黄金航路

夢物語草子

序章

第1話 彼の始まり

紅蓮の業火に包まれる一人の男。その面差しは穏やかだった。衣服の所々は裂け、剥き出しとなった肌は無数の傷を負っている。止まることなく、赤い血が流れ落ちていく。

右手に握る長剣は、美しい鞘と宝石細工が施されており、その刃は光を放っていると幻視させる程に強く輝いていた。


男は何事か呟いている。そして、剣を逆手に持ち替え、床に向け、振り上げた剣を力一杯、突き刺した。次の瞬間、炎が噴き出した。真紅の炎ではない。黄金色の炎が剣を中心に広がっていく。男もろとも、炎は教会を包み込んでいったのだった。


●●●


どこからか声が聞こえる。一人ではない。大勢の、多数の声が溢れかえっている。


『黄金の海を逝け! 西の同胞よ! 我らは航海者だ!』

『楽器を奏でろ! 歌を歌え! さあ皆! 大いに食らい、飲んで腹を満たせ!』

『さあ! 出航だ! 帆を揚げろ!』 


視界一杯に映し出される船上に立つ無数の人々!。大海に飛び出していく幾多の船団!。それを率いるのは巨大な島の様な旗艦。希望に満ちた声が、鮮やかに彩る。


あぁ! この声の何と魅力的な事か!。何故、これ程に力強いのか!。ただの夢だと思ったら、彼はそう信じたから、強烈な衝動を抑え切れずに、男は手を伸ばしたのだ。触れる事などできない。これは、夢なのだから。


しかし、掴めてしまった。ギィと扉が開くような音が、響く。男は身体が引きずり込まれるような感覚に襲われた。


これは夢じゃない?。そう理解した時、男の意識は闇へと沈んだ。


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