第20話

「……来たか。ツィーシー騎国の騎士どもよ……」

 暗い玉座の間で、ヘイグがぽつりと呟きました。そして、彼はゆっくりと顔を上げ、正面の扉を見据えます。扉の外から足音が聞こえます。足音は扉の前で止み、代わりに鉄の扉が開く軋んだ音が聞こえました。

 扉が開き、二人の剣士……いえ、騎士が姿を現しました。ティグと、フィルです。二人の姿をよく見る為に、ヘイグは指を軽く振りました。壁際の蝋燭達に一気に火がともり、部屋の中が明るくなります。

「ヘイグ!」

 ヘイグの存在を視認したティグが、叫びました。ヘイグを睨みつけるその姿に、ヘイグは楽しそうに顔を歪めます。

「久しいな、元ツィーシー騎国領の若き騎士。あれだけの目に遭っておきながら再びここを訪れるとは……根性だけは人並み以上にあるようだな」

「黙れ! 今度は、以前のようにはいかないぞ!」

 ティグが剣を抜き放ち、ティグの後ろにいたフィルが一歩前に進み出ます。そのフィルの姿を目にして、ヘイグは珍しい物を見たように楽しそうに笑いました。

「誰かと思えば……あの時の騎士か。何年も姿を見せないからてっきり諦めたものだとばかり思っていたが……」

「機を窺っていたに過ぎん! 今度こそ、お前の手から姫様を救い出す!」

 フィルもまた、セフィルタを鞘から抜きました。銀の刃が、蝋燭の炎にきらりと光ります。

「聖剣セフィルタか……。歳老いたお前がその剣を持っている様を見ると、あの時を思い出すようだな」

 そう言ってから、ヘイグはふと思い出したように問いました。

「セフィルタと言えば、あの娘……ゼクセディオンの血を引く者はどうした? またどこぞやに逃げ道でも掘っているのか?」

 パルの事を言っている、とティグはすぐにわかりました。サウヴァードの攻撃からティグを助け出したあの短い時間で、ヘイグにはパルがセオ・フィルグ・ゼクセディオンの血縁者だとわかったのでしょう。パルを馬鹿にしたようなヘイグの口ぶりに、ティグは少々ムッとしました。

「パルにはパルの考えがあってやってる事だ。逃げ道を掘ってようが何をしていようが、お前に何か言われる筋合いは無い!」

 ティグがきっぱりと言い切ると、ヘイグはまたも楽しそうに笑います。

「相変わらず威勢が良いな、若き騎士。その顔を再び恐怖で歪める事ができると思うと、心が躍るようだ」

 その言葉にティグは顔を顰め、無言で剣を構えました。フィルもまた、負傷していない右腕だけでセフィルタを構えます。

 二人が同時に、床を蹴りました。散開し、別々の方角からヘイグに攻撃をしかけようと試みます。それに慌てる事無く、ヘイグは右腕を掲げます。

 獣の咆哮が、玉座の間に響き渡りました。

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