妹は猫やってます。[改稿前]
雪竹葵
プロローグ
俺には1つ下の妹がいる。名前は
今年の春から俺と同じ高校に入学してきて、しかも理系選抜クラスに選ばれたエリートだ。
ここまで聞けば「理想的な妹だ!」と思うかもしれない。ただ1つだけ、問題があるのだ。
「お兄ちゃん、どこ~?」
授業中にいきなり俺の教室のドアがバンと開き、猫耳美少女が現れてそう言った。クラス全員の視線がそちらに向く。俺は頭を抱えたくなった。間違いない。俺の妹だ。
「自己紹介が遅れました!1年H組の
イタタタタ。まじで痛い。俺の妹だと思いたくない。助けて神様。Oh, my god!
「西沢、ご指名だ。行ってやれ」
廊下の隅まで引っ張ったところで手を離す。俺のおかげで少しは身長伸びたんじゃね?
「うみゃー、痛かったあ…」
「何の用だ、授業妨害魔」
「授業なんてお兄ちゃんに比べたら重要度めちゃくちゃ低いでしょ…にゃん」
「いいから用件をさっさと言え」
俺が目からビームを出しそうな勢いの強い眼光で彩を睨み付けると、彩はしゅんとなって話し始めた。
「そんなに怒らなくてもいいのに…。彩にゃんはお兄ちゃんのためを思って」
「そういう説明いらないから。さっさと本題入れよこの猫耳」
「猫耳の何が悪いって言うの!?猫耳は最強でしょ!女子の魅力を最大限に引き出し、さらにそこに猫属性を追加する。つまり、これ1つで男子にモテモテになれるんだよ!?」
いけない、彩の謎やる気スイッチ押してしまったようだ。
てか、一体どこが「つまり」なのか全く理解できない。確かに猫耳は可愛いと思う。彩みたいな美少女が付けているのなら尚更だと俺は思う。
だが、可愛い要素がプラスされたくらいで果たして男子がそいつに好意を抱くことがあるのだろうか?
おそらく答えはノーだ。美少女+可愛い=上級美少女となるだけだ。ちなみに上級美少女ってのは今俺が適当に考えた。
美少女というだけで自分との距離感をどうしても俺は感じてしまう。こいつは俺の住む世界とは違う世界に生きているのだと認識してしまう。
ならば上級美少女ともなると、それをより一層強く感じてしまうのではないか。自分とあまりにも遠い存在ともなれば、触れてしまうことすら
俺は妹だからという理由だけで実際に猫耳美少女と会話をできるわけだが、やはりそれでもふとそう思ってしまうときはある。俺は彩の兄で本当に良かったのだろうか、釣り合う存在ではないのではないかと。
だから、俺は彩との距離感を保つようにしている。お互いにあまり干渉し合わない関係ならば、あまりそういうことを意識しなくて済むと俺は思うのだ。彩自身も心のどこかで俺との距離感を感じてしまわないことにも繋がるはずだ。
もしかしたらこの距離感が、最も近い俺と妹との距離なのかもしれない。
「ねえ、お兄ちゃん聞いてるの?」
「ああ、悪い。考え事してた」
彩は俺が考えている間もずっと猫耳の魅力について語っていたらしい。俺なんて猫耳から開始してオチは妹との距離感だぞ。何を目的として考えていたのか俺自身もわからない。
「というか、結局何のために俺を呼んだんだ?」
「あ、それはね、お兄ちゃんを予約しに来たの」
「おい待て。意味が分からない。何で俺が予約されなきゃならないんだ?俺はホストじゃないぞ」
「だって、昼休みになってからお兄ちゃんの教室行っても毎回居ないんだもん。予約しておかないとまたどこかに消えちゃうでしょ」
授業後すぐに食堂に行っているだけだ。昼休み開始直後にすぐ食堂に行かないとすぐに行列が形成されてしまい、並ぶ時間が長くなってしまうからだ。特に1学年の奴らはダッシュで食堂に向かって行ったりする。まるで突進してくるサイのようだ。怖い。
結論。人間の食欲というものは恐ろしい。
「何?つまり昼休み始まっても教室に居ろと?」
食堂早めに行かないと日替わり定食なくなっちまうだろ。確か今日はザンマヨ丼。ほくほくのご飯の上にザンギをのせ、マヨネーズをたっぷりかけた
てか、ザンギと唐揚げの違いって何?字面以外同じじゃね?方言的なものなのだろうか。
「いやいや、彩はお兄ちゃんと一緒にお昼ご飯をニャンニャンしたいだけだよ」
「お昼ご飯を」という言葉を抜いてしまったら完全にいけない言葉になっちゃいますよね。深夜に放送してそうな雰囲気。
というかご飯をニャンニャンするって何だよ…。普通に食べるって言えよ…。
「で、どこで?」
相手しているのもだいぶ面倒くさくなってきました、はい。おそらくひどく雑に質問していたと思う。
「屋上で二人っきりがいいかにゃーと」
良くねえ!この年齢になってご飯一緒に食べる兄妹ってどうよ。ただのブラコンとシスコンじゃねーか。周りの奴らの目を気にしろよ。
「彩。俺たち何歳かわかってるか?」
「彩にゃんが15歳でお兄ちゃんが16歳。それがどうかしたの?」
ダメだ。全く今の質問の意図を理解していらっしゃらない。
「いや、何でもない…」
俺の返答を聞いて彩は少し不思議そうな顔をした。
どうする俺。どうやったら彩との2人きりのお食事会を避けられる?考えろ。考えろ。考えろ。
思い浮かばねー!!
「お兄ちゃん、何かあった?」
一生懸命考えを巡らせていたら妹に本気で心配されちゃった俺。
あなたのことで悩んでるんですよ、とか間違っても声には出せない。今現在の距離感を変えてはいけない。
「何があっても彩にゃんはお兄ちゃんの味方だよ?お兄ちゃんが大好きだもん」
この妹は本当によくこういうことを言ってくる。本気なのかどうかは俺にはわからない。
「ああ、ありがとな」
お礼を言い、彩の猫耳付きの頭の上に手をポンと乗せると、彩は嬉しそうな顔をした。
やはり彩との距離感は今のままでいい。僅かでも遠くなったり、近くなったりすることがあってはいけない。
互いに傷付かない距離でもあり、互いに知っている距離でもある。俺と彩の適切な距離。今はこの距離感が心地良い。
チャイムが鳴り、教室からわっと生徒が出てくる。彩の後ろに大きな人影が現れる。ん?人影?
「
人影は朝山先生でした。モ●スターボールに収まっているほのおタイプのやつではなかった。
「あの…、俺は関係ないんじゃ…」
何とか朝山先生から逃れようとする。彩とも逃れてザンマヨ丼食べられるし。わあ、俺最低。
「昔から兄は妹の責任を負うものだ。つまり共犯だ、共犯」
そんなの聞いたことねえよ。上司と部下の関係と兄妹の関係は別物だろうが。
「まあ、詳しい話は職員室で聞こうじゃないか。兄妹」
警察に連行されたときの犯人の気持ちが少しわかった気がした。
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