暗殺者の恋人

刹那翼

第1話

 


 ー私が恋したのは、暗殺者の青年でしたー



 彼の了承を得ずに、私が彼に出会ってからの、彼の漫画の主人公のような英雄譚をつづることにする。


 彼が私の目の前に現れたのは、高校2年の春だった。素っ気ない挨拶だったが、今でも脳に焼き付いている。


「……どうも、名前は城山しろやまみつるっていいます。少しの間だけど、よろしく」


 その時の彼は、何処にでもいる文化部系の男子。大人びた印象を受ける、比較的長く黒い髪は綺麗に整えられていて、至って普通の男の子だった。

 肌の色は白く、目は透き通った茶色。本人曰く、目は悪くないが、掛けていないと安心しないという理由で、黒縁のメガネを掛けていた。鼻は高く、日本人というよりもハーフ、クォーターと言われた方が近い印象。


 私は、そんな彼を見た瞬間、身体中に電撃が走った。一目惚れというべきなのだろうか。彼の見た目に惹かれたのではなく、赤い糸が本当にこの世に存在するのなら、私は彼と繋がっているんだ、と思った。出会う事は、偶然であり、必然であるように感じた。運命とはこの事なのだ、と悟った気がした。


 私は臆病者だから、話しかけられなかった。

 彼は読書ばかりしていて、私の縁のない物に興味を持っていた。読書なんてしない私には到底話しかけられない。

 何でもいい。彼と興味とか関心とか好きなもの、嫌いなものどれか一つでも一致できるものを探そうと思い、後を追う事を決行した。

 臆病者にしては大胆な行動に出たな、と今でもそう考える。この行動が、吉か凶か、それは未だにわからないが全てを変えた。彼と私の全てを。


 彼は授業が全て終了すると、すぐに帰り仕度をして、下校する。その時に追跡することにした。


みお、今日遊ばない?」


「ごめん!用事あるんだ!」


 仲が良い樹里じゅりに話しかけられるが、彼を追うために断る。

 彼は廊下の曲がり角に差し掛かっていた。走って追うと、既に1階と私がいる2階の間の踊り場を歩いていた。彼の姿が手すりで見えなくなる。走って追おうとした瞬間、後ろから声がした。


江藤えとうみお。血液型はB型 。誕生日は4月3日。趣味は料理。スリーサイズは上から」


「ストップ!!!」


 振り向きざまにそう言うと、前にいたはずの彼が、私の頭に銃を向けていた。私は身動きを止めた。


「まさか、お前じゃないと思っていたんだがな」


「お前じゃないって、何が……?というか、それ、本物……?」


 私は完全に思考停止、いやフル回転し過ぎて混乱していた。


「……じゃあこちらから質問だ。本当のことを答えれば殺しはしない。何故俺を追ってきた」


 その時の彼の目は、死んだ魚のようだった。殺すことをも苦としない、猟奇的な目つき。


「……仲良くなりたいから。ただそれだけ」


「……そうか、いきなり銃を向けた無礼を許してくれ。ストーキングしたお前にも分はあるがな」


 そう言って彼は銃をズボンにしまう。


「じゃあ仲良くなって」


「気安く近づくな。殺されたくなければな」


 獣のような殺意を持った暗殺者、城山充とただの女子高生の私は、こうして出会ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る