忍者館殺人事件
東山ききん☆
忍者でござるの巻
第1話
西大寺千秋が私立錦城高校に入学したのは彼女自身が選んで決めたことではなかった。
それほど熱心な性格ではない。彼女自身も自覚しているし、そもそも学問に興味がない。
中学三年間で全く勉強をしなかった訳ではない。ただ、学校のお勉強に着いて行く以上の忍耐を千秋は持ち合わせていない。
少なくとも自分は錦城高校のような進学校とは一生関わる事はないと思っていた。
そんな彼女が何故?それは千秋自身が一番知りたいことだった。
まず、錦城高校の入試は受けていないのである。勿論、入学手続きも経ていない。錦上高校に入学出来る道理など無かった。
それ以前に、千秋は公立の田所高校に入学する筈だった。県内でも特に取り立てて注目する所のない、平均的な学力の学校だ。その手の学校には良くありがちな「文武両道」を掲げている。志望するにあたって、中学担任からの反対も特に無かった。学力的に自分に合った学校だったのだろう。
なので、公立入試だけ受験した。その結果、合格した。私立入試は一切受けていない。
本来、西大寺千秋は私立錦城高校に入学出来る筈が無いのである。
では、一体何故こんな事になってしまったのか。物事には必ず理由というものがあり、原因には結果が付きものだ。彼女の把握している限り、事の始まりは先週の日曜日の事だった。
あまりにも唐突に全ては始まった。その日、夜中にざる蕎麦を食べていた頃合である。千秋は料理が好きで、こうして自分に夜食をご馳走してるというわけだ。
ふと窓に違和感を感じた。思わずそちらを見ると、男が不法侵入していた。髪は総髪、黒衣を纏った壮年男性である。この男、全身に剣気が漂っている。千秋は即座に死を覚悟した。
男が放つ剣気はそれ程のものだった。まず忍者と見て差し支えないであろう。千秋の長い人生経験の中でもここまで強そうな人間は剣豪か忍者くらいしか知らないからだ。男の剣気は男の突然の来訪そのものよりも衝撃的だった。
しかも男は隻眼である。どう見ても手練れだ。恐らく常人では歯が立たぬだろう。死ぬ。
千秋は諦め、自分の命はないものとして言葉を語った。
「お主、何用であるか。ここは私の家ですぞ。」
そんな戯けた事を抜かした千秋であるが、言うた本人が一番後悔しておった。しかもよくよく落ち着いて観察してみれば、男が小脇に抱えている等身大の袋から何やら垂れておるではないか。垂れてますよ、と言いたかったが、何なのか知りたく無かったので止した。
すると男はこの時始めて千秋の存在に気づいたようだ。千秋のプライドは傷ついたが、事ここに至って、部屋の中にヤバそうな不審者が侵入していた事実に心が追いつき、恐怖が沸き起こった。
「おお、女がいたのか。よし、とりあえずワシについてきてもらおう。」
言うが速いか、男は千秋の顔面を鷲掴みにすると印を結んだ。
瞬間、千秋の脳内では恐怖、辛酸、苦渋、絶望、虚無、興味、願望、それらあらゆる感情が一瞬にして混濁した。
そうして、千秋の意識は一旦途切れた。
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