Episode Ⅻ


「…え…青木、くん…?なん、で…」


足が自然と後ろに下がる。


「…あ…あの…私、家に戻らなきゃ…」


後ろ向きにドアを開け、逃げようとしたその時、


「逃がさないよ」


バン、とドアが閉められた。


「嫌、だ…なんで、ここに、いるの……?」

「それはこっちのセリフなんだけど」


嫌だ、恐い、助けて。


「ハ、ル…!助け、てっ…!」


「ハルなんて来ないよ。収録中だし」

「やめ、て…助けてっ…お願い…!」


バン、と両手首を壁に押し付けられた。


「なんでここにただいま、って帰ってくるの?」

「そ、れは…」


「何。同棲してんの?高校生のくせに」

「違っ…ただ…」


恐い。

恐い、助けて。


「永瀬、に…無理やり連れてこられて…」

「…ふーん…それで笑顔でただいま、ねぇ…」


「っ、ヤダ…お願い、離して…」

「……ナチは、どうしてレイを恋愛対象として見ていなかった?」

「は、い…?」


「…来い」


「い、やっ…離してっ、お願い!どこにっ…!」


必死に抵抗するも私の力では到底適うわけがなく。

無理やり車に連れ込まれた。


「……っ、これ…誘拐、だよ……?」


何も答えない。

一体この男は何を考えているの?

私をどうしたいの?


また…


「…帰して、ください…私を家に…」

「……」


安心感が生まれてしまうのは、きっとレイだから。

この人が私とずっと一緒にいてくれたから。


「…私、永瀬の所に戻らなきゃ…」

「なんで?なんで水魅なんかの所に帰るの?」


でも、恐い。

無理やりに心の扉をこじ開けようとしてくる。


「…ハル、だから…」

「じゃあ俺がレイだから怖いって言うのか?」


「だっ、て…私はあなたのせいで…」


死んだ。

レイのせいでナチは自殺してしまった。


「そんなの逆恨みじゃん。レイプされたから自殺した。ただそれだけだし「女の子にとってはっ!!」


思わず大声を出した。


「…女の子にとっては、すごく傷ついて、悲しくて…好きな人じゃない人に無理やりにされる、なんて…痛いんだよ」

「…んなこと知らねーし」


彼はレイプ犯。

彼はなんといおうが危険人物。



「…私は、絶対あんたなんかを好きになれない」



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運命の人がとんでもないドS野郎だった件について。 青南 @aomina

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