剣物語

あやぺん

丘の上の魔女

丘の上には魔女が住む。攫った子供を洗脳して働かせている美しい魔女は年を取らない。子供が大きくなれば喰らってしまう。生きて丘の外へは出れない。

だから子供は丘へ行ってはならない。

丘の上には魔女が住む。その美しさときたら異国の王子がわざわざ訪れ魔女を連れ帰ろうとする程。

けれども魔女に近づく大人は身を滅ぼす。生きて丘からは戻れない。

だから大人は丘へ行ってはならない。


伝統を軽んじて昔々の王様が丘へ近づいた。そこには噂通りの魔女が住んでいた。

蜂蜜色の眩く長い髪、サファイアも敵わない夏の夜空を閉じ込めた右眼、エメラルドよりも輝く新緑の瑞々しさを湛えた左眼、絹のように滑らかな白い肌。

女好きの王様は美しい魔女の気を引こうと様々な貢物を贈ったが受け取ってもらえなかった。

金銀財宝だけではなく異国からの宝を仕入れて届けた。海という場所で仕入れたという宝石。千夜一夜も飽きずに過ごせる物語。細やかで艶やかな刺繍で埋め尽くされた絨毯や羽織。

ありとあらゆる贅沢を集めた代わりに、民は税金をどんどん吸い上げられて街はすっかり窮困者で溢れかえってしまった。

見かねた青年兵の一人が街で炊き出しをしたり、王様への進言を上司に訴えたけれどあっという間に反逆者として牢屋へ閉じ込められてしまう。

金銀財宝に囲まれた王様はなおも諦められぬと、特例で妃へ迎えると魔女に申し出たが断固として拒否された。

腹に据えかねた王様は丘の上へと兵と共に出陣した。兵士がぐるりと丘を取り囲むと王様の一声で火の矢が放たれた。

丘の上にある魔女の家は燃え盛りどんどん灰にされてしまった。


一足遅く、正義感に溢れる街の人々が青年兵を助け、魔女を探しに丘へ向かった。

人々は愕然とした。

まだ微かに残る炎の中に立つ憎しみと怒りを燃やした目をした全裸の魔女と皆殺しにされていた兵士達。

血に塗れた剣を青年兵へ差し出すと魔女は人々へ告げた。


丘へ行ってはならない。


地響きと共に丘は断絶され島へと変わった。

魔女の姿は無く、血塗れの剣だけが残された。青年兵が手に取ると剣の血が消え失せ使ったことがないように美しく煌めいた。

青年兵と共に蜂起した人々は逃げ帰っていた王を捉え城を開け放った。

蓄えられた財宝を交易に利用して街を潤した。眩く煌めく剣で街は護られ栄えた。

このようにして王国は失われ、民主主義の時代が幕を開いた。


島には魔女が住む。攫った子供を洗脳して働かせている美しい魔女は年を取らない。子供が大きくなれば喰らってしまう。生きて島の外へは出れない。

だから子供は島へ行ってはならない。

島の上には魔女が住む。その美しさときたら異国の王子がわざわざ訪れ魔女を連れ帰ろうとする程。

けれども魔女に近づく大人は身を滅ぼす。生きて島からは戻れない。

だから大人は島へ行ってはならない。

協力し合い、助け合い、皆で豊かに暮さねばならない。さもないと魔女が街を滅ぼしてしまう。


少年が少女に尋ねるとこう告げた。

「そういえば丘には住んでいたわ。100年、200年くらいかしら。でも確か、島には住まなかった。」

懐かしそうにそう呟いて歩き出す。

「あの人、嘘をついたのね。」

また次を探す旅に出る。

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