第7話

「ほら、しっかり歩け、鬼頭。お前の部屋、何号室だ? 覚えてるか?」

 鬼頭を引き摺るようにして歩きながら、勇作が問う。その顔は、既に苦しそうだ。それもそのはずで、鬼頭の体はかなり大きい。二人がかりでも、運ぶのは一苦労だろう。

 しかし、そんな事は酔った鬼頭には関係無い。……いや、酔っていなくても関係無いのだろうが。勇作の問いに、「あぁん?」と低い声を発して睨み付けてきた。

「馬鹿にすんじゃねぇよ。206号室だよ、206号室。ここが203号室だろ? んで、ここが204、205……206……ここだ、ここ」

 引きずられながら、扉を数えていく。そして、206号室の前で一同は足を止めた。

「ほら、扉はオートロックだから、鍵出して」

「わかってるっつの。指図すんじゃねぇよ」

 鬱陶しそうに言いながら、鬼頭は尻ポケットから鍵を取り出す。鍵穴にはめて、ガチャガチャと回そうとした。しかし、扉は一向に開く気配が無い。

「あぁん? 開かねぇぞ。どうなってんだぁ!?」

「酔っぱらってるから、鍵が上手く差し込めないんだろ。貸してみろ」

 苦笑しながら、勇作が手を差し出す。しかし、何がどこにどう触ったのか、鬼頭はいきなり吼えだした。

「ふざけんな! 俺の部屋の鍵だぞ! てめぇなんざに貸すもんか! 俺の部屋の鍵手に入れてどうするつもりだ? 寝てる間に、財布盗もうってんなら、そうはいかねぇぞ。あぁっ!?」

「うわっ、危ねっ!」

 いきなり突き出された太い腕を、泉は辛うじて避ける。今まで鬼頭を支えていた和島と勇作は、振り払われた。

「おい、鬼頭! 暴れるな!」

「市村さん! 済みませんが、抑えるのに手を貸して下さい!」

 悲鳴のような和島の要請に、正樹は頷きながら駆け寄る。続いて、和島は泉にも叫んだ。

「佐竹さん! キッチンの電話台の横にキーボックスがありますから、そこから206号室のスペアキーを取ってきてもらえませんか!? ここにいると危ないですから!」

「わ、わかった……!」

「お、何だぁ!? 放せチビ! 逃げんなクソガキゃア!!」

「誰がチビだ! お前がでか過ぎるだけだろ、この酔っ払い!」

(やっべぇ。正樹も大分頭にきてるよ。急がねぇと……!)

 背後に聞こえる怒鳴り声の応酬に顔を青くしつつ、泉は慌てて階段を駆け下りた。

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