第8話 森に異変がありました

 こちらの世界に来て早十日。依頼を受け、魔物を倒し、能力の慣らしをするというサイクルで日々を過ごしていた。ユネハが絡んで来たり、たまにガラの悪い人達に絡まれたりもしていたが、概ね平和に過ごしていた。


 今日も依頼を受けるためにギルドへと足を運んだ。ギルドに入ってみると、やけにざわざわしていた。いつも騒がしいのだか、今日は何処となく不安感のようなものが感じ取れた。このまま入り口で様子を見ていても仕方なので、受付でセリーヌさんに事情を聞くことにした。


「なんか騒がしいですが、何かあったんですか?」


「あっ! ショウさん。ちょうどよかったです。今、大丈夫ですか?」


「ええ、これから何か依頼でもと思っていたのですが……?」


「そうですか。ならギルドからの指名依頼を受けて頂きたいのですが、一緒に来ていただいてもいいですか?」


「はぁ、まあいいですよ」


 俺は彼女の剣幕に押され、特に考えもせずに了承した。そしてなんだかよく分からないうちに、ギルドマスターの部屋へと連れていかれ、現在、俺の目の前にはセリーヌさんとハグルが座っている。


「で、何があったんですか?」


 取りあえず、状況を確認しないと始まらないので二人に質問を投げかけた。


「では、私の方から説明させていただきます」


 スッと背筋を伸ばして、彼女は俺の方を見た。


「以前、ショウさんがゴブリン兵を倒したのを覚えていますか?」


「はい。あの時は少しびっくりしましたが、それが何か?」


 何か不味い事でもしただろうかと不安になりながら、彼女に問いかけた。


「ええ、あの後ギルドで森の調査を依頼していたことは知っていますよね?」


「はい」


 ここ何日も依頼をしているとそういった依頼があるのも目に付いていた。


「その依頼を受けたパーティーの一組が昨日から帰って来ていなかったのですが、つい先程帰って来たのです」


「それはよかったじゃないですか」


 始まりの森まではここから徒歩でも1時間ちょっとで行けるため、よほど森の奥に行かない限りは日帰りで戻って来れるはずだ。一日帰って来ないというのは少し心配だろうが、それだけで騒ぎになるとは思えない。


「ただ少し問題がありまして、彼らは森に入った後から街に戻ってくるまでの記憶がなかったのです」


「はぁ、記憶がない?」


 なんだかきな臭い話になって来て、聞かない方が良かったと思い少々疲れた感じに返答した。


「はい。というのも彼らは今朝、街の入り口で倒れているのを発見されたそうです。それで、ギルドで彼らを引き取ったのです。目を覚ました時に話を伺ったのですが、私も立ち会い確認しましたので、彼らの話は間違いないです。彼らも一応Cランクの冒険者なのですが、そんな彼らでも対処ができない記憶操作が施されるのは異常です。なので、実力者であるショウさんに調査してもらおうと考えたわけです」


「つい先日までランクFだった人間ですが?」


「ご冗談を。ランクFだっただけでしょう? ショウさんはこの街の中で上位の冒険者なのですから」


 なるべく目立ちたくなかったので、少し抵抗を試みたが、失敗に終わった。まあ、断れる雰囲気ではないので、諦めてはいるが。


「……それで、俺は具体的に何をすればいいんですか?」


「ショウさんにはこの魔道具を持って森に行って頂きます。そしてそれを使い、森の様子を逐一報告して下さい」


 そう言って彼女は指輪のようなものを二つ、机の上に置いた。


「これは?」


「これは通信用の魔道具です。指に嵌め魔力を流すことで、もう片方の装備者と話すことが出来るようになります。実際に試してみましょう」


 彼女は指輪を一つこちらに渡し、もう片方を自分の指に嵌めていた。これを薬指につけたら婚約指輪かな、とバカなことを考えていたら怒られたので、いそいそと指輪を嵌めた。


「それでは、行きます。『あー、あー、聞こえますか? 聞こえていたら、指輪に魔力を流して何か話してみて下さい』」


 耳を通して聞こえていた彼女の声が、急に頭の中に直接響くように聞こえた。まるでGMコールの時のようだった。


「じゃあ、『テスト、テスト、こちらショウ。そちらの声は聞こえます』」


「はい、大丈夫そうですね。使い方は今やったとおりですので、森で何かあったら使って下さい」


「分かりました」


 そう言って俺は立ち上がり部屋を出て行こうとするとハグルに呼び止められた。


「おい! これからすぐに行くのか?」


「そうですが、何か問題がありますか?」


 なぜそんなことを聞かれるのか不思議そうに彼の方を見ると、呆れたと言わんばかりにため息交じりに答えてきた。


「あのなぁ、仮にもランクCのパーティーがやられたんだぞ。お前一人で行かせるわけねえだろ」


「ああ、そういうことですか。でも、大丈夫です。他の人と組んでもいろいろ説明するのが面倒ですし」


 力の事とかその他諸々聞かれた時に正直に話すわけにもいかないし、それで色々な面倒事に巻き込まれるかも知れないし。中央大陸は一応絶対王政のはずだから、王族や貴族なんかに絡まれることになっても厄介だ。だから、可能な限り直接の関わり合いはご免である。


「そうは言ってもだな、もう呼んであるから。おい、お前ら! 入ってこい!」


 すると随分と都合の良い事に、目の前の扉が開き、今回の協力者らしき男女が入って来た。男の方は見たことないが、女の方は物凄い見たことがある。というのもここ数日ずっと絡んできた奴だからだ。


「何であんたがいるんだ」


「酷いです。今まであなたに尽くしてきたというのに、あいたッ」


 両手を胸に当て、目を潤ませて訴えかけるような芝居をしてきたので、俺は容赦なくチョップをした。


「何だ、お前ら知り合いだったのか」


「まあ、不本意ながら」


 何ともやる気が削がれたが、俺は肩を竦めもう一人の男の方に向いた。彼は体格が良く、背負っている大剣も相まって、これぞ冒険者といった感じであった。


「俺はショウ。貴方は?」


「ん? 俺はアズマ。ランクはC、戦闘は主にこの大剣で、魔法は治癒魔法を初級が使えるくらいだ」


 こっちの男の方はまともなようだ。これからパーティーを組むというので、戦闘スタイルを教えてくれたのも有り難い。


「ああ、俺もランクはCで、この刀を武器にしてる。魔法は中級位の火属性が使える」


 魔法は他にも使えるが、全属性中級が使えるってかなり異常だし、かといって嘘を言うわけにもいかない。なので、ハグルやセリーヌさんに見せたことのある火属性を使えると言えば、嘘にはならないだろう。


「で、あんたは何ができるんだ?」


 一応聞いておかないといけないので、ユネハの方を向き戦闘スタイルを聞くことにした。


「私ですか? 基本的に相手の懐に潜り込んで短剣で一刺し、ですね。ちなみにランクは皆さんと同じCですよ」


「魔法は?」


「鑑定などの情報収集に使うものはありますが、戦闘用は無いですよ」


 彼女は完全に裏方のようだ。嘘は言っていないだろうが、一応、彼らのステータスをチェックしておくか。



 名前:アズマ

 性別:男

 種族:人族(ランクA++)

 HP 2000

 MP 50

 ATK 1500

 VIT 1000

 AGI 600

 INT 120

 MND 500

 DEX 300

 LUK 120

 特殊能力:剣術(上級)、体術(上級)、闘気術(上級)、法力(初級)、身体強化(上級)、見切り(上級)、威圧(上級)、破魔(上級)、縮地、気配探知、心眼


 名前:ユネハ

 性別:女

 種族:人族(ランクC)

 HP 800

 MP 500

 ATK 300

 VIT 500

 AGI 550

 INT 600

 MND 720

 DEX 900

 LUK 500

 特殊能力:剣術(中級)、体術(中級)、身体強化(中級)、見切り(中級)、探索魔法(中級)、気配探知、女の勘


 あー、二人とも大概な能力だな。というかアズマさんってハグルより強いし。ユネハも彼に比べれば弱いが、それでも他のランクCなんかと比べるとかなり強い。


 ここ数日、一般的な強さを調べるために、ギルドですれ違う人たちの能力を見ていたが、どうやら種族の後にある括弧内のランクはギルドランクとは別物みたいで、自称神様に聞いたところ、能力による階級付けようなものらしい。


 で、ギルドランクがランクCなら能力は平均百前後で、括弧内のランクはEとかFだった。ちなみに、特殊能力はランクに関係なく (といってもランクCまでしか見ていないが)、主要武器のものと他に二、三個が普通のようであった。


 あと、二人には気になる特殊能力がある。


 闘気術:闘気を身に纏い戦うことを目的に編み出された武術。普通なら触れられないものも触れることが出来る。


 縮地:本来ある距離を縮めて進むことが出来る。熟練者になると瞬間移動のように見える。


 心眼:本来見えないものを見ることが出来る。また、視覚に頼らず周囲を知覚できる。


 女の勘:根拠がないのに、なぜか当たる勘。


……、まあ何だろう、女の勘って説明になってないな。いや、ある意味正しいとは思うが……。


 そんな風に釈然としない感じではあったが、ハグルの言葉で正気に戻った。


「さて、自己紹介も済んだとこで今回の依頼の確認だが、お前らには始まりの森に行ってもらい、何が起こっているのかを調べてきてもらう。期限は可能な限り早く、かつ無茶をしない程度にやってくれ。」


「はい」

「ああ」

「分かりましたっ」


 こうして俺はパーティー (仮)を組み、始まりの森を捜索することになった。

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