2章ー…辛ーさ
【ヴァニラ視点】
「うにゅ~。凄く食欲が湧く匂いね!待てなくて来ちゃった!」
(…おいしそうな匂い。…シチューか何かなのかな?それともなんだか違うような気がする。……それになんだろ?何だか懐かしい?気がしてくるよ。不思議…)
美味しそうな匂いに我慢できずこうして来たヴァニラ。
惶真の作っているカレーの匂いに思わず涎が出そうになる。
これは間違いなくおいしいものだと、本能が告げている気がした。
いや本能と言うより確信に近いものがヴァニラにはあった。
何故か知っている気がしたのだ。
「匂いにつられてきた食いしん坊。あともう少しでできるからあちらで大人しくしていろ」
「そう言わずに。ね、ねえ。ちゃんっと大人しく待ってるから見てていい?」
「ん?まあ、隠すもんでもないし良いぞ。ただ、邪魔だけはするなよ」
「わぁい!」
許可を貰い、えっと…美味しそうな匂いがするカレーの鍋の方に向かう。
鍋には子供の姿から変化した大人になったカナが焦がさない様にとお玉で鍋を回していた。
楽しそうで嬉しいと言わんばかりに「ふふふ~ん」と鼻歌を歌いながら。
カナに視線を向ける。主にある一点を。白と紺の服を盛り上げている部分。
(大きい…お母さんと同じか、少し上くらいなのかな。羨ましいな。私もカナくらい大きくなるだろうか?)
カナの変化した姿を見るのはこれで2度目。
1度目は色々あってじっと見る事なかった。
最初に泊まってくれたあの日にマナとカナの3人で御風呂に入った時は、2人共子供だったから、自分の方が肉体的な年齢も上なので、最近膨らみが出来てきた胸にちょっとした優越感があった。
マナからはなんだか光の消えた目で見てきた。
ちょっと怖かった。
理由は苦笑していたカナから教わった。
マナはカナと違い大人に変化しても胸のサイズは変わらないらしい。
『不条理だよ…理不尽だよ…』
とブツブツ言うマナは怖かった。
「ん?なに、どうかしたの、ヴァニラ?」
此方の視線に気付いたカナが視線を聞いてくる。
慌てて視線をカナの胸からカレー鍋に移す。
そしてふと疑問が浮かぶ。
何故か二つの鍋があった。
別々の何かを作っているのならわかるのだけど、中を覗き込むとどう見ても一緒だった。
いや片方の鍋が、もう一つの鍋の中身より少し赤みがあるような気がした。
どうして二つあるのか気になったのでお兄さんに聞いて見た。
「ねえ、お兄さん。どうして同じ料理の鍋が2つあるの?」
「ん?ああ…」
パンを焼く釜土に意識を向けつつ彼が答えてくれる。
「それは味見すればわかる」
素っ気無いなと思える感じでそう彼は言った。
「え?…味見をすればって…」
「ああ。それでわかる。おっと、そうだ。赤みが少しある方を後にしろ。カナ」
「はいなの。……はい、ヴァニラ」
カナがスプーンにカレーを掬って此方に渡してくれる。
くんくん。
うん。美味しそうな匂い。
母が作ってくれるシチューとは違う感じ。
食欲をそそる。
「あーん。……!うんッ、美味しい!」
「そうか……ならもう一つの方も、カナ」
変わらず此方を向いてくれないけど、お兄さん、なんだか少し嬉しそうな声色だったような気がした。やっぱり美味しいって言ったからなのかな?
一口だけだけどなんというかコクがあって甘みもあって美味しい。
もっと食べたいと思えてくる。
「はい。どうぞなのヴァニラ」
そんな感想を抱いていたらカナがもう一つの方をスプーンに掬って差し出してくる。
「……」
受け取って見てみる。
見た目は若干赤みがあるくらいで変わらないと思う。
匂いも……少しさっきと何かが違う様に感じる。
けど美味しそうで食欲をそそるのは変わらないと思う。
うん。とにかく食べてみよう!
そしてゆっくりと口を開けてスプーンを含む。
「モグ…モグ……うん、おいし……!!?…」
口に入れた時は美味しく特に変わらないなとか思ったのだけど、直ぐに変化した。
「ウニャギャーー!!カライィーー!!?」
辛かった!
さっきのと比べて段違いに辛かった!
口の中と言うより喉が燃える様に辛いよ!?
「ミズ、ミズーー!!」
「大丈夫、ヴァニラ!?はい、お水なの」
慌てた様子のカナが水の入ったコップを持ってきてくれた。
水がとにかく欲しいのでガバっとそのコップを受け取る。そのとき少しコップに注目してしまう。これも辛い水なのでは?とか考えが過ぎってしまう。
けどその考えも今はとにかく水!と、一気にゴクゴクと飲む。
はぁ~
癒された~
まだ少し舌が辛さから痺れてるような気がしたので、もう一杯水を飲む。
ようやく薄れ落ち着けた。
「うぅ~、なんなのコレ!凄く辛かったんだけど!?」
「あぁ…お前もこの辛さは無理なのか」
何を当たり前のことを言ってるのかなこのお兄さんは!?
ん?今、お兄さん、お前
「残念だったなカナ。コイツもこの域は無理のようだな」
「うん。残念……こんなに美味しいのに」
残念と言うカナがあの辛いカレーをスプーンで掬うと躊躇することなく普通にパクっと食べた。
「うん。やっぱり美味しいの」
問題ないらしい。あの辛さをものともしないカナ。
どうやらカナは
ちなみに双子の姉であるマナは、カナと逆で甘党みたい。
私も辛いのも普通くらいだと思うけど、この域の辛さは無理!
「おい。遊んでないで器にルーを掬っていくぞ。こっちのパンも焼きあがったからな。リムルも待っているだろうし、マナもぼちぼち回復してるだろうしな」
うぅ、やっぱり優しくないよぅ…このお兄さん…
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