2章外伝ー②:私と手合わせしてくれない?

「てぇえーいっ!」

「おっ、と…」


翠玉色の長髪の冒険者の女性のセシリーの繰り出す白銀の槍の突きを躱す咲夜。



咲夜は、彼こと【オウマ】を追う為にまずはエルドラと言う街を目指し森の中を進んでいた。

共に進むのは自分だけでなく、【勇者】らしい正儀、嵐、彩夢のパーティ3名に、教官として鍛えてくれたヴァレンシュ騎士長。そしてエルドラまでの道中を共にしている冒険者の女性、セシリー。


咲夜達がこの森――エルドラの森に入って一日が経過しようとしている。

出来れば一日でも早く彼の進んだ痕跡を掴み追いつきたいと気持ちが流行るのだけど、いかに強行で進もうとこの森は深いらしく最低でも二日は掛かるらしい。

途中に遭遇する魔物は正直対したレベルではなく、鍛えられ成長している今の自分達の敵ではなかった。

ただ、森ゆえに高い木々や大きめの草等の茂みからの奇襲など、魔物が襲ってきたりと気の抜けない感じはあった。


進んでいてある時に気付いたのだけど、途中に如何にも魔物を利用した作られたような椅子に見えるオブジェクトがあった。


「何これ?椅子かしら、これ?」

「本当だね。なんでこんな所に椅子なんてあるんだろ?」

「うむ。…これから何やら強い何かを感じ取れる気がする…」

「なんだか魔物を加工した、みたい?」

「セシリー、何か知ってないかしら?」

「ああ、これ?これは、確か数日前に森に入った冒険者が見つけたみたいなのだけど、なんでこんなのが此処にあるのか誰も知らないみたいよ。見つけた人達もこんなものは見つける前にはなかったはずと言っていたらしいわ」

「………?」

「どうかしたの、正儀?」

「ん?ああ、なんだかこれに見覚えがあるような気がしてさ」


不思議だけど気にしても分からないので気にぜず進む。

この時見つけた”これ”が、まさかあの始めて迷宮に挑んだ際に出会い倒した恐竜の姿に似た魔物【ダイノボッド】とは思わなかった。



あと数時間で日没になる。

森の中は日光が届きにくい。

なのでヴァレンシュ騎士長の指示で早めに休める用意、つまり野宿の準備をする事になった。


男女二つの簡易テントを張ったりと準備を終えると少し時間が出来た。

ふと咲夜はセシリーの方に視線を向ける。

彼女は自分の得物である白銀の槍を磨いていた。

その様子は「いつもありがとう」と言うかのように丁寧にしていた。


「ねえセシリー、少し良いかしら?」

「えっ?な、何にかな、サクヤ」


咲夜は彼女に声を掛けていた。

咲夜に声を掛けられたセシリーはどこかビクッと震える様に返事をする。

なんだろうか今のは?と思う咲夜。そして始めて咲夜に会った宿での、咲夜の怖いなぁと感じた時がまだあり、思わず声に震えが混じってしまったのである。


「もし貴女さえ良かったらだけど、私と一つ手合わせをしてみてくれないかしら?」


この旅に出て考えていた事、それをこの空いた時間にして見たいと思い声を掛けた。


「えっ?サクヤと私が?手合いを?」


咲夜の提案に驚くセシリー。他のゆったりと寛いでいた正儀達も同様の視線を咲夜に向ける。


咲夜はずっと気になっていた。

まだ出会って間もない短い期間ではあるが、森で共に戦う彼女の姿に咲夜は興味が湧いていた。

そして一度興味が湧くと試してみたい、知ってみたいと強く感じるだ。



(どうやら咲夜の悪い癖が出たな)と思う正儀。一先ず様子を見守り無茶であれば止めに入ろう。



興味を持ったのは彼女が【冒険者】と呼ばれる存在だった。

彼女は冒険者と言う職業で依頼を受け達成する事で報酬を得ているみたい。

依頼を達成したり、ギルドの報奨に値する事柄を成した際には冒険者としてのランクが上がるみたいだ。

セシリーのランクは【青】らしい。

ランクは【赤、青、紫、黒、銀、金】の6段階らしい。

最初が【赤】でいくつかの依頼を達成していれば【青、紫】と上がる。そして昇格試験と言うものを受ける事で【黒】のランクに上がれるらしい。

そのさらに上の二つ。【銀、金】のランク。

この二つのランクに至れる者はそうはいないらしい。

とヴァレンシュ騎士長から説明を受けた。

何故騎士長が詳しいの?と思ったのだけど、どうやらヴァレンシュ騎士長は元々騎士長となる前は冒険者であったらしい。しかも一握りの者が辿り着けるランクである【銀】のランクだと。


(なるほど、流石はと言う事ね…私も未だに騎士長には勝ち星を上げられないものね)


これまでの中で彼女が優れた槍使いであるのは分かっている。

だから試してみたいと思っていた。

王城の騎士達と、冒険者と呼ばれる者達とどちらが優れているのかと。


正直咲夜の実力は、既に王国に所属している騎士の中では、ヴァレンシュ騎士長以外では手合いにならなくなっている。

たいてい手合いを行うと、数手合いのうちに相手の背後を取り剣を突き付けている。


ざっと見てセシリーの実力を測ってみたのだが、正直騎士達より上かなと感じる。

何となくだが、自分ともいい試合が出来ると直感していた。


それに彼女に手合いを頼んだもう一つの理由。

正直に言ってこちらの理由の方が大きい。

それは、彼女が彼の――オウマの実力の一端を知っていると言う事だ。


「だって貴女、彼の実力をその目で見てるのでしょ?だから試してみたいの。貴方を通じて、今の私が、彼の持つ実力の一端に触れられるのかどうかをね」

「そうなの。…うぅん…。でも私も彼の実力を全て知ってるわけじゃないのよ?私が見たのは彼が相手の冒険者の男の拳を指一本で止めて蹴って吹き飛ばしたとこだけだし」


セシリーのその言葉に、正儀、嵐、彩夢、そしてヴァレンシュ騎士長も驚きの表情と声を零していた。


「それでもよ。私はそれでも知っていたの。だからお願いできるかしら?」


咲夜の真剣さにセシリーも感じ取り、


「わかったわ。相手になるかわからないけれども、貴女の申し出を受けますわ」

「ふふ、感謝するわ。ありがとう、セシリー」


そしてお互いに握手をする。



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