悪夢
流民
第1話
最近夢を見るんだ。いや、大した夢じゃない。まあ夢なんてのは覚めちまえばなんてことなかったって思えちまうもんだろ? でもな、夢の中では本当にその出来事が起こっているんじゃないかって、本当に思っちまうもんだろ? それがどんなに良い夢でも、その逆に震え上がっちまうほどの悪夢でも……
お前だって悪夢ぐらい見たことあるだろ? まあいい。とにかく俺が見た悪夢って奴をちょっと聞いてくれないか? なに、そんなに時間はかからないさ。話は単純、いたってシンプルな奴さ。まあ聞いてくれ。
大体俺が見てる悪夢って奴は同じで、始まりはいつもこうだ。
俺は他の仲間たちと家で飯を食って酒を呑んでる所から始まる。まあ、ご機嫌にやってる最中さ。そしたら突然俺の家の前に大きなトラックが止まるんだ。それで俺達はそのトラックの方を見るんだが、そのトラックからは数人の見たこともない人間が何人か降りてくるんだ。
そしたら、その人間たちが俺達に縄をつけるんだ。もちろん俺達も少しは抵抗するが、そいつらは俺達の事をよく知ってるんだろうな。だから俺達はまともな抵抗も出来ないまま、トラックの中に次々乗せられていくんだ。
トラックも屋根に幌がかぶってるだけで粗末なもんさ。まるでナチスがユダヤ人を収容所に送るみたいな感じだな。まあ、実際の所は俺もそんなものは見たことが無いから雰囲気だけで言ってるがね。まあ、そんな感じなんだ。
それでトラックは結構な長い距離を走るんだが、辿り着いた所はまた辺鄙な所さ。こんな所に何でこんな建物があるんだって思うような場所に割と立派な建物が立ってるんだ。そこに着くと俺達はトラックから降ろされるんだが、そしたら次はいきなり風呂だよ。湯船に入ってゆっくりって言う訳じゃねえ、水ぶっかけられて乱暴に身体を洗われるんだ。全く意味が解らないだろ? それで風呂から出たら今度は医者が来るんだが、その医者は俺たち一人一人をじっくり見るんだ。それで病気が無いかどうかを確認して、問題が無ければ俺達は部屋の中に入れられる。
まあそんなに大きな部屋じゃない。その部屋の中に俺達は入れられるんだ。俺達は気が気じゃない。次は何をされるんだって? お前だってそんな状況になったらそう思うだろ? 全く理不尽なもんだろ? まあ、それはいい。とにかく俺達はその部屋の中に閉じ込められるんだ。そして俺達は不安にかられながらその部屋でずっと待ってるんだが、待てど暮らせど何も起こらない。いったい何がどうなってるんだ? そう思い始めた時ちょっとずつ息苦しくなってくるんだよ。
まあ、そんなに大きな部屋じゃ無い所に結構な仲間を詰められてるんだ、寒気がよさそうな部屋でもないしな。そりゃ、息苦しくもなるだろう。なんてそれほど深く考えていなかったんだが、どうも様子がおかしい。
明らかに周りの奴らも息苦しそうにしてるんだ。そのうち苦しそうにもがきだす奴まで出てくる。そこで俺達は気づくんだ。もしかして、毒ガスか何かで部屋の中を充満してるんじゃないかってな。そして次々仲間が倒れていくそして俺もいよいよって時に俺達が入ってきた扉が開くんだ。
その時俺は助かったって思うんだが、そんなぬるい話じゃない。そいつらは俺達がちゃんと倒れてるかどうか確認しに来ただけなんだ。
で、俺を除く他のやつらは死んでるか、気を失ったような状態。実際俺自身ももうほとんど意識が無いような状態なんだよ。それで、そいつらその後どうすると思う? ここからが本当の悪夢さ……
俺達の身体を切り裂いていくんだ、それも身体からすべての血を抜き去るかのように太い血管を狙ってね。それで、さあ次は俺の番ってところでようやく眼が覚める。
まあ、こんな夢さ。全く、悪夢っていうのは何でこうも無茶苦茶なんだろうね? まあ、夢だからどこか安心していられるところもあるんだけどな。
まあ、実際こんな事が起こったらって思うと心底肝が冷えると思わないか? お前もそう思うだろ? ほんとにな~、人間って奴は本当に怖い生きもんだよな。実際に俺達牛にそんな事しそうだもんな人間は。あー怖い怖い。
悪夢 流民 @ruminn
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