2章ー迷宮【ガルダ】③…新たな出会い

「ていっ!」

「白き槍よ敵を射抜け‐“ホワイトランス”!!」


マナがその手のクロスレイピアで一つ目の人型の魔物を一突きで、相手の急所である大きな眼を射抜き倒す。

カナも光の槍を飛ばす魔法で同じく一つ目の蝙蝠の魔物を倒している。

光り輝く槍が一撃のもと撃ち破る。


(中々だな2人とも…)


臆せず魔物を倒すマナとカナに思っていたよりも魔物を倒せている。

人相手では海で海賊相手に応戦できていた。

しかし魔物はこれが初陣。しかも魔物とはいえ命を奪う行為だ。


「カナ!魔法で援護お願い!」

「わかったのマナ!“封陣鎖”!」


少しは躊躇が生まれたりと手こずるかなと思ったりしたのだが、マナとカナはお互いをカバーするように息の合った連携も見せていた。

マナはそのクロスレイピアを”魔力付加”を纏わせ強化しつつ、自身にも強化技能を用い魔物に立ち向かい。

カナは得意の魔法制御を活かした光による攻撃魔法に相手を縛る捕縛魔法で相手を制し援護する。



「ギガアァ!!」

「遅い」


大きな叫びと共に、自分よりも大きな体格に鋭い牙と爪をした蜥蜴に似た魔物が、その鋭い爪で襲い掛かってくる。

それをヒョイっと回避し『剣』を振るい首と腕を切り裂き落とす。


「やっぱりいい剣だな。切れ味最高だぜ」

“キョウシュクデス、マスター♪”


惶真は『剣』の切れ味に満足し、『剣』は惶真に褒められ喜びに奮えた。


襲い来る魔物を、相手の攻撃を見極め回避しカウンターに剣を振るう。

惶真は自分からは動いていない。

剣の振り込み、相手の動きを見き分ける目を養い、攻撃、回避、防御、反射を意識しながら倒していく。

今は一連の動作の確認を意識しながら行っているが、しばらくしたら無意識でも動けるようにしようと考えている。


「オウマ!こっち終わったよ!」

「周囲に敵影はないの御主人様!」

「おう!こっちも終わった!魔石やら素材を回収したら一休みしようか」

「「わかったー『の』!」」




迷宮ガルダに潜り始めて現在は8階層に来ている。

既に8階層に存在する魔物は制覇したので次は9階層に挑む。

面前には次の階層に進む装置がある。

このガルダは階層ごとにこのような仕掛けがあり、何かしらの条件をクリアする事で次の階層に進める仕掛けになっていた。


次に挑む前に一休憩する事にした。

迷宮に入って大体3時間くらいだろうか。

今のところ順調に進んでいると思う。


「はぁ~ちょっと疲れた~やっぱりずっと動きぱなしだからね~マナ、飲み物頂戴~」


先程と違い幼女の姿の戻ったマナが腕を伸ばしながらそう言う。

マナは魔法より魔力を付加されての戦闘がメイン。遠距離魔法もない事はないが精度が低いのであまり使わない様だ。なので自ずと相手に近付き攻撃する方法が多くなる。その分、体を動かす機会が多くなるのだった。

ただ本人は疲れたと言っているが疲労の色は殆ど見られない。

まだまだ元気満々の様子だ。


「あはは、お疲れなの。はい、お水なの」


そう言いマナに水の入ったコップを渡すカナ。

カナもマナと同じく今は幼女に戻っている。

ありがと、と感謝しマナは一気飲みをする。


「あぁ生き返る~」

「マナ、年寄りみたいなの」


苦笑するカナ。

そんなカナに、


「おい。ほらカナも少し飲んで休んでろ」

「あ、ありがとうなの」


空間魔法にて水筒を取り出すとコップに中身の水を注ぐ。その水の入ったコップをカナに渡す。するとカナはどこか嬉しそうな照れのある笑みを浮かべる。

それを見てマナが『良いなぁ』と羨ましそうだった。

ただやはりとその時に惶真は感じ取った。


(元々肌白いがやはりマナより疲労の色が浮かんでいるな。おそらく魔法の行使で魔力を多く消費した為だろうな)


カナの表情から魔力消費による疲労が見て取れた。

肌白いさに若干青みが見え目元にも薄く隈のようなものが見える。


「ふう…なんだか元気が出た気がするの。ありがとなのご主人様」

「気にするな」


(どうやら魔人族にも多少だが効いてるようだな…)


カナの肌色が戻り薄ら浮かんでいた目元の隈もとれている。

それに実験の効果があったと満足する。

カナに渡し飲ませた水は、実はただの水ではない。

この水は惶真が魔石から抽出して作った特製の魔力回復水なのである。

特製と言ってもまだ試作品の段階の代物であるが。

一応完成後に自分でまず試している。

完成度で言えばまだまだと言える。

現在の効能は多少の魔力回復と疲労の回復くらいだ。


(魔石から抽出する。それ自体は確か既に過去の結果があるんだったか)

”イエスデス、マスター”


『剣』と対話しつつ色々思考する。

魔石を武器などに付加させる事は出来る。魔石を武器に転用は技術的にも既に実証され色々と応用されているらしい。

しかし過去においても実現が不可とされているのが、魔石を体内に取り込み利用する事だった。

『剣』によれば過去にとある機関が実験したらしい。


(なんでそんなことまで知ってるのかね、コイツは…)


『剣』の知り得ている情報に惶真は不思議がる。

見た目は普通の剣だが意思がある不思議剣。

本当に便利な事だ、改めて手に入れてよかったとも思う。


少し脱線したかな。

魔石を体内に応用し取り込む技術についてだ。

惶真にしてはコレの完成は櫃実だと考えている。

それは惶真達の魔力消費の多さにある。

惶真達の能力や魔法は、特に”固有能力”である”恩恵”が大きい。

”覚醒”によって少女形態に変化する事でマナとカナは魔力値も向上している。

それでも”恩恵”による固有能力及び魔法はその多くの魔力が消費してしまう。精神回復薬がいくらあっても足りない、そう考えに至っていた。


そこで惶真は自分でも回復品を作製しようと思う様になりいくらか試作品を作り始めた。

先ず”薬草知識”を利用して作り始めたがイマイチの出来だった。

理由として挙げるなら回復薬に使用する素材、つまり薬草の類を見つけるのに時間が掛かるからでもあった。


素材が直ぐに収集出来ない場合、回復薬を作れるのに限りがあるから。

やはり、いつでもどこでも作成できる万能薬がいい、これに尽きる。


それから、他の方法を思案していると『剣』が教えてくれたのだ。

魔石から魔力を抽出する方法を。


そして試行錯誤しつつ試し、まだまだ未完成な出来だが一つ出来上がった。

それが魔力を回復する水-いつでも気軽に服用できると水-魔晶水の生成に成功した。

これには惶真の固有魔法“変成”を用いている。

本来魔石から抽出した物は人体に害となる。

しかし、惶真の"変成"の真価は存在の変換である。惶真も始めはこの“変成“が魔物に関する能力と考えていたが、この力は【魔】に関する存在に干渉出来るとわかった。

魔物だけでなく、魔法其の物や、魔石と言った物でも変換出来る事にある時気付いたのだ。


この力で魔石を魔力の元と言われている元素、【魔素】に変換し、変換した魔素を水に融け込ませる。当然この時に”変成”を使っている。

これで魔力を体内に取り込む事が可能な飲料が完成した。と言った云ってもまだまだ効能も低く、少し回復できる程度の代物だ。

魔石の種類や質によって変わる。

使用する水によっても変わる。

それに、現段階で惶真が精製した回復水―魔晶水―は人間が服用できる代物ではないのである。

普通の人間がこの水を飲用すれば体調を崩すだろう。

試作(未完成)品を船の中で適当な人間にこっそり飲ませた所、直ぐに体調を崩し寝込んだらしい。

勿論、罪悪感などない。他人事であると鬼畜の所業だが惶真は気にしない。


ではカナに飲ませた水だが…

カナは魔力を回復し体調を崩す様子もない。

それはカナが魔の血を持つ魔人族だからだろう。

現状これが使えるのは魔人族であるマナとカナ、そして創造者である惶真自身のみである。


魔晶水の改良点を頭の中でまとめた後、お腹の鳴く音が聞こえた。

マナとカナだった。


「はうぅ…」

「あうぅ…」

「そう言えば朝から食べずの行進だったな。ここらで腹ごしらえでもするか」


恥ずかしそうなマナとカナに苦笑しつつ、惶真は時空間から3人分のパンと魚を取り出す。

惶真の空間魔法である時空間は時が止まっているので鮮度はそのままで腐る事もない。

2人にパンをそれぞれ渡した後、赤い魔石を取り出し火を起こす。魚を串で刺すと火で焼く。

パチパチと良い匂いをさせながら焼けていく。

マナとカナは焼ける魚の香ばしい匂いにゴクッと喉を鳴らす。


「こんなもんかな、ほら焼き立てだ。熱いから気をつけろ」

「はぁい、おいしそー……熱い、美味しー!」

「どうもなの、良い匂い……暖かくて、美味しの!」

「フッ……うん、焼きたては美味いな」


ハフハフと焼きたての魚に齧り付き食べるマナとカナ。

自然(迷宮の洞窟内)の中で食べる焼きたては良いもんだと口にしていく惶真。



腹ごしらえを終えた惶真達は次の階層に進む。

そして9階層も問題なく進み次の10階層に進んだ。


(なんだ?……近くから弱ってる魔物の気配がする?)

「どうしたのオウマ?」

「どうしたの御主人様?」


10階層に進んでしばらくして急に止まった惶真に聞く2人。


「あぁ…やはり、だな。なんだかこの先に弱ってる魔物の気配を感じるんだよ」

「えっ?……あっ、本当だ!」

「本当なの、何かいるみたいなの」


惶真の指摘にこの先を中心に感覚と研ぎ澄ませると2人も何かの存在を感じ取ったようだ。

何かの罠かと警戒しつつ3人は進んでいく。

この迷宮には現在惶真達3人だけしか訪れていない。

だから他の冒険者の仕業ではないと考える。

進む中、惶真は感じ取った存在に興味を示していた。


(やはりだ。弱り切ってるのに、どうにも強い意思ってやつを感じるんだよな…)


そして進んだ先に一匹の魔物がいた。

所々傷があり、傷の所から薄い煙の様な物が立ち上っている惶真と同じくらいの大きさの腕や足は太さのある狼型の魔物だった。


近付くとその魔物もどうやら惶真達に気付いていたのか身体は動かせない様だが強い意志のある目を睨むように射抜いてくる。


その負傷し今にも死にそうな魔狼の目を見て、惶真は「面白い」と呟くと警戒するマナとカナに待つ様に告げると魔狼に近付く。


「オウマ!?」

「御主人様!?」

「大丈夫だ。いいから任せろ」


『グルルっ…』

「いい眼をしている。強さのあるいい眼だ。死に体の身でここまで強い意志を持ってるなんてな」


惶真は右手を警戒する魔狼に向ける。

そして己の固有魔法”恩恵・変成”を行使した。

黒い魔力が魔狼を包む。

すると傷は塞がり恐らく身体を構成しているであろう魔素の流出を止めた。

何が起きたのか不思議そうなであるがこの人間が原因であると警戒のある目を惶真に向けながら何とか身体を動かす魔狼。

だが傷が塞がり若干の体力が戻ったが上半身を何とか動かせる程度だった。

勿論惶真が加減したからだ。



『グルルッ』

「……」


そんな惶真とグレイファング魔狼とのやり取りを眺めていたマナとカナ。

死に体だった魔狼が息を吹き返したのを、2人は惶真が”恩恵”を使ったと分かった。

どうしてそんな真似をするのかとハラハラとする2人。

惶真が二人に『大丈夫』と言ったので、大丈夫だとは思うが心配で一杯だった。

ふと惶真が再びしかも無防備に右腕を魔狼に差し向けた。

まるで噛み付いていいぞと言うかのように。

一体何を?、そんな風に思う次の瞬間だった。

魔狼が唸りと共にその鋭い牙で惶真の差し出した右腕に噛み付いた。

その光景悲鳴を漏らすマナとカナ。


「オウマッ!?」

「御主人様ぁっ!?」


慌てて近付こうとすると、惶真が目を二人に向ける。

だから大丈夫だと言う様に。


結果として惶真の右腕は問題なかった。

薄ら跡があるだけで傷らしいものはなかった。

そして今……魔狼は惶真に傅く様に撫でられていた。


「クゥーン」

「よしよし」


どうやら魔狼が仲間になったようだ。

魔物が人間に使役されるなんてありえないと言われているのにマナとカナも知っていた。

噂程度ではあるが魔人族の王は使役できるとか聞いたことがあるくらいだった。


何でもありの惶真に呆れるマナとカナだった。


ちなみに懐いたのは惶真に対しただけだったようだ。

マナとカナには威嚇し吠えるのだった。




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