1章外伝2ー⑤:SideEpisode①…過伝:ステラ姫Ⅰ

私の名前はステラリーシェ・ジャスティン・ローズマリー・アルテシア。

両親からは“ステラ”と呼ばれ、周囲の者達にもその様に呼んで頂いています。


私が生を受けたのは、嘗てこの世界において人敵と認識されている魔人族の王である【魔王】を討伐した青年が興した王国である、アルテシア王国の王族としてでした。

今でも優しい皆に慕われる国王の御父様も、あまり丈夫ではない体故に子を成すのが難しいと言われていた王妃であるお母様も大層喜んで下さいました。


私は物心付く年頃より帝王学や礼儀作法等を学び始めました。

次期後継者となるに相応しい教養を、いずれは御父様の御手伝いをしこの国の人々が幸せに生きて暮らせるようと言う想いから頑張りました。


そんなある日、1つの朗報が舞い込んできました。


なんと、私に弟か妹が出来たのです。

王妃である母は、元々虚弱であった為、私を生んで次に子を成すのは難しい、と言われていたのです。

ですが私が8歳の時に、母に子を孕んだ事実が発覚したのです。

私は当然喜びました。

だって家族が増えるのです。

こんなに喜ばしく嬉しい事はありません。


そして、幾年を越え、無事生まれたのです。

生まれたのは弟、男の子でした。

生まれた弟を初めて見て、私は可愛いなぁと思いました。

名前はスバルグラン・ジャスティン・レルクス・アルテシア。

『スバル』と呼ばれました。



それから幾年が経ちました。

私は14歳となりました。

弟のスバルは6歳となりました。


スバルは見る見る成長し、可愛さのあった顔は凛々しさを持つようになりサラッとしたショートの金髪もあり、美少年と言える容姿でした。

さらには、スバルは武の才に恵まれたようで6歳にして、大人の下級騎士と剣を交える事が出来ていました。

その様子に周囲の者達はスバルをかつて神から得た聖剣を持って、当時人間族と争っていた魔人族の王、【魔王】を討伐した青年。この国の創始者である私達の御先祖様の再来と喜んでいました。


我が国であるアルテシアは、嘗て魔王を討伐した1人の青年が創設した国なのです。

その青年は魔王を討伐した後、その青年の手を離れ、今のこの土地に転移した神に刺さりし魔を討つ【聖剣】を見守る為創設したのです。

その初代国王となった青年は、圧倒的な武力を有する豪傑の者でした。

並みいる魔物や魔人も彼には通じなかったそうです。


スバルは、その初代国王の青年に匹敵する者となる。そう両親や周囲の者達から期待されました。

ですが、その周囲から期待があの子を自信と言う『自分は誰よりも強い』と言う驕りをもたらせる結果となり、その1年後、あの悲劇が起きてしまったのです。


それはあの子スバルが王国の辺境の地に出現した魔物討伐に出掛けた時でした。

両親も私も心配であったのですが、弟の武の才を伸ばすのはこの国にとっても良い結果となると考え容認していました。

勿論弟には我が国の精鋭の一個師団が付き従っていました。

その団には優秀な騎士と魔術師が多く存在していました。

今回の魔物討伐も問題なく終える………はずでした。



それは最後の魔物をスバルがその手に輝く黄金の剣で掃討した後だった。

討伐完了と共に王都に帰還し始めようとした時だった。

この場に1人の女性が突如現れたのだった。

魔物を掃討し気が緩んでいたとは言え、索敵系の技能を持つ騎士達は全くその女性が認識出来なかった。

突然現れたその女性は殺気の篭った金の瞳で周囲の、スバルや護衛騎士達……いや、真っ直ぐにスバルを睨んでいた。その視線にはまるで仇に遭ったかのようだった。

無論スバルには覚えはない。他人に怨まれる覚えはなかった。


「何者だ?……」

「殿下!ア、アレは、魔人族です!御気―!!?」


睨みつけてくる正体不明の女性を、怪訝そうに見つめるスバル。

そんなスバルに相手の女性の種族が何か逸早く理解し警戒を促そうと騎士は声を掛けようとした。

だが、その騎士は最後まで言葉を発することは叶わなかった。その騎士の首が飛び地面へと落ちる。それと同時に首より血潮が上がる。そして首を失った身体はそのまま後ろに倒れた。

周囲がざわつく。

一瞬だった。

誰も今の一連の動きが、何が起きたのか理解できなかったのであった。

そして、その早業をしたと思われる魔人族の女性の手には、禍々しい魔力を帯びた漆黒の大鎌が握られていた。

何時取り出したのか?

何時武器を振るったのか?

周囲の騎士達は理解不可の出来事に困惑していた。


「……忌々しい」


魔人族の女性は小声で呟いた。

その美しさのある小声の呟きであったその声。

また、全てを凍て付かせるかの如くの威圧が籠められた声。

周囲の騎士達の大部分はその声を聴いただけで、まるで自分はここで死ぬ、そう感じさせられ戦意を砕かれていた。


そんな中、スバルだけは余裕の表情のままだった。


「ふうん。君、なかなか強いんだね。なら、僕と一戦交えようじゃないか!」


スバルは大鎌を持つ強敵と言える魔人族の女性に黄金の剣を向けながら宣言した。

スバルには先程の一撃がちゃんと見えていたのだ。

先の騎士の首を飛ばした一撃を。

だからか、スバルには自信があった。

自分ならこの魔人の女性の動きが見える!それに、魔王を討った血を継ぐ自分が魔人族の、まして女性に敗れるはずがない!


「………」


魔人族の女性は、不機嫌そうに苛立った眼を細める。


「いけません!殿下は-!!」

「僕は強い!この国の始祖である僕の先祖!その血を持つ僕が魔人に負けるわけがないのだ!…いくぞ!!」


スバルはその右手の黄金の剣を携え魔人族の女性に挑む為に、向かって駆け出す。

そして………


…その戦いの結果は、スバルの敗北と、その場にいた一個師団の壊滅と言う報告だった。



「何、だと……」

「そ、そん、な……」


その報告を聞いたスバルの両親である国王と王妃は「バカな!?」と言う気持ちで意気消沈と言った様子で深く王座に腰掛けた。

私も信じられなかった。

スバルが戦死したなんて嘘であると、何かの間違いではないか! そう思う事で何とか精神を持たせていました。


暗い空気の中、そんな時でした。

突如、何もない空間から1人の魔人族の女性が空中に浮きながら現れたのだった。

その女性は、まるで闇の様な深い銀の腰よりも長いストレートの髪を靡かせていた。そしてその瞳は噴気に包まれているかのような金の瞳を細めていた。その頬と額には魔人族特有の紋様があった。そして、漆黒のドレスを整った体に纏っていた。


「…なに、あの子は?」

「…馬鹿なっ!なぜ貴公が此処に!」

「……御父様?知り合いなのですか?」


突如現れた存在、敵と認識されている魔人族の女に周囲の者、近衛騎士達は王達を守る為剣を抜こうとした。

だが、


「…動くな。……一歩でも、少しでも動けば此処に居る者全て殺す。……童はこれを届けに来ただけなのだからな……」


その女性の冷たい声。聞いただけで震えてしまう。

剣を抜こうとしていた騎士達も青ざめ動く事も出来ないようだった。

その様子を一瞥した空中に浮遊している魔人族の女性は指を鳴らすと、何もない空間から二つのモノを取り出した。

その取り出したモノの1つを見た王妃である母は絶叫した。

私も、ヒッ!!?と悲鳴を上げていた。

取り出されたのは人間の生首であった。

しかも私達にとっては大切な存在のモノであった。

それは間違いなく“弟”である”スバル“の首であった。


国王である父は女性に向かって叫んだ。


「貴様ァ!我が息子を、よくもぉ!!-」


こんなに憤怒した父を見るのは初めてであった。

何時も優しい父様。

その父が鬼の様に目の前の女性を睨みつけていた。


眼の前の女性は、冷やかな眼で一瞥すると気にせず声を発する。


「……フン、童に挑んだ故の結末だ。……これで、嘗ての童の怒りの1つが晴らせた。……そら、帰してやる。これより下は灰にしたのでな、これしか残っておらんよ。……ああ、後これくらいだな」


魔人族の女性は弟の首を父様に向けてゆっくり投げた。父様は涙を流しながらスバルの首を受け止めた。そして、もう一つ取り出され浮かんでいた一振りの剣を私に向かって渡してきた。

その剣は、スバルが7歳の誕生日に渡された黄金の剣、その銘はデステニーと言うものであった。


もう用事は終わったと言うかのように目の前に女性は右手の指を鳴らすと自身の周囲の空間を歪ませた。

歪ませた空間から消えようとしている。

それに気づいた私は叫ぶように声を出した。


「貴女は一体何者なのですか!?なぜ…何故我が弟を!!」

「……王族でありながら童を知らぬとは無知だな。知らぬと言うのは罪だな。童の父を討ち、世界の外敵である“ヤツ”を庇護する愚かな者共。……まあ、今の童は気分が良い。一度だけ告げよう。……童の名はテスタロッサ。貴様達が【魔王】と呼ぶ者だ」

「ま、ま、おう!?……」

「ではな………」


その名を告げた後歪んだ空間と共に魔王と名乗った女性は消えた。

残ったのは最愛の弟であるスバルを失った悲しみと、殺された怒り、そして【魔王】の圧倒的な威圧感による絶望、誰も声に出せない静寂だけであった。



私は15歳となりました。

スバルが亡くなって早1年と少し。

その期間でアルトシア王国は大きく変わりました。


スバルを失った事で父は消沈し、さらにスバルを失った後、元々病弱であった母が亡くなった事で、父も寝込むことが多くなっていました。

まつりごとに置いては私が指示を出す事が多くなりました。

幸いにも幼少の頃より学んでいたので何とか宰相や文官の者達の協力の元、行う事が出来ていました。


その他で私自身にも変化が訪れていました。

それは、あのスバルを失った日から数日後、私に1人の女性の声が届くようになったのです。

その者は【女神アテネ】と名乗りました。

無論驚きました。

この世界の創造者、そして人を見守りその営みを見つめる存在。12の神存在。

そして最後まで、反逆した7つの神に対峙した女神、それこそ女神アテネであった。


私は女神アテネの声を聴く事が出来る“女神の巫女”と言う役割と称号を得ていました。

ある時、女神アテネは私にこう告げてきました。


“この呪法を用いる事で、この地へ異なる世界の勇者を導けるでしょう。魔を滅ぼす聖剣もその光を招くでしょう”


と、告げたのです。

私は神託の中で“魔を滅ぼす”と言う言葉に魅力を感じていました。

魔、それは魔物と言う人にとって害するモノ。だが、この世界にはもう1つの、そして私にとって許せない存在。それは魔人です。その中でもあの時現れた【魔王テスタロッサ】。

彼の者だけは許せなかった。


(私の家族を壊した魔王だけは!)


私は直ぐに王宮内の魔導師を招集した。

私も魔法を習得していましたが、”女神アテネ“の提示した召喚魔法は専門外と言えました。

招集した魔導師達にこの“勇者召喚”を告げると一様に難しそうな表情を浮かべていました。

怪訝そうに私は訊ねると、この召喚魔法は難易度が最上級に位置している魔法だそうで、招集された魔法使いですら解読に難易をもたらしていたのだった。

解読を始めてから数か月の時が過ぎました。

未だに糸口を掴む事も出来ない状態でした。


私は自国の者で不可ならと、冒険者ギルドを通じて優秀な魔法の使い手を探す事にしました。

そして幾人かの魔導師の中、1人の人物に白羽の矢を立てました。

私はその者をすぐさま王宮に招き寄せました。


「初めまして、王女殿下。御招き有り難きなりです。私は…そうですね。名前は私の近親者のみにしか教えられないので、こう呼んでください。…【白の魔導師ホワイトベレー】と……」


私はこうして白の魔導師ホワイトベレーを招きました。

白いフード付きの魔導服。そのフードで目元まで深々と被っている。見えるのは口元と微かに見える白み掛かった金髪であった。


早速、私は白の魔導師ホワイトベレーに女神の神託、その内容を告げました。

その内容を「フムフム」と呑み込んだ白の魔導師ホワイトベレーはすぐさま他の魔導師に必要な事を告げて行きました。

皆、「なるほど、こう言う事だったのか!」「流石噂に聞くお方だ」等と彼女を称賛しました。


それからは、時折居なくなる事を除いて白の魔導師ホワイトベレー主動で計画は進んでいきました。


そして、私が16歳となって数か月。

いよいよ、異世界の勇者を、あの憎き魔王を討てる聖剣の主を招く事が出来る。


皆の視線の中、長年の、この時を、待ち望んだこの時を始める。

見詰める中には国王である父もいる。


そして、私は召喚の呪文を唱える。

女神アテネより告げられし召喚呪文。

今回は何かの用事が入ったとかで不在だが、白の魔導師ホワイトベレーを始めとする魔導師達が組み上げた術式。

それらの成果が今ここに成る。


(よしっ、始めます!)


そして、召喚は成功し、その召喚に応じて現れたのは見慣れない服を纏った自分と同い年くらいの”勇者”の称号を持つ少年と、“女神の加護”を有する少年少女、そして……なにか不思議な感じがした“加護”を持たない1人の少年だった。


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