生命抗争-ワールドゲーム-

癒着家

一章 -道程(みちのり)-

第1話 移転

20××年 8月 

「やっぱり一人できてよかったぜ……」

ギラギラ太陽の日差しが照りつける中、榎波祐介えなみゆうすけは、びしょびしょの髪の毛を乾かすように、空を眺める。

真っ青で雲ひとつない空。しかも周りに人は祐介しかいない。

祐介にとっては絶好の海水浴びよりといえよう。

「あぁ、ずっとこうしておきたい。」

何もおかしいことはないのに顔がにやける。

「よし。いっちょ潜るか!」

音をたてて海に潜る祐介。海の中はこの世の雑音が全て無くなる。

「気持ちいい。やっぱり海っていいよな。」

静まり返った海の世界。悠々と潜っていく祐介。

ちらほらと魚が見える。近所の人懐っこい猫のようだ。

そう思いながらも、10数メートル潜ったときだった。

先程までとは打って変わったような、異様な光景が祐介の前に現れた。

「なんだ……こりゃ……?!」

祐介が見たのは、幅20メートルくらいありそうな巨大な海底に埋もれた扉だった。朱色で錆び付いている。

「船かなんかのドアか?それにしてもでかすぎだろ。も、もう少し近づいてみよう。」

肺の酸素があるかぎり、調べようとする祐介。

しかし、ただの扉でしかない。そう思い、一回浮上しようと思った瞬間、勢いよく扉が開いた。

「?!」

一瞬で事態が悪いことに気づいた祐介。そう、体が海の中に引きずり込まれそうになっているからだ。

必死にもがく祐介。しかし、すでに体は扉の中に押し流され、ついには、息が限界まで尽きてしまっていた。

「俺は、どうなるんだ?……死にたくない!!」


ガシャン



「……う、う。」

うなだれ、目を開ける祐介。

「ここは、病院か?なんだ、俺は、……そうか、」

海でのことを思い出す。とたんに頭が痛くなった。

「う、体は、結構大丈夫そうだ。っていうか、誰かいねぇのかな。そしてなんでベッドの上なんだ?」

立ち上がり、全開に開かれたドアをくぐる。

案の定ここは病院だった。しかし、変わったことに誰もいない。

窓から外を見る。えらく草が茂っているようだ。

「とりあえず、外出るか。意味がわかんねぇ。」

蒸し暑い階段を下りて外へ向かう祐介。

「本当、どうなってんだ?俺は海で巨大なドアに飲みこまれたと思ったら、次は誰もいない病院に連れてこられ、しかも、くそ暑い。」

汗が額からしたたり落ちながらも、何とか一階に到着した。

思っていた通り誰もいない。

病院から出てみる祐介。

「……さすがに予想してなかったぜ。まじかよ。なんでだ。なんでだよ。」

祐介の視線の先にあったのは、無人化した廃屋が広がる街だった。

「なんで誰もいねんだよぉぉ!!」

叫んだ瞬間何かが一斉に動き出した気がした。





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