マローブルー

白鳥碧

第1話 夕焼けの再会

 藍色の花びらが、湯の中で舞っている。

 それをティーカップにゆっくり注ぎ入れると、鮮やかな青色に染まっていく。

 朝焼けから朝日が昇る様に見えるこの紅茶は、別名「夜明けのハーブ」と呼ばれている。普段であれば、レモン果汁を数滴ほど垂らして、朝日に近い桃色に変えるのだけど。

 リビングテーブルの上にそれを置いて、茉莉の様子を見る。

 トレードマークであるお得意のグレーのベレー帽を脱ぐと、頭の天辺から伸びている長い黒い髪の毛を左右に分けるように流した。

「このお茶は、どうして青いの?」茉莉は言いながら、一人掛けの椅子に腰をかけた。

 再会が二年ぶりなんて、嘘のようだった。

「ブルーマロウっていう、紅茶。花びらが青いから、紅茶の色も青くなるんだよ」

 傍に置いてある電気ヒーターのボタンを点ける。

「何、それ。ほんと、裕二って、女みたいね」

「れっきとした男だけど」

「言い返すなんて、れっきとした女の子って感じ」

 昔であったら、茉莉の嫌みに、心底、傷ついただろう。

 そう、昔であれば。

 月日が経ち、些細なことでは動じなくなった。

 電気ヒーターが回転して部屋を温めていると、茉莉は靴下を脱ぎ始めた。それは紺色の黒猫模様であって、二十五歳という年にしてみれば少々幼稚に見えたが、なぜだか、強く心惹かれるものがあった。付き合う前から、茉莉はそういう人間だった。友人グループの輪の中にいても、異彩を放って見えた。

 特に目立つタイプに属している訳ではないのに、光り輝く何かを、手にしているのだ。それは艶やかな長い髪の毛だったり、時よりだしてくる甘えるような猫撫で声だったり、簡単にいえば、そういうことだ。

 人とは違った「個性」を茉莉は、手にしていた。

 顔だって、別に個性があるとも思えない。寧ろ、地味な方に属する。でも、どこか、どこかが、周りとは違った。

 自分の中にある螺旋状の琴線を常に触れさせてくれる茉莉の存在に、いつしか好意を抱いていた。

 退屈しのぎで、なんとなく人生を渡り歩いていた僕にとって、茉莉は、普通に囚われない魅力があった。

 なんでも挑戦してやる、という底抜けのバイタリティ溢れる、一歩間違えると、ただの非常識人間だともいえる行為が、なぜか、強い生命力に思えたのだ。本当にこの子は、生きているのだろうか。

 いや、どこかで、蘇ったのではないだろうか。

 茉莉の視線は普通の人間の一歩先にあって、何事にも囚われなかった。

 この世の常識や、世間体といったものを。

 そんなもの、おかまいなしに何事にも挑戦する姿勢が、見ていてハラハラさせられると同時に、爽快でもあった。

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