2章ー⑧:取り敢えずここに泊まるか…しかし似てるな

カナによる”再生“による死んだ人間が生き返る(魂はないので生ける屍とも言う)と言う奇跡の後。

惶真はこの後の事を思案していると、何だか空が曇って来たのに気付く。「雨か?」を呟いた瞬間からポツポツと降り始めた。


「わわ、雨が!」

「うう、濡れるの!」

「あらあら」

「風邪ひく前に家に行こう」

「……まっ、仕方ないか……」


迷宮『ガルダ』に挑戦する前に色々無茶な魔力消費をした事もあり、すぐさま挑むのは難しいのと、さらに雨も降って来たので明日に挑戦すればいい、と判断した惶真は一晩この村に滞在する事にした。

そう判断した事をマナとカナに伝えると、2人も賛成してくれた。

特にカナは惶真からの魔力共有による補填があったが、それでも大規模広範囲魔法の行使に魔力を消費したことに変わりなかった。

なので、惶真の提案に賛成した。と言うより一刻も早く雨宿りしたいのが本音であった。

一晩泊まる方針を定めた惶真達に白兎のリムルが「泊まられるのでしたら、家はどうですか?助けて頂いた事もありますので」と提案する。

惶真たちは了承し一晩リムルとヴァニラの家の世話になる事になった。

リムルとヴァニラの先導にて2人の家に向かう。

その際に、『剣』が伝えてきた違和感を確認する為に”心眼”をヴァニラに向かって使ってみた。


(……成程な…面白いな……―とはな)



案内された家は白い半球状のレンガ細工で作られた物だった。

この村ではこの形状が主流の様で他の家も大小の違いはあるがほぼ似た様なものだった。

雨も強くなってきたので早速家に入る。

入るとリムルが人数分のタオルを取りに行く。小雨だったが多少は濡れていたのだ。そして、持ってきたタオルで髪や服を軽く拭く。


「私はこれから食事の準備をしますね。ヴァニラは皆さんを部屋に案内してあげてね。……そうね、あとお風呂の火を付けて来てくれる?皆さんも濡れて冷えていると困りますしね」

「はぁい!お兄さん達、こっちだよ、まず泊まる所に案内するよぉ」

「……アンタが作るのか?」

「ええ、そうですが?…やはり獣人の女の料理は嫌ですか?」


何やら悲しそうな表情を浮かべるリムルに、惶真は気にしていない事を伝える。惶真は別の事を考えていただけだからだ。


「いや、そう言う訳じゃない……まあ、別人だし……」

「?」

(まあ、別人だし……んぅん、でも、美柑さん料理下手だったからなぁ~不安がちょっとな…)


髪の色が違う。美柑さんは日本人らしい綺麗な黒髪をしていた。リムルも綺麗なすらっとした髪だが、白い髪なのである。

性格も違う様に思う。

美柑さんは私生活以外ではしっかりした人だ。惶真が唯一信頼できる人と言う事から信頼に値する人なのだ。優しさと、時には厳しさを併せ持つ人だった。他の親戚連中は惶真を毛嫌いしていた中で美柑だけが善の心から接してくれていた。


(……心配してないと、いいな…)

「?」


惶真の憂いの含んだ表情にリムルは不思議気な様子で首を傾げていた。

リムルも美柑さん同様に優しさと包容力を持って居る様に思う。ただ、辰のある様だが普段はおっとりとしている様に思える。

……しかし、似ている。

背丈から顔のつくりまで本当に似通っている。当然種族が違うので耳は違うが。

この様な出会いでなく、すれ違いで出会った時にもしかすると想わず名を呼んでしまうかもしれないくらいだった。


(まあ、いいだろ。気にし過ぎだな。ただ似てるだけ……)

「どうしたの、お兄さん?…お母さんがどうかした?」

「いや、何でもない。それより、部屋に案内してくれるんだろ?」

「うん……こっちだよ」


案内される中、つくづく興味のある2人だなと思う惶真であった。



「お兄さんは此処使って。あなた達はこっちだよ」


まずは案内されたのは俺が泊まる部屋の様だ。

案内された部屋には棚が沢山置かれており、色んな本がみっしりと保管されていた。

机にベッドもあり休むだけなら問題はなさそうだ。

俺的は文句のない部屋なのだが、マナとカナは不満で一杯と言う顔をしていた。

不満の理由は俺と違う部屋と言う為だった。


「えぇ!違う部屋なの?……オウマと一緒が良いのに!」

「うん。御主人様と一緒がいいの……」

「レディが男の人と一緒の部屋なんて駄目に決まってるよ!………はい、2人は此処を使って。2人共普段は小さいみたいだしこのベッドでもいけるでしょ?」


マナとカナが案内されたのはどうやらヴァニラの部屋のようだ。

先程の部屋と違い、女の子らしい人形やらがある部屋だ。

ベッドも小さい方だがマナもカナも、幼女の状態ならなんとかいけるだろう。


「おい、ここはお前の部屋だろ?お前はどうするんだ?」

「ん?私はお母さんと一緒の部屋で寝るわ。……さっきの事もあるし一緒にいたいから良いの」


そう言う理由なら問題はないか。

「それじゃ、後でね。私お風呂の火を入れて来るから、出来たら呼ぶから待っててね」と言い、ヴァニラは笑みを浮かべつつ風呂場に向かう。


取り敢えず風呂まで時間があるようなので案内された俺の部屋でマナとカナとで、明日の『ガルダ』挑戦に関して打ち合わせをした。

打ち合わせの中「一緒の部屋……ダメ?」と可愛げのある表情をしてくるが、却下した。

ここはあの2人の家。なら家人の言う通りにするのが当然だと思うからだ。

まあ当然不満そうなマナとカナだったが…



入浴後『もちろん別々で、マナ、カナ、ヴァニラが先に入り、俺が後に入った。俺が上がった後、料理が出来たようで最後にリムルが入った。マナとカナは、俺と離れるのが嫌だと、一緒がいいとごねたが、ヴァニラによって却下された……』食事の出来る場所に案内された。

外は未だ雨が降り続けているので、実際の時間は分からないが、大体夕方を過ぎた頃くらいと推察した。


「お粗末な物ばかりで口に合うかは分かりませんが、どうぞ召し上がってください」

「「「おぉ!…」」」

「ふふん♪」


用意されたのは中々美味しそうな匂いで食欲を引き出させるものだった。

美味しそうな食事を前に三者とも思わず声が漏れていた。

ヴァニラはそんな惶真達の様子に「どうだ!」と言うかのように満足げだった。



上手い食事にありつけて満足する。

正直美柑さんによく似ているリムルの腕前はアレなんじゃないかと危惧したりもしたが文句なしの上手さだった。

これは今後も食べたいと思わせるものだった。

今まで、両親を失ってからは自分で食事を用意するようになり、美柑は料理が出来ない事もあり惶真が作るのが殆どで、他人の料理を口にする事がなかった。

なのでか、両親が存命していた頃の、母の作ってくれた手料理を思い出していた。


食後のお茶を飲みながら一服していると、ヴァニラが親しげに話しかけて来た。

ヴァニラは食事中にも色々話しかけてきていた。意外にもマナとカナにも話を向けていた。

どうやら、風呂に入った際に、最初は魔人族という事で少々怖がっていたが、2人が自分達と変わらない、ただの女の子だと思う様になったそうだ。3人で背中を流し合ったりと親交を深めたようだ。


「ねえ、お兄さん達は明日もしかして『ガルダ』に行くの?」

「ん?ああ、そうだが?」

「という事は、お兄さん達は冒険者になったばかり?」

「ああ、そうだ。よく解ったな」

「『ガルダ』に挑まれる方は基本的に”赤”の人達が殆どなのです」

「そうなのか?まあ初心者用とギルドでも紹介されたしな」

「はい。ですが……ここ最近はあまり来る人はいませんでしたね。ですから皆さんは久しぶりのお客様という事になりますね」


俺達のこれまでについて教えてやりながら話をしていて、俺はふと、気になった事を、特に気にする事もなく2人に訊ねた。


「そう言えばなんが、何故お前達は此処に、人間のいる村で暮らしているんだ?獣人族ってだけで迫害するような村で」

「それは…ここが夫の故郷だからです」

「旦那の?……その旦那は?」

「2年程前に病気で亡くなりました」

「オウマぁ~」

「ごしゅじんさま…」

「いや、悪い。すまん、変な事を聞いた」

「い、いえ、いいんです。もう2年も前の事ですから」

「お母さん…」


哀しげだが笑みを浮かべるリムル。

そんな母を心配するヴァニラ。

デリカシーがない!と非難的な視線を向けるマナとカナ。

軽い気持ちで聞いたのだが居心地が悪い結果となってしまった。

話を変える様に他の事を聞いた。


「ああ、悪かった。不躾だった。……それでだが、今までどうやって暮らしてたんだ?その耳とかどう隠していたんだ?」


今のリムルとヴァニラの頭にはそれぞれ髪の色と同じ兎耳がある。

今のこの村でなら正体を隠す必要はないと惶真に言われ、2人共隠す事しなかった。


「それはですね…」


リムルは目を瞑ると”擬態“を発動した。

すると、リムルの頭にあった兎耳が消え、普通の人間の様な耳に見えるようになった。

ヴァニラも同様に”擬態”して見せた。

リムル同様に普通の人間にしか見えなくなった。


「なるほど”擬態”の能力か。それなら簡単には正体がばれる事が……なんで知られたんだ?」

「それは……」

「…私のせいだよ」


ヴァニラが伏せ気味に悲しみとも怒りともいえる表情を浮かべていた。膝に置いている両手はフルフルと震えていた。

そんなヴァニラに惶真が問う。


「お前の?」

「私のせいで、知られちゃったんだ。…あの裏切り者達に!」


それから聞かせてくれた。

あの村での出来事が起きた経緯を。


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