第25話

「やっぱりぃ、宮間クンってぇ、チョーカッコイイですねっ!

そのお洋服もオシャレでチョー似合ってるしぃ!」


「そ、そんなことないよ……地味だし……」

 僕が着ているのは、白いシャツと黒のジャケットに同色のジーンズという、地味な洋服だった。

 あまり目立つことが好きじゃない僕は、いつもモノトーンな感じの服装ばかりだ。


「宮間クンが着たら、どんな格好でも似合っちゃいますよぉ。

 むしろカッコイイからシンプルな方が素敵なんですぅ!」


「遥さんも、その服装似合ってると思うよ」


「えぇ? ホントですかぁ?? キャー!! ヤダー!!

宮間クンに褒められちゃったぁ、どーしよーっ!! キャー!!」


「ははは……」


 遥さんは、ピンクの花柄のワンピースに白い帽子という、意外に清楚な感じのする服装だった。

 学校ではポニーテールにしている髪も下ろして、肩にかかっている。

 てっきり普段は、もっと不思議ちゃん的な、奇抜な格好をしているんじゃないかと思ってたけど……。


「あ、でも……余計なことかもしれないけど、その眼鏡は外さないんだね。

 その服装なら、コンタクトとかにしたほうが似合いそうな気がするな……」


 いつもの赤い縁の眼鏡が、今日の遥さんの格好には少し浮いている感じがして、

僕はついそんなことを言ってしまった。すると、


「う、うん。そう……だね。本当だよね。……ごめん、宮間クン……」

 遥さんは、いつもの彼女からは想像できないような、とても寂しげな顔をして静かに答えた。


「え?! い、いや、ぼ、僕の方こそごめん! そ、そういうつもりじゃなくって、

め、眼鏡も似合ってるよ。僕の勘違いだから、本当にごめん!」

そんな遥さんを見て、すっかり狼狽してしまった僕が、思わず必死で弁明を始めると、


「クス……クスクス」

遥さんが急に下を向いて、肩を揺らし始めた。


「は……遥さん?」


「あは、あははっ! もうっ、宮間クンって本当に良い人なんですねっ! 嘘ですよっ、う・そ!」


「――っ!? う、嘘?! ひ、ひどいよ遥さん!」


「あはははっ、だ、だって、可笑しいですぅ……」

 遥さんは、笑いすぎて目に涙を溜めている。


「も、もう。なんて人なんだよ、遥さんは。全く……」


「えへへ、ごめんなさぁ~いっ! でもぉ、そんな宮間クンってやっぱり素敵ですよぉ!」

 そう言って顔を上げた遥さんは、いつものイタズラっぽい笑顔に戻っていた。そして、


「じゃあ、行きましょっ、宮間クンっ」

 そう言いながら、僕の腕に自分の腕をグイっと絡めて歩き始めた。


「ち、ちょっと、い、行くってどこへ?」

と、僕が少し不安になって聞くと、


「それはぁ……わっかりっません~っ!」

と、ウキウキしながら答えた。


「わ、分からないって……」

 その返答に、僕は思わず脱力した。

 一体彼女は何を考えているのか、それこそが僕にはさっぱり分からない。だけど、


 ――それにも関わらず……何故だろうか。

 さっき、眼鏡の話をした時の遥さんの表情だけは、今考えても、やはり演技とは思えないのだった。

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