヤツは調子に乗って座席の上に立ち上がり、叫びながら、群衆に向かって手をブンブン振ってやがる。


「どーもー! みなさんありがとー! 精一杯皇国を護りまーす!」


 何考えてんだコイツは。もう気分はすっかり姫提督なんだろうな。


 でもさ、みなも。

 僕らがここに来た以上、もう敵なんか来ねぇっつうの。

 いないと敵は来るけど、いたら来ない。

 イクサガミってそういうもんなんだ。

 僕らは基地のお守り、ニルダの杖、絶対無敵の魔除けなんだよ。

 そこんとこ分かってんのかなあ?



 とりあえずパレードは終了。車はそのまま、別のゲートへと向かった。

 港に近い、資材搬入口のようなそのゲートにはマスコミはおらず、ただ警備兵が暇そうにラジオを聞いていた。


 難波さんは車を一旦止めると、後部座席の僕らを振り返って笑顔で言った。


「これで一応、対外的な問題は去った。あとはしばらく二人で遊んでていいぞ」


 基地宿舎の準備が整うまで、数日は島で自由にしててくれって。

 それと、「遠慮なく使えよ」って、島で使える電子マネー決済付きクレジットカードを僕らにくれた。


 そして僕らは、島一番の超絶豪華高級リゾートホテルに案内された。

 なんと僕らの部屋は、オーシャンビューのウルトラ贅沢なスイートルームだったんだ! こんなのテレビでしか見たことないよ!


「うっわああああ……ハネムーンみたいだ……」

 僕は思わず呟いた。本当にそうなら良かったのに……。


「ぎゃー、すごーい! うっはあ~~~ッ」

 みなもは大興奮で室内を物色しまくっている。


 こうなると手がつけられないので、僕は手荷物を丸のままクロゼットにブチ込んで、疲れた体をふっかふかのソファの上に放り出した。



 ……で、あんまり気持ち良くて、僕はいつの間にか、そのまま寝ちゃっていた。


 あーあ、もったいない。

 せっかくみなもと……いや、なんでもない。

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