1章外伝5…その頃の召喚組『迷宮挑戦⑤・3…剛と臣と遊一と海治』

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同じ頃。

剛田、細見、武藤、瀬戸、そして随伴している薄い水色の髪をしておりその表情からは何を考えているのか解り辛そうな無表情な様子で右手に剣を抜き、腰にもう一本差している王国一冷静で、仲間から『アルフ』と呼ばれているどこか気品さを持つ騎士、アルフレッドの5人に、6体のオーガが向かってきた。


「な、なんでこっちに6体もくるんだぁ~」

「おいおい、弱気になってんなよ!この俺様に掛かればこんな奴ら屁でもねえよぉ!」

「フン、強気だな、アイツ…さて、遊一、召喚の詠唱をしとけよ。俺もあの一体を描かせてもらう」

「分かってるよ!……アルフさん、海治の護衛頼みます」

「…了解しました。おまかせを」


凶悪な顔をしてこちらに向かってくるオーガにビビりまくる臣をよそに、剛は強気に前に出てオーガと対峙するのだった。


「へっ!俺様を少しは楽しませられるかテメエは!…そらぁ、オラァあああああ!!」


雄叫びと共に剛はオーガに向かって “剛力”で強化したアーティファクトのガントレットによる拳を繰り出した。

剛の拳を腹部に受けたオーガはそれなりの重量があるにもかかわらず吹き飛んた。


「グガァアア!?」

「オイオイ、軽い奴だな。そらあ、これでもくらえやァ!」


剛は吹き飛ばしたオーガに追撃の拳打を繰り出そうとした。

だがオーガは体を後方に下げ、剛の拳を躱した。そして雄叫びを上げながら、右手の棍棒を剛の額目掛けて素早くぶつけた。

オーガの力はそれなりのものである。何の身体強化もしていない人間であればグチャと潰すくらいの力を持っている。

しかし、グチャとなったのはなんとオーガの棍棒の方だった。


「へっ、効かねえな。そんなぬるい一撃じゃあな!そらあ!」


剛にダメージはなかった。

それは、剛の“加護・金剛力士”の効果である。防御反射の効果を体に纏う能力でダメージを逆に相手に衝撃として反射させるのである。

動揺したようなオーガに、剛の気合の入った必殺の拳が腹部に炸裂した。その一撃を受けたオーガは、腹部に穴が開いた。そして絶叫と共にそのまま前に倒れ込むのだった。



(怖い、怖い、怖い)

心の中で臣は恐怖と戦っていた。

細見は臆病な性格なのだ。

特に自分より大きいものは恐怖の象徴と言えるのだ。


(怖い、けど、やらなきゃ、殺される……そんなのいやだぁ!)


向かってきたオーガを「やらなきゃ、やられる!」と睨むと、臣は30cm位の杖をオーガに向け午前の訓練で習得した風魔法の詠唱を始めた。


「風よ、敵を射殺せ!”エアブレード”!」


詠唱を終えた後杖の先から風の刃が形成された。

風の刃は一直線にオーガに向かって行った。

しかしオーガはその脚力で高く飛ぶ事で、風の刃を躱し、臣のいる場所へと落ちてきた。


「ひいィー……なんてな」


臣は転がるようにオーガの踏み込みを躱した。

臣のその表情は恐怖ではなく笑みが浮かんでいた。

その笑みに苛立ったオーガが雄叫びを上げた瞬間だった。オーガの足元、つまりさっきまで臣が立っていた場所から風の刃が真上に放射された。オーガの体の上に向かって。

放射された風の刃を躱す事が出来ずオーガは縦に割れるようにして絶命した。


臣の“加護”である“魔法接地”は魔方陣を予め特定の場所に刻んでおく事で、その刻んだ陣に魔力を通すだけで詠唱無しで発動できるものだったのだ。

臣は最初の風の刃を撃った際に自分の立っている足元に魔方陣を予め設置していたのだ。つまり最初の一撃目はおとりだった。そして計算された様に臣の思惑通りに事が進んだという事だった。


「ふゥ~、いやぁ~怖かったぁ~相手が馬鹿でよかったよぉ~」


(へえ~、彼、ただの小物で、剛田の腰巾着な奴ってわけじゃないんだな…おっと!)


遊一は、細身の一連の攻防に目を向け「意外だな」と感じつつこちらに向かって攻撃してくるオーガに視線を戻した。

遊一はオーガの攻撃を、時には右手に持っている杖の役割を持つ儀礼剣のアーティファクトで躱しながらズボンのポケットからモンスターの絵柄の書かれたカードを1枚取り出していた。

そしてオーガの攻撃から距離を取りつつ、モンスターのカードに魔力を籠めつつ、召喚の詠唱を始めた。


「”地獄の底より、呪いを内包せし蛇竜よ、全ての敵を焼き払え!“」


詠唱を終えた瞬間、遊一がその手に持っていたカードが光り輝いた。

オーガもその光に目が眩み動きを止めた。

いや、オーガが動きを止めたのは驚愕したからでもあった。

それは、今まで攻撃していた人間の前に、異様な、今まで感じたこともない4メートルはある蛇の様な胴体に刺々しい翼をし、オーガを睨む紅い目をした竜がそこにいたのだった。

光輝き、現れた存在に、既にオーガを討伐した者達も、驚きながらそれを見つめていた。


突如現れたその得体のしれない敵に脅えているオーガに対して、遊一は召喚した竜に攻撃を宣言した。


「いけぇ!敵を焼き尽くせ!“地獄の業火”!!」


その遊一の攻撃宣言に召喚された竜は敵であるオーガに狙いを定め、その口から超高温の炎のブレスを撃ち出した。

そのブレスを驚愕で動けずにいたオーガは跡形もなく消滅した。いや、残ったのはオーガがいたという証である影だけであった。


攻撃を行った後、存在維持が出来なくなったのか、召喚竜は霧のように消えていった。

霧のように消えていくモンスターを見ていた遊一は「アレを出したの、もったいなかったなぁ~」と呟いていた。だがそれと同時に自分の能力をもっと知る事が出来て良かったと思ったのだった。


遊一の召喚するモンスターは、遊一の籠めた魔力量によってその存在維持ができるのだ。当然召喚されたモンスターが相手を攻撃する際にも、自身の存在力である魔力を消費するので強力な技を使うと内包している魔力を一気に失うので消滅するのも早くなるのである。


「魔力の向上が必須だね。一発、必殺技撃つだけで維持が出来ないのはどうかだし……さてっと、海治の方はどうかな」


遊一は自分の今後の方針を定めた後、親友である海治の方に意識を向けるのだった。



(召喚能力か、凄いものだな……俺も負けていられんな!)


海治はようやく“魔典画廊”の発動時間を稼ぐ事が出来たので早速起動させた。

護衛として現在向かって来たオーガと対峙している騎士(アルフレッド)が冷静にオーガの攻撃を分析しつつ捌いていた。

騎士が、倒すのではなく捌くだけにしているのは、あくまでもこの度の主役は海治であると認識しているからであった。


海治は右手を騎士と対峙しているオーガに向けた。

その右手にA4紙サイズくらいの四角い光が作り出された。

海治はそこにオーガの姿をじっと見つめる様に指を動かし、まるで筆で絵を描くようにオーガを念写し始めた。

すると対象となったオーガの体が念写された部分から薄れていった。


オーガの体が一部ずつ薄れ消えていく。

騎士はその様子を無表情に冷静な様子で見ていた。本当は内心驚いているが顔に出さない。

そして己の役割が終わったと感じた騎士は剣を納め対峙していたオーガから離れた。

そして、もう一体こちらに向かって来ていたオーガの迎撃に向かうのだった。


オーガは驚愕した。己の体が何かに、まるで吸い取られ縛り付けられるという感覚に襲われていた。

オーガは今まで対峙していた騎士が離れて行くが気にする余裕もなく己が身に起きている原因を探った。

探ると1人の人間が右手を何やら動かしこちらをジッと見ている事に気付いた。

オーガは直感的に「コイツか!」と気付くとその人間に向かって突撃しようとした。

だが……


海治は右手を動かし画にオーガの姿を念写していると、その相手が海治に向かって突っ込んできた。

海治は少しその迫力に驚くも冷静に念写を継続した。

オーガの姿が海治に近づく程に、なんと消えていく勢いが増したのだった。

そう、海治の力は対象に近い方がその効果イメージを発揮しやすいのである。

しかし、非戦闘系である海治では近づいたら危険と言えた。

“魔典画廊”の能力発動するのもまだまだ時間が必要なのであった。

故に海治には能力を展開するまでの時間を稼いでくれる強力な護衛が必要なのであった。


海治の前の画にはオーガの姿がほぼ描かれていた。

そしてそれに呼応して突っ込んで来ていたオーガはその姿がなくなっていった。

そして、海治が「これ、完成っ!」と言った時には目の前にまで来ていたオーガはその姿が消えていたのだった。


「ふう~まあまあの出来だな。やはり近づいた方が描くイメージが湧くようだな。…うん、身を守りつつ敵に近づく方法を学ぶのが必須だな」

「お見事です。魔物を封じる術とは……これは貴重な力です」

「あっ!護衛お疲れです」


海治は他のオーガを臣と共に倒してきた先程まで護衛してくれた騎士に感謝すると右手に持っていた先程のオーガを封じ描いた画をタロットカードサイズにすると感謝の意味を込めてその騎士に渡した。


「いいのですか?」

「ええ。お礼ですから……これからもっと描くチャンスがあるのですから」

「わかりました。では、受け取らせて頂きます。海治殿」


その後、既に決着のついていた剛、臣、遊一、騎士と海治は合流を果たした。

合流した後、目ざとく、遊一は騎士が海治から貰ったカードを羨ましそうに見ていた。

その様子を海治は苦笑しながら「次はお前に渡してやるから」と言うと「ほんとだな!必ずだよ!」と興奮する遊一であった。


その様子を見ていた剛は(こいつ等使えるなあ~何とか引き抜けねぇかなァ~)と内心考えており、臣は遊一同様に騎士の持っているカードを羨ましそうにこっそり視線を向けるのであった


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