第1話 プロローグ

《どうしてこうなってしまったのだろうか…》



 高さ2メートル程のステージの中央から辺りを見回すと、星の数ほどの人がサイリウムや、ペンライトなどを持ち、この薄暗闇の中を“光”を灯して俺たちメンバーを応援してくれている。


そして、何よりもこれから始まる演奏を心待ちにしているんだ。



「ーー うっ… 」



メンバーの1人1人を照らすスポットライトがあまりにも眩しく、ギターのネックを握っている手とは反対の手で、光を遮るように目の上にかざす。


その強い光のおかげで観客の顔はほとんどよく見えない。まあ、もし見えていたら緊張してしまって声が出ず、歌えないだろうから…


息を長く吐き出して呼吸を整えていると、後ろから「ユウ!」と俺の名前が呼ばれる。


そちらに目を向けるとドラム越しの『マシュ』が笑顔で頷く。


視線を横にズラすと、俺の隣にはいつでもイケると言わんばかりにベースを傾けた『ヨシヤ』が大きく頷く。


ステージの上手側に立っている『ショウちゃん』は長い髪の毛の間から、ギラギラした目で客席に睨みを利かせている。


そして俺の隣には、少し露出が多い気がするステージ衣装をバッチリ着こなした『ミュア』が軽くウインクをした後に、口パクでガンバレと言っている… 大きなお世話だ。


 頭を正面に戻し、短く息を吐いて気持ちを落ち着かせた後、頭をすっぽり覆っているお面を軽く持ち上げて位置を整える。


もう一度、今度は深く息を吐くと、身体の中心から声を出すように音色を奏でいく。

柔らかいギターの音色と交わり、ここに新しい世界が創り出されていく…


そして声を張り上げた瞬間、全てがひとつになり新しい世界が始まる。


メロディーと演奏、そしてメンバーの気持ちと、ここにいる全ての人たちの心と…







……


………






視界が暗くなり、静寂に包まれる。

目を上げると客席から大歓声が大波のように一気に押し寄せてきた。



ーー あぁ、終わったのか…




「お疲れさま!」



溢れんばかりの笑顔で、ミュアが俺の元に駆け寄ってくるのを合図に、メンバー全員が中央に集まり横並びになって、「せーの!」の合図で深くお辞儀をすると、またしても大歓声の大波が客席から押し寄せてくる。


言葉にできないような達成感と充実感が全身に広がるが、直ぐにそれは疲労感と倦怠感に変わってしまった。


今にも崩れ落ちそうな身体を支えながら楽屋に戻って来ると、倒れ込むように椅子に腰掛けた。



「あ~…」



尻と椅子がくっ付いていて離れない。疲労感が全身を支配していて、目を閉じたらそのまま眠ってしまいそうだ。


そんな時でも、やっぱり思うのは…



「どーしてこうなったんだろう…」



「ユウ、声に出てるぞ」



 と、マシュが汗をタオルで拭きながら突っ込んでくる。



「まーだそんなこと言ってるし」



と、ミュアが俺の顔を覗き込みながら言うが近いから離れてください。



「それで、アンコールどうする?」


 

座って汗を拭いているヨシヤが、楽屋にまで聞こえているアンコールについてメンバーに問い掛けてくる。


もちろん選択肢はひとつだ。



「アンコールはやめ…「「「やろーう!!」」」


「ですよねー… 」



どうやらみんなやる気みたい、うん、ダメみたい。


いつまでも立ち上がらない俺の両手を、メンバーが引っ張り、またあのステージへ連れ戻す。



「こうなったら、もうどうにでもなれーッ!!」



スポットライトと歓声が広がるステージへ向かいながら思う事は…


またしてもほんと…



「どーしてこうなったんだろうか… 」

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