1章外伝5…その頃の召喚組『迷宮挑戦⑤・4…咲夜と命と守の場合…そして来る恐怖』

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余り者組である咲夜、命、守の3人組。

そしてそんな3名の護衛件お目付け役を担当する、身長は160cm位と他の騎士達に比べて小柄で、その見た目はドワーフの風貌を思わせる髭をしている。そして大楯を装備している騎士、名をドーゼと言う。

この4人に対して向かって来る相手のオーガは5体だ。



咲夜は右腕の手首に着けているリング状の腕輪から黒い短刀の刻夜を取り出した。

咲夜の右腕についている腕輪には、”空間魔法”の一種である”収納魔法”が付加された魔道具である。

何故そんな道具を咲夜が持っていたかと言うと、咲夜は出発前に白の魔導師ホワイトベレーと出会っていたのだ。


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「あら?こちらに来るという事は、あなたも参加されるのね」

「貴女は、白い人。ええ、参加するわ」

「そうなの。……うん、これなんだけど、あなたにあげるわ」

「? これは?」


白の魔導師ホワイトベレーが何か考えた後、何もない空間からリング状の腕輪を取り出すと、何も無い所から物がいきなり現れた事に便利でいいなぁと言う表情している咲夜に渡した。


「これは魔導具の1つでね……その腕輪に魔力を籠める事で腕輪内の異空間に物を収納する事ができるの」

「物を収納出来る……どうして、私にコレを?」

「ふふっ。あなたに必要そうかなって思いまして。……見た所、あなたは暗器を使い扱う者。なら、武器が双剣だけでは心持たないでしょ?なので、これに色んな暗器を入れておけば取り出すのに便利かな、と思ったの」

「確かに便利そうだけど……どうして私に渡すの?何か裏があるのかな?」

「疑り深いのね、…そうねぇ、私があなたの事が気に入ったから、ではダメかしら?あなたが私に興味を持ったのと同じでね」

「なる程……そう言う事なら、有り難く頂くわ。あとで返せとかない?」

「大丈夫よ。私、他にもいろいろ持っているの。だから一つくらい特に問題ないわ……」


(あげるのは気に入った人だけどね……あの子達の様に……今どこで何をしているのかしら?)


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そんなやり取りが出発前にあったのだ。


取り敢えず、咲夜はその腕輪を受け取ると、急いで暗器として用意し鞄に詰めていたナイフやらなんやらを腕輪の中に収納したのだ。

当然、刻夜と咲朱も収納しているので身軽な状態で参加できたのだ。

グループに入らないかと誘ってきた正儀も何の装備も持っていない咲夜に「あれ?あの双剣は?」と怪訝そうな表情を浮かべていた。

咲夜は面倒なので特に説明せず「Secret of damsel乙女の秘密よ」とだけ返した。


この迷宮内では双剣刻夜と咲朱の他にも、ナイフヤ針を投射した攻撃で魔物を倒していた。

咲夜の技能“暗器操作”は暗器であればどんな物でも扱う事が出来る。

この技能の便利な所は、自分が「これは暗器」と認識したモノであれば、それは全て『暗器』となるのである。

咲夜は右手に刻夜を握り、左手には先の鋭い針を指の間に挟む様に持った。


「さあっ!御試しは飽きて来たし。まずはこの子達で行きましょうかっ!”我が身は今加速するWe will accelerate now加速Accelerator!”」


咲夜は“瞬歩”を応用した移動強化魔法を展開し発動すると、一気に6体のオーガに突っ込んで行った。

そのスピードはまるでロケットの様であった。

その様子に3人、その中でも特に護衛に付いていた騎士ドーゼが「一気に集団の中に突っ込むのか!」と慌てた。

慌てた騎士ドーゼは追従するように咲夜を追った。

傍にいた守も鉱石を分解し“錬成”で作った剣を持って慌てて騎士の後を追いかけた。

そして、命も「あいつに先を越された!」と噴気しつつ腰に付けているケースから2本のクナイ型アーティファクトを取り出し両手で握ると咲夜を追いかけた。


咲夜は一番近くにいたオーガに狙いを定めると更に”加速Accelerator”で一気に相手の懐に飛び込んだ。

咲夜の俊敏性は嵐よりも高い。

懐にいきなり接近されたオーガは咲夜の”加速Accelerator”の速さに対応出来ていなかった。

そのオーガは反応する事も出来ずそのオーガは咲夜の振う右手の刻夜で首元を裂かれ絶叫を上げる間もなく仰向けに倒れ絶命した。


その間10秒にも満たない早業であった。


最初のターゲットを倒した咲夜は「次っ」と素早く次のターゲットに狙いを定めた。

右に位置する、いきなり仲間がやられたことに驚愕し茫然として動きを止めているオーガの2体を標的にした。


「ふっ!」


加速Accelerator”で標的の内の1体のオーガに接近して行くと、オーガに向けて、左手に持っていた4本の針をオーガの眼を狙って投射した。

奇襲から立ち直っていなかったオーガは、咲夜の投射したその針を躱す事も出来ずその両目に突き刺さり絶叫を上げた。

もう1体のターゲットのオーガは、針をその眼に受け絶叫を上げているオーガを押しのけるように、咲夜に向かって咆哮しつつ棍棒を振りかぶった。

だが、振りかぶった瞬間オーガは気付いた。既に其処に咲夜の姿がないという事に。


「ここよ。…さようならAdieu


そんな声が後ろから聞こえた時にはいつの間にか取り出した咲朱を左手に握り、双剣を振りかぶっている咲夜の姿だった。


咲夜はオーガを背中からクロスするように双剣で斬り付け倒した。

そして狙い通りに今倒したオーガが、目潰しをされたオーガに向かって倒れ込んだ。その手に持っている棍棒が視界を封じられたオーガの頭を狙うかのように。

そして狙い通りに棍棒を頭部に当たる事でかち割れた事で3体目のオーガも倒れた。


こうして咲夜は30秒にも満たない間に3体のオーガを倒してしまった。


「ふゥ~、まっ、こんなところね。……さっ、後は任せよっと。他の見せ場奪うのも悪いしね」


特に疲れた様子も見せず圧倒的な実力を示した咲夜であった。


命、守、そして騎士ドーゼは、咲夜の今の光景に絶句していた。

訓練を始めてまだ日も浅い。だと言うのにここまでの動きが出来るなんてとドーゼは思っていた。

実際、咲夜の潜在能力は護衛に付いていた騎士を既に越えているだろう。

なにせ、他の生徒達が己の得た“女神の加護”を使いオーガを倒したのに対して咲夜は唯の“加速Accelerator”と“暗器操作”だけで3体のオーガを30秒程で瞬殺したのだから。

実は一番乗りで撃破を果たしたのは咲夜だった。


そんな中で呆然としていた3人で一番初めに調子を取り戻したのは命だった。


「あいつ、何1人で美味しいところを持っててるのよ! くそ、残りは私が撃ち抜いて倒するんだからな!」


そう言うと命は、咲夜に仲間を次々倒され噴気し咲夜の方に向かおうとしているオーガの一体に狙いを定めると、咲夜を追う際に抜いたアーティファクトのクナイに電撃のエネルギーを籠めた。

そして、籠められたクナイを標的にしたオーガに向かってダーツを投げるかのように思いっ切り投げ付けた。

投げたクナイは超高速で「バチ、バチ」と言わせながら狙ったオーガの右腕に発射され命中した。

命中したオーガの右腕は吹き飛んだ。


命の“女神の加護”である“電磁砲レールガン”の力である。この力は対象物に電撃エネルギーを籠める事が出来るのである。又、自身も電撃を纏う事が出来るのである。


絶叫を上げつつ左腕で吹き飛ばされた右腕のあった部分を抑えていたオーガは命に向けて憎悪の眼を向けた。

命はそんなオーガの憎悪の目線に気にすることなくアーティファクトのクナイを呼び戻すと第二射をオーガに向かって投射した。


命のアーティファクトのクナイは、2本で一つのアーティファクトなのである。一つのクナイを失っても、もう一本のクナイがあれば直ぐに手元に戻す事が出来る効果を持っているのだ。


「これで仕留める……なっ!?」


命はオーガの頭部を狙って投射したのだ。だがオーガは上に跳躍する事で“電磁砲”のクナイを躱した。

そしてオーガはそのまま一気に命との距離を詰めようとした。

躱されるとは思わず驚きのあまり隙を見せてしまった命にオーガは左手の鋭い爪で切り裂こうとした。


「くっ!?……あれ?」


驚きのあまり回避するのも間に合わないと思い命は目を閉じた。

自分が切り裂かれるという思いから。だが、いつまで経っても痛みが来ないのに不審に思った命は目をそっと開けた。

そして命は目に映る光景に目を驚愕にして見開いた。なんと、眼を開けた先には命を庇うようにオーガの爪を腹部に受けつつ“錬成”で作った剣でオーガの魔石部分を貫き致命傷を与えた守の姿であった。



守は、自身の名の通り、いつも「何かを守りたい」という願望を抱いていた。

しかし容姿は普通で、気弱な性格から、そう言った事例に立ち会う事はなかった。

そんな隠れた願望を抱きつつの学園生活に変化が生じた。

異世界に召喚されるという非日常に入った事で。

守は思った。「ここでなら、僕でも誰かを守れるんじゃ?」と。


だが、守に与えられた”女神の加護”は、“生産工房”と言う戦闘には向かない鍛冶職に該当する技能であった。

今回参加したのも「僕でも何かの役に立てる」という思いから、本当は怖かったが参加した。

今までは、なんとか“生産工房”の能力の1つである“鉱物錬成”を用いて迫りくる魔物に対抗していた。


「僕の力なんてこんなものなのかな」と圧倒的な実力を見せる周りのクラスメイトや臨時でチームを組んだ咲夜の実力を垣間見て落ち込んでいたりした。

そんな時だった。

命に向かってオーガの鋭い爪が襲う様子が見えたのは。

守は咄嗟に考えるより先に体が動いていた。

守は、呆然とし目を閉じている命と、その爪で命に危害を食らわせようとしているオーガとの間に入り込み、オーガの爪の一撃を腹部で受け止めた。

腹部を君通され激痛に苛まれるも、意識を失わないように気を強く持たせた守はその手に“鉱物錬成”で作った剣で、“魔石鑑定”を使いオーガの魔石の位置を付きとめるとオーガの心臓部である魔石を貫き倒すのだった。


魔石を貫かれて失ったオーガは霧のように消えていった。

オーガが消えた後守は「これで、守れた」と前のめりに倒れたのだった。


その様子を呆然と見ていた命は倒れた守の様子に「はっ!」と気付くと、まだ周囲にオーガがいるのを気にするのも忘れ駆け寄った。

守を仰向けにすると、血塗れで顔が青ざめている守に、命は必死に呼びかけた。


「おい…おい!しっかりしろ!……」

「くっ…うっ、ぶじ、でした?」

「馬鹿!なんで私なんか庇ったんだよ?こんなに血が…」

「うっ、だって、守り、たかったんだ…」

「!…早く、治癒をしなきゃ……くっ!」


命は、守の「守る」と言う言葉に顔を赤めるも、顔を横に振ると気持ちを切り替え、回復魔法による治癒のできる東城彩夢を探そうとした。

だが周囲にいた2体のオーガが獲物を逃すわけがなく、無防備の状態の命と守に襲い掛かろうとした。

だが、


「させん!」

「まったく、何やってんだか」


襲い掛かろうとしたオーガの内の1体には護衛の騎士の持つ大楯で阻まれ、もう1体には咲夜が腕輪から取り出した鎖がオーガの右手に持っている棍棒と腕に絡み付き拘束していた。


「あ、あんた達…」

「すまんな。護衛を仰せつかったというのに、護衛し切れんとは!」

「っ、早く、終わらせる。…“加速Accelerator”!」


咲夜は鎖を手繰る様に加速Acceleratorを発動しオーガに向かって残像を残す様に加速した。


咲夜は加速Acceleratorで一気にオーガに接近すると左の爪の攻撃を躱し、左手に取り出した咲朱でオーガを切り裂き倒した。

さらに騎士の大楯で動きを防がれているオーガの背中に“瞬歩”と“気配遮断”の応用技能“忍足”を使い、音もなく忍び寄ると、咲夜は右手に持っていた鎖を腕輪に仕舞うと同時に、右手に刻夜を取り出し、オーガの背中から双剣を振り下ろし切り裂いた。


咲夜が倒したオーガで最後だったのか洞穴内は静寂となり、上の階の道と次の階の道が出現したのだった。 


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咲夜達がモンスターハウスを攻略している頃だった。

地上の迷宮洞穴の入り口で待機していた騎士の男、レイモンドは、洞穴の壁に背中を預けつつ欠伸をしつつ「皆、まだかなあ~」と退屈そうにぼやいていた。

再び欠伸をしようとしたその時だった。

強烈な威圧感がその騎士の男に突き刺さり「ビクッ」と背筋が凍るようなイメージを抱かせた。


「…な、なんだ!?この嫌な、感じは?……あ、あれは、まさ、まさか!なんでこんな…!?」


騎士の男は威圧感のある方へ視線を向けた。

その方向にいたのは巨大で凶悪的で騎士を睨み、「グラァアアー!!!」と咆哮している大きな恐竜の顔だった。


「ギ、ギゃあああ………!!!?」


今、咲夜達に【恐怖の暴竜】が迫る……



『おまけデータ』

【モンスターハウス攻略後のレベル】

神童咲夜:レベル10【風属性移動系魔法:加速Accelerator

啄木鳥雫:レベル:6

神童正儀:レベル12

早乙女嵐:レベル10

東城彩夢:レベル8

剛田剛:レベル10

細見臣:レベル9

五条院リルカ:レベル11

取井麻生:レベル?

蒔絵桐子:レベル?

武藤遊一:レベル8

瀬戸海治:レベル8

福岡守:レベル7

相楽命:レベル8


【モンスターハウス攻略順と撃墜数】

1:咲夜「3体…残りもの2体、計5体」瞬殺

2:剛「1体」撃破

3:細見「1体」撃破

4:嵐「2体」撃破

5:リルカ「1体」撃破

6:正儀「1体」撃破

7:彩夢「1体」…護衛騎士との共闘。撃破

8:雫「1体」…護衛騎士との共闘。撃破

9:遊一「1体」撃破

10:海治「1体」…護衛騎士守護の元。封印

11:守「1体」同士討ち撃破


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