2章ー⑨-Ⅰ:ヴァニラの語り

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ヴァニラSide🐇


始まりは、この村の外れにある森での出来事だった。

私は朝早くに村の友達と一緒に森に訪れていた。


基本的に、森に魔物が出没する事はほとんど無い。

魔物の大半は、近くにある迷宮『ガルダ』に居り、魔素の溢れる迷宮から出て来る事は無いのです。

だから、この村も迷宮の近くに在るけど、今まで魔物に襲撃されるという事も無かったのです。


そんな訳もあり、私はその時まで友達と思っていた奴らと森にやってきた。

目的は森にある、この時期にだけ咲く珍しい薄紅色の花『コトノハナ』でした。

この花は好意のある異性に送ると幸せが訪れると言う言伝えがあったのです。

私は、好きな異性なんてまだ居なかったからあまり興味は無かったけど、友達だった子が「どうしても欲しいの、あの花で、彼を…」と顔を真っ赤にして御願いして来たからだ。

「しょうがないなぁ」と苦笑しつつ、私はその御願いを聞き入れ、薄紅色の花コトノハナを採りに向かう事になった。


お母さんに、森に行ってくる事を伝えた後、森に集まった。

そこには、あの子(名前はソラハ)と、村一番の人気者だった少年(名前はカイン)、ソラハが好意を向ける少年だった。


「……あれ、カインもいるの?」

「うん、ソラハがどうしてもって言うからね、僕も一緒に行くよ」

「だって、カインにどうしても渡したい物があったの、だから…」


どうやらソラハは見つけた薄紅色の花コトノハナを直ぐにでもカインに渡したかったようだ。

でも、なんで私も一緒なのだろうか?そんな疑問を込めた目を私はソラハに向ける。

絶対、私御邪魔虫じゃない?と思う。

すると、ソラハはこそっと私に告げる。


「だって……魔物なんて出ないだろうけど、カインだけだと怖いもん。けど、ヴァニラが一緒だったら大丈夫だよ。だって、ヴァニラは村一番力が強いもの!」

(……納得いかないわね、まったく…)


ソラハの言う通りなのだ。

こう見えて私は同年代の子供の中では一番強かったりする。

獣人族は、人間に比べると身体機能が発達しやすい性質を持っている。

唯の、訓練もしていない人間の子供となら獣人の子供のほうが上と言える。

まあ、私の場合は身体機能が人間よりも発達している獣人族の血を半分得ている分、身体能力は他の人間より発達している。

私の場合は、特に腕力と脚力に優れていた。


この説明をした時、ついなのだろうけど、マナとカナはお母さん(リムル)の方に顔を向ける。その眼には「どう見ても強いようには見えないなぁ?」と含んでいた。お母さんは頬に手を添えながら「あはは…」と苦笑していた。お兄さん(惶真)は「まあ、そうだろうな…」と呟いていた。まるで最初から分かっていたというかのように。

……不思議な人だなぁ…

なんだろ?…どこか今まで会った人ともなんか違う気がする。

良く分からないけど、なんだろ?

私と同じ黒い髪。冷めた様な黒い瞳。

黒髪に黒い瞳。何でだろうか……なぜか惹かれる自分が居るのが不思議でならない。


「ん? なんだ? 何か気になる事でもあるのか?無いならいちいち見てくるな」

「……」


何でこのお兄さんは私には冷たいのだろうか?

そりゃぁ出会ってまだ数時間の関係だし仕方ないと思うけど、なんとなくお母さんには優しい気がする。

冷たい態度のお兄さんにむぅと不満気に頬を膨らませる私に、マナとカナがボソッと声を掛けてくれる。


「オウマはね、冷たい事を言ったりするけど、ここぞって時には頼りになる人だよ」

「うん、御主人様は態度に出さないけど隠れたところから手を差し伸べてくれるの」

「……信じられないなぁ」

「ヴァニラにも分かる時が来ると思うよ!」

「そうなの!」

「おい、お前ら余計な事を言ってんなよ。…お前もだ、いいから続きを話せ………まったく、余計なことを」


お母さんは戦いに向いた能力は殆どない。

獣人族の能力は子供の時期に鍛えた分が、能力強化として付加される。

私はソラハやカインと言った村の友達とよく外で遊んだりしていた。

内緒にしていたけど木剣で剣士の真似事をしたりしていた。

お母さんは子供の頃はあまり身体が強い方ではなかったようで部屋で本を読んだりしていたみたい。


まあそんな感じで、私の運動能力をあてにされたという事で森を散策する。

薄紅色の花コトノハナ森の奥にある泉に生えている。

私達は泉の奥を目指して歩いて行く。

歩いて行く最中だけど、カインはなんだか私によく話しかけて来た。

「僕、剣の腕また上がったんだ!」とか「君を超えて守れる男になる!」とか。それを聞いているソラハは面白くない顔をしていた。

嫌な空気だなぁ~とか、ソラハのお願いを受けない方が良かったかなぁ~とか思いつつ、さりげなくカインからの会話を躱しソラハに誘導するようにした。

何となく前からカインから私に対して好意の様なものを含んだ眼を向けて来るなぁと思っていた。まあ、私はカインと言うか村の男の子に対して特に思っていなかったけど。



そして泉を目指して歩き始めてしばらくして泉に着いた。


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