再戦の時間だ、勇者よ!

宗谷 圭

▼プロローグ▲

 暗雲が立ち込め、稲妻が空を走る。荒れ果てた荒野のただ中で、少年は剣を構えた。白銀の刃に、少年の覇気が宿っていく。

「これで終わりだ! 冥牙月狼斬!」

 奥義の名を叫び、少年は剣を振り下ろす。膨れ上がった覇気が迸り、相対する者に容赦無く襲い掛かった。

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!」

 相手が叫び、倒れる。しかし、すぐに上半身を起こし、荒い息を吐きながらも片膝を立てるその人物に、少年は辛そうに顔を歪めた。

「ディアーゴ……もう良いだろ? お前はこんなところで死んで良いような奴じゃないはずだ。魔王……マグダスに従うのはやめて、僕と……」

 訴えるように、少年は言う。しかし、その言に相手――魔王配下ディアーゴは、不敵に嗤った。

「ふ……ふふふ……甘い。甘いな、勇者ジークフリース。私はマグダス様に心酔しきっているのだ。なのに何故貴様に力を貸し、マグダス様を討たねばならん?」

「ディアーゴ!」

「あなた、この期に及んでまだ……!」

 少年――ジークフリースの顔が泣きそうになり、彼と行動を共にする妖精が非難がましくディアーゴを睨み付けた。しかし、その程度ではディアーゴは怯まない。

「笑いたければ、笑うが良い。愚かであると罵れば良い! だがな、誰が何と言おうとも、私は自らの道を突き進む! 例えこの身は朽ち果て、幾たび生まれ変わろうとも……私はマグダス様のため、貴様と戦う! 必ずや貴様を、倒してみせる!」

 はっきりとした宣告に、ジークフリースは言葉を詰まらせた。そして、苦しそうな顔で、問う。

「……やるしか、ないのか?」

「くどいぞ!」

 一喝すると、ディアーゴは立ち上がった。全身を、邪悪な闇の力が覆う。ディアーゴの、最後の力を振り絞っているのだろう。

「さぁ来い、勇者ジークフリース! 貴様の考えがいかに甘いか……我が力で思い知らせてくれるわ!」

「……っ!」

「ジーク! こうなったらもう、説得は無理よ! 世界のために、ディアーゴを倒すしかないわ!」

 逡巡するジークフリースに、厳しい声で妖精が言う。そこでジークフリースは、覚悟を決めた。

「……くそぉぉぉぉぉっ!」

「そうだ! それで良い!」

 叫ぶや、ディアーゴが闇の力を腕に収束させる。ジークフリースとディアーゴは互いに絶叫し、力と力をぶつけ合い。

 そして荒野に、巨大な爆発が起こった。

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